第34話 ボーンズ対アラン
隣国であるリンデールの町で生まれ育ったボーンズにとって、ベルトリアは決して好ましくなかった。
強権的な政治と周辺国への圧力。世界中が魔物に脅かされるのに、ベルトリアだけは守られている。そのことも腑に落ちなかった。
なのに、今ベルトリアを守るために戦おうとしている。
おかしな状況だ、と自嘲する。
だが、不思議と気分は悪くはなかった。
仲間の存在だ。
愛する妻のサリーと、自分とは親子ほども離れた二人の女の子。
自分達の町を救ってくれた二人を、年下なのに「姐さん」と呼び慕う。
その二人が必要な「マデリーンの手記」。
それを手にするために、わだかまりを捨ててベルトリアのために戦うこともやぶさかでない。
自分を助けてくれた人達のためであれば、細かいこだわりなど皆無。
ボーンズはそういう人間だった。
アランは立ち上がりながらボーンズを見た。
ベルトリアの軍人ではない。簡素な鎧と電撃を帯びた槍。何より後ろにいる天使の姿。
こんな奴がいるなんて聞いていない。
「ぐっ……。」
さっきの攻撃は、あの槍から放たれたものだろう。凄まじい威力で、アームド・スーツを纏っていなければ昏倒していただろう。
「皆さん、早く逃げて!」
ボーンズが叫ぶ。
高官達が情けなく建物の奥に逃げていく姿を、アランは追うことができない。
「さて……。」
ボーンズが槍を構え直した。
アランもアームド・スーツを起動し、再び浮上する。
「何者かは知らんが邪魔はさせん。」
エーテル銃を持ち直し、ボーンズに向けて放った。
一瞬で数十人を焼き殺す熱線が放たれる……はずだった。
「があっ!」
アランは苦痛の声を上げて、エーテル銃を地面に落とした。
「読みどおり……。マジですげえっスよ、レン姐さん!」
放たれる直前、ボーンズの槍から放たれたのは氷属性の一閃。
その瞬間を待っていたかのようにエーテル銃を持った右手を撃ちぬいた。
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―少し前―
「魔工兵器ってどんなのがあるの?」
王宮を出る前、私はレンに尋ねた。
「実装化されているのは、私が知る限り3種類です。」
「一つはエーテル銃だよね。あとは?」
「アームド・スーツとアストラル砲です。アームド・スーツは身体能力を著しく高める全身鎧で、アストラル砲は、ガトリング砲のような形で、物質を破壊する光線を秒間数十発放つものです。」
「げっ……えぐいっスね。それ。」
「マリアが使ってたサイレントブラスターは?」
「あれは量産されていないはずです。何故彼女が持っているのかは分かりませんが。」
レン姐さんは考えていた。
「おそらく相手の最後の狙いは王宮のはずです。強力な防壁と大勢の軍を配置していますから突破は困難。だから、考えられるのはアストラル砲を複数持った部隊を編成して、奇襲的に攻めてくる……と思います。」
「ベルトリア側はそれに耐えられるの?」
「相手が全ての犠牲を顧みず、少数でも王宮に入ることだけを狙ってくるのであれば、突破される可能性はあります。」
私は立ち止まった。
「王宮内では流石に軍も弱いよね。」
「はい。それに向こうは魔工兵器で武装を固めて、単騎でも打開できる形で来るでしょう。こちらも個で対応できる人が必要です。そこはアデルさんがいるので……」
「いや、アデルの兄さんは分からないっスね。」
ボーンズが口を挟んだ。
「兄さんはあのジュストって奴の専属ガードのような扱いでした。俺は、どうもジュストってのが信用できないんスよね。あいつ、自分だけ助かればいいと思ってるような気がして……。もし王宮が攻め落とされても自分だけ兄さんに守護させるんじゃないかって。」
「うーん。分からなくもないけど。でも、魔工兵器と一人で戦えるような強力な兵って王宮にいるのかな?」
「それは分からないですね……。」
レンもベルトリア側の戦力を読みかねていた。
「じゃあ、俺が残りますよ。」
「は?」
ボーンズの突拍子もない発言に私は思わず口をあんぐりと開いた。
「ええ~?何スかその反応。」
「いや、自分がベルトリア兵より強いと思ってんの?」
「エ、エリンさん。ボーンズさんは強いですよ!」
流石に失礼と思ったのか、レンが慌ててフォローする。
「いやあ、俺もちょっと強くなってきたと思ってまして。万が一防壁が突破されたら、王宮の人らを守らないとってね。」
「サリーさんはどうなの?」
ボーンズの後ろにいるサリーも首を縦に振った。
「そうか。サリーさんの意志なんだね。」
「ちょいちょい~!俺発信ですよ!」
おどける私に比べ、レンは不安そうだった。
「ボーンズさん。魔工兵器は危険です。逃げられないほど広範囲を攻撃し、殺傷能力も通常の武器の比ではありません。武器ではなく兵器と言われるくらいなので……。」
「そうっスね……分かってるつもりっスよ。レン姐さん。で、何かいい戦術あります?」
ボーンズがへらっとした感じで聞いた。イマイチ心配だなと私は思った。
「もし相手が単騎で、こちらに気づいていなければ、雷で思い切り貫いてください。」
「おお~。」
「アームド・スーツで飛び回られたら圧倒的に不利です。機能を停止……できなくても低下させることができれば、展開は全く違います。」
「はいはい。」
雲を掴むようなボーンズの返事にレンも心配そうだ。
「エーテル銃を構えてきたら、氷で撃ちぬいてください。強力ですが熱線ですから、氷が有用です。」
「なるほど~。」
ボーンズは頷いた。
「それらが上手くいった場合、魔工兵器を使わせないように立ち回ってください。でも、それでようやく対等な状態です。……もし単騎じゃなかったり、アストラル砲を持っている場合は、絶対に逃げてください。」
心配そうなレンの様子を見て、ボーンズもおどけた様子はなかった。
「ええ。ありがとうございます。レン姐さん。」
最後に、レンは何か魔法を唱えた。
「マデリーンには遠く及びませんが、防御魔法です。」
「はは。レン姐さんはマジで優しいっすね……。」
レン姐さん「は」って何だよ。
「それじゃ、生きて再会しよう。」
「そっちもお気をつけて。」
私とレンは、ボーンズとサリーと別れ、マリアの元に向かった。
残されたボーンズは、後ろで微笑むサリーに話しかけた。
「ははは。カッコつけるのは俺らしくないな。でもサリー。マリアって奴を捕まえてもセント・ウォールが壊滅するわけじゃないからな。」
サリーは頷いた。そこには夫に対する深い愛情が浮かんでいた。
「首魁はアランだ。セント・ウォールは必ずこいつを生かしてくる。そこで倒せば、ベルトリアに大いに恩を売ることができる。あのジュストって奴も文句ないだろう。」
二人で笑い合った。
「いやさあ~可哀想じゃないっスか。エリン姐さんもレン姐さんも二人とも若くて人助けしてんのに、金がないとか、落ち着く場所もないとかさ。ここは大人が一肌脱いでやるっスよ。」
照れ臭そうに笑うボーンズを、サリーは優しく見守った。
自分の愛する夫を心から誇りに思った。
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エーテル銃を叩き落としたまでは戦術どおりだ。
でも、アームド・スーツは健在だった。
「くっ……。厄介だな、その槍。」
再び宙に浮いたアランは、アームド・スーツのエンジンを全開にした。
「壊させてもらうぜ。」
「サリー!もう一度雷……」
唱える暇もなく、次の瞬間、アランが高速で突っ込んできた。
「ぐっ!」
寸でのところで槍を立てて、体当たりを防ぐ。
だが、その威力で部屋の奥まで吹き飛ばされた。
「まじかよ……。」
痺れて、槍を持つ手が覚束ない。
アランはさらに飛び回り、高官が落としたであろう短剣を手に取った。
銀色の輝きがボーンズの姿を映す。
「確実に仕留めさせてもらう。」
そして、アランは再び加速した。
「このっ!」
ボーンズは槍を脇に挟み、前方に向けた。
「サリー!霧だ!」
サリーが詠唱すると、あたり一面が霧に包まれた。
視界が遮られたアランは、ボーンズの姿を見失い、停止した。
「ちっ。」
辺りを見回すが、霧に隠れて気配が消えている。
「槍の男からは見えているかもしれん。このままでは危険か。」
アランは壁を蹴り破り、部屋の外に出た。
霧が晴れ、徐々に部屋の中が鮮明になっていく。
そこにボーンズの姿はなかった。
「逃げたか?否……!」
取り囲んできた兵隊達を蹴散らしながら、ボーンズを探す。
「奴の武器は属性を纏わせた槍。見渡してもいない……。」
アランは気づいた。
「上か!」
部屋の天井へと張り付いたボーンズの姿を捉えた。
だが、一歩遅い。
「水だ!サリー!」
その声と共に水の固まりがアランを直撃した。
水圧に押され、窒息しかける。
「ぐぼっ……おおぉっ!!」
アームド・スーツを無理に起動させ、ボーンズの方へ飛ぶ。
「やべっ……!」
身構える暇もなく、強烈な蹴りがボーンズの腹部に入った。
アームド・スーツの強度に加え、加速が入った一撃。
ボーンズの身体は地面に叩き落された。
「ぐはっ……はあっ、はあっ……。」
胃にこみ上げる強烈な痛みと不快感がボーンズを襲った。
だが、生きている。動ける。骨も折れていない。
「レン姐さんの防御魔法のお陰だな……。サリー、じゃあ、もういっちょ頼むぜ。」
アランは再度短剣を構える。
高速で飛び回るアームド・スーツを捉える術はない。霧はもう通じないだろう。
「はあ、はあっ……くそっ、こんなところで……。」
アランもまたダメージを負っていた。息が乱れ、身体中が痛む。
アームド・スーツの負荷に耐えながら、ボーンズの攻撃も受けているのだ。
彼もまた限界が近い。
だが、アランは飛んだ。
部屋を旋回し、ボーンズへと高速で向かう。
「だおぉぉ!」
突き出した短剣は、ボーンズの胸……の下に僅かに逸れた。
「がっ!」
身体をよじらせたボーンズは、致命傷を避けたものの、短剣を腹部に刺された。
「サリー!」
瞬間、サリーの詠唱が響く。
地面に置いた槍から雷が走り、アランを捉えた。
「ぐああっ!?」
アームド・スーツがバチバチと音を立て、アランは床に落ちた。
「へへへ……水と霧をたっぷり浴びせといて良かったなあ。」
完全に機能を失ったアームド・スーツを脱ぎ捨て、アランは這いつくばった。
「く、くそっ……。」
一方、ボーンズも動くことができない。
槍に手を伸ばすが、身体に上手く力が入らない。
「あ……」
運命の悪戯か。
アランの倒れた傍には、エーテル銃が落ちていた。
「しまった……。」
這いつくばって手を伸ばしたアランの右手に、エーテル銃が収まった。
「見事だ……。だが……。」
震える手でアランがエーテル銃をボーンズに向ける。
緑色に輝く銃身がボーンズを捉える。
……破損はしたが完全に壊れてはいなかった。
身体に力が入らない。
サリーが必死で詠唱をするが、ボーンズは身動きを取れなかった。
「やべえっスね……。」
あいつの方が少しだけ、気持ちが勝っていたのかもしれない。
生きるより、死んでも成し遂げようとする気持ちが。
ボーンズはそんなことを思いながら、全身の力が抜けていくのを感じた。
おっさんだけしか出ていない話になってしまいました……




