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壊れた世界の還し方〜不死身のエリンと、癒しのレン〜  作者: 佐藤 要


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第30.5話 神々の戯れ その2


 ※お時間がありましたら、先に3.5話をお読みいただくと非常にスムーズです。



 毎月第4月曜日の朝10時。

 転生の女神カヘルは、この時間が最も憂鬱だった。


「定刻になりましたので、本日のヴァジュナール運営会議を始めます。」

 老齢の男性の姿をした神の一人が、淡々とした声で開会を告げる。


 ヴァジュナールの重要神が集まる月に二度の運営会議。

 せめて月一開催にならないものか。



「本日はワイズマン議長が別の世界の事案で遅れるため、進行はマハリ神にお願いしたいと思います。」


 さぼりやがった!

 カヘルは思わず心の中で突っ込んだ。

 中性的な容姿をした運命の神マハリが疲れた顔で手を挙げた。

 ワイズマンの都合のしわ寄せはいつも彼に行く。


「はい、ご指名を受けて進行をさせていただきます。よろしくお願いいたします。では、議事に入ります。審議事項の1「平定の神キタイの蘇生について」。これは私からですね。」


 自分で進めて自分で説明する。たまにあるが滑稽な姿だ。


「状況はこれまでと特に変わりはありません。キタイ神の精神は見つからないままです。これについてはワイズマン神からカヘル神に伝言があります。「例の転生者に探させることはどうなった?」とのことです。」


 忘れていなかったか!

 カヘルは天にいながら天を仰いだ。

 数カ月放っておいて何も言われなかったから自分も忘れていたのだが。


「動いてます、と伝えてください。どっかで聞いてるだろうけど。」


 その場に居なくても把握してるだろうし、カヘルの考えも筒抜けだろうが、敢えて言っておいた。


「皆様は如何でしょうか。」

「状況変わらないのに、毎月審議する意味があるのでしょうか。」


 海の神が手を挙げた。

 見た目は半裸の少年だが、結構な古株でねちっこい。正直カヘルは苦手だった。


「すいません。次回からは変化があった場合のみにいたします。」


 いちいち頭を下げるマハリ神には少し同情する。

 一応、この世界においてはワイズマンに次ぐ席なのだから、もっと偉そうにしてもいいと思うのだが。


「それでは、審議事項2「フルベングの救済について」。これも継続案件ですね。ジュノー神お願いします。」

「はーい。」


 おっとりした聖愛の女神ジュノーが手を挙げる。


「状況はかなり良くないです~。流出した魔力を国内に留め置くことが難しくなってきて、世界のあちこちに影響が出てます~。このままではフルベングだけでなく、世界中が悪くなっていきます~。」

「うーん。ハルバートはどうです?」

「助けるどころか、これに乗じて優位を取ろうと企てているっぽいです~。」

「どうしたらいいですかね……。」


 マハリ神は頭を悩ませていた。

 こういう時にビシッと言えないのがワイズマンとの違いだ。

 まあ、ワイズマンは強引すぎるので両極端なのだけど。


「例の転生者は何やってるんですか?この件こそ彼女の責任で対応すべきだと思いますけど。どうなんですか、カヘル神。」


 海の神がカヘルの方を見ながら言った。


「私もそうして欲しいですが、意図と違う動きをしています。」

「いや、じゃあ軌道修正してくださいよ。」

「ワイズマン神が干渉するなと言うので。」


 海の神は呆れたように腕組みをして溜息を吐いた。

 フキハラだぞ、おい、と言いたかったが堪えた。


「直接介入が出来ない以上、短期的な方策として可能なのは、既存の転生者を使うか、新たな転生者を選定してその役割を担わせるか、ですかね。長期的には、課題解決型の新たな可変種の開発・投入も考えられます。」

「可変種は期待低いですよ。30年前から発展した種っているんですか?結局、人間一強じゃないですか。」

「社会性を持たせたグラーフ種が小国家的な規模の集落を作っています。極寒の地でも生きていける強靭さが人間との差別化に成功しているので、将来的に人間と競合するんじゃないかと。だから、あの、成果はそこそこ出ています。」


 マハリ神が慌てて説明した。

 可変種の管理も彼の仕事だ。

 この世界の管理、業務量的にどうも偏りが大きい。


「何でもいいですから~、何とかしないと~。ね、カヘル神。」

「……分かりました。」


 ジュノーの話し方がいちいち癇に障るので、カヘルはぶっきらぼうに答えた。


「いや、具体的にどうするんですか?」


 また海の神だ。本当になんとかならんかコイツ、とカヘルはげんなりした。


「規模が大きくて個人では対応が難しいと思うんです。だから、今パッと思っただけなんですけど……。」


 一旦前置きを入れてカヘルは始めた。


「やっぱりハルバートが対処すべきだと思うんです。国家規模じゃないと無理ですよ。で、一案なんですけど、例の転生者が入れ込んでいる娘がいて、この娘がハルバート出身なんですね。色々あって断絶しているみたいだけど、元はそこそこの立場だったみたいなんです。次の事項の資料見ましたけど、ハルバートも今ヤバいことになってるんですよね?」

「そうですね。」


 マハリ神は事項書を見ながら頷いた。


「だから、この娘をハルバートに戻すことで例の転生者もそっちに行かせて、ハルバートの問題を解決させます。それでハルバートを正常化してフルベング問題に対処させる。それでどうでしょう。」


 遠回りとは思うが、現状カヘルに取っては考えられる最善の方策だ。


「転生者を使う方法としては、それが現実的ですよね……。」

「どうやってその娘をハルバートに戻すんですか?自発的には絶対無理ですよね?」


 マハリ神が同意したが、海の神はまた食いついてきた。


「別の転生者を使います。ベルトリア内にいて、もうすぐ動きそうですし、ちょうどいいと思っています。」

「その転生者はあなたのコントロール下?」

「可能です。」

「だったら、そいつを直接ハルバートかフルベングに送り込めばいいのでは?」

「能力的にハルバート、フルベングへの問題解決は到底無理ですね。対処できるのは例の転生者くらいだと思います。」

「今更ですけど、例の転生者だけ何であなたのコントロール下に置かなかったんですか?」

「知りませんよ!ワイズマン神に聞いてください!」


 カヘルが大きな声で言うと、流石に海の神も黙った。

 会議の場でいちいち細かく話すことなんて進行妨害だ。暇なのか。


「とりあえず、カヘル神にお願いしましょう。すいません。」


 マハリ神が場を収めるように言った。


「次いで審議事項3「ハルバートの禁術について」。これは……ジュノー神ですね。」

「は~い。」


 またジュノーか、とカヘルはげんなりした。


「ハルバートも厄介で~、さっき言ったようにフルベングの問題に乗じて、禁術の実装を始めたようなんです~。」

「禁術とは?」

「使われると国家規模の崩壊を招きかねない凶悪な魔法です~。厳重に封印されていて、ハルバート、フルベングだけに記録が残っているものですね~。まあ、例のマデリーンは全部使えたみたいだから、ベルトリアにも残ってるかもですけど~。」

「フルベングより長期的に厄介ですよね……。」


 短期とか長期とか好きだな、この神。


「ハルバートも大分おかしくなってるので、できれば潰しておかないと~って。でも、さっきの事項で話がついたから、例の転生者にこっちも対処してもらいましょ~。」


 カヘルは項垂れた。

 こっちの身にもなってほしい。

 キタイが死んでからというもの、ワイズマンの方針で神が直接世界に干渉するのを禁じたため、転生者を通じて施策を実行できるカヘルの負担は劇的に増えた。

 

 それにしても、今回の件は重すぎる。

 そもそも他の転生者では話にならない。

 例の転生者も育ち切ってないため、ベルトリアで別の転生者を動かした場合に対応できるのかすら心配だと言うのに。


「審議事項は以上です。それでは、報告事項が一つ。「転生者について」。カヘル神お願いします。」


 カヘルはふう、と息を吐いた。


「転生者報告です。先月、今月と基準を満たした者がいなかったため、転生者はいませんでした。例の転生者については、ベルトリアに入国。可変種2体を撃退。計画とは異なる動きになっています。同行者による影響が大きいと考えられます。」

「どうするんですか?」

「むしろ好影響だと思います。目の前の問題を解決していますし、順調に成長はしておりますので、このまま観測します。」


 それに対しては特に意見なく、会議は終わった。




「カヘル神。」


 会議後、マハリが声を掛けてきた。


「今日は色々とすいませんでした。」


 律義に頭を下げてきた。海の神がすべきだと思う。


「マハリ神は何も悪くありませんよ。」

「何も対応策がなくてお任せしてしまって。」

「いえ……どっちにしろ例の転生者は、まだまだ罪を償わなければいけませんから。大きな問題はいいんじゃないですか?」


 カヘルはふん、と言った。




「もっと苦労して世界を還してもらわないと、彼女も死ぬに死ねませんからね。」




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