第22話 嵐の前々夜
「う……。」
目を覚ましたのは、温かいベッドの上だった。
「エリンさん!」
レンの声が聞こえる……。
「あれ?ここは?」
「メルトの病院です。軍の方々に守ってもらって、戻ってきました。」
さっきまで、南部の方にトラムで向かって……。
「そうだ!あいつは!?マリア・デ・ラウエレス!!」
「……見逃されました。」
やられた瞬間を思い出した。全身に強烈な衝撃波のようなものを喰らった。そこから記憶がない。
……完璧に負けたのだ。
「お身体、大丈夫ですか!?何ともないですか?」
「うん。大丈夫。痛くも何ともないよ。」
「良かった……。」
それは本当だ。回復力だけはどうやら人を超越しているらしい。
涙目のレンを見て、安堵するとともに申し訳なく思った。
「ボーンズは?」
「あっちに寝てます。」
4人部屋の反対側にボーンズは寝ていた。
「うーんもう食えねえ……。」
「大丈夫そうだね。」
寝言を聞く限り全く問題なさそうだ。
「ごめんね……。負けちゃって。」
「そんな!」
「相手が悪すぎたんだよ、気になさんな。だまし討ちのエリン。」
同じ部屋のベッドにいたミリアが口を挟んだ。
「その子の話では、あのマリアって奴は、私らとあんたらをのした後に一瞬で姿を消したそうだ。軍にも補足されずにね。得体の知れない奴だよ。」
「鑑定≪アプレイズ≫を使うのも忘れてたよ。ごめんね。私、弱かったな。」
情けないなあ。レンを守るために強くなるって誓ったばかりなのに。
そんなことを考えていたら、レンは私の手をぎゅっと握ってくれた。
「エリンさんが無事で良かったです……。本当に、それだけでいいんです。」
「ずっとあんたの傍にいたんだよ、その子。」
レンはずっと泣きそうな顔をしている。
そうだ、こんなことで落ち込んじゃダメだ。レンに心配かけないように、もっと強くならないと。
「うん、大丈夫!強くなるぞ!伸びしろしかないからね、私は!」
私が大袈裟に左腕を上げると、レンはやっと笑顔になってくれた。
「ねえ、レン。あいつの力って何なの?やっぱり魔工兵器なのかな?」
「それもあると思いますが、途中からは違う力のようでした。魔力や科学ではない、別の能力のような気がします。」
「私の特殊能力みたいなもの?」
「そうかもしれません。去り際に、自分の能力を「チート」って言っていました。」
「チート?」
「聞いたことがないので、どんな能力かは全く分からないです。ただ一つ分かったのは、相手の魔力を持っていく力があるということです。」
そうだ!レンの魔力を「借りる」とか言ってた。
「レンは何ともないの!?」
「あ、はい。大丈夫です。大した量ではなかったので。」
勢いよく手を握り返した私を見て、レンはまた顔を赤くしている。
ほっと安心した。
「借りるって言ってたよね。で、私を倒したときに「返す」と。」
「はい。」
いちいち口にするあたり、自分の能力に相当自信があるんだろう。
多少能力を知られたところで何の問題もないと。
……悔しいが、それは事実なんだけど。
「あと……全く分からないんですが、消える前に話していた時、口調が全く違ったんです。」
「ん?あの「ですわ~」みたいなんじゃなかったの?」
「はい。急に一人称も変わって……男性のような話し方でした。」
「うーん……。何だろう。」
口調のことは全くわからないが、少し見えてきたマリアの人物像は、相当な自信家であるが、無暗に戦うことは嫌い、むしろ自分のことを自慢したいという振る舞いをするような相手だということだ。
「今戦って勝てる相手じゃないし、一旦忘れた方が良さそうだね。」
「はい。メルトで何かしようとしているのは気になりますが、ベルトリア軍がこれだけ厳重に警備している状況なら、暫く大々的には行動できないかと。」
「今日離れないといけないしね。」
レンがほっとして頷いた。
私が気にするんじゃないかと心配だったんだね。
……いや、内心はめちゃくちゃ悔しいし、これからレンを守っていけるのか、危機感を感じてるよ。
でも、今焦ってもどうしようもない。私はステータスも上がらないし、強くなるには地道にレベルを上げて能力を増やして、あとは場数を踏んで、その能力をうまく使えるようになる以外にないのだ。
「明日からクエストをこなして強くなるぞ!目指せ、大器晩成!」
「はい!エリンさんなら絶対大丈夫です。」
レンとそう言って笑い合った。
私の良いところは、深く悩まないところなのだ。
「何よりだよ。ベルトリア本国に行っても元気でな。」
「世話になったね、ミリア。皆さんによろしく。」
人遣いは荒いし、いつまでも「だまし討ちのエリン」と呼んでくるけど、豪快で面倒見の良いおばちゃんだった。
そうだ。これからベルトリアに戻り、情報収集をしながら強くなろう。
あのマリア・デ・ラウエレスには、いつか会うような予感がするのだ。
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「病院を襲うなんて無粋な真似、正直幻滅しましたわ。」
マリアが黒づくめの男に話している。
「申し訳ない。ゴードンには罰を与えた。」
「処分しましたの?」
「除名だ。身体を不自由にしてな。」
「まあ……。」
マリアはふう、と溜息をついた。
「相変わらず容赦ないこと。」
「見境がなくなっては終わりだからな。奴もそうではないと思っていたが……。」
「見る目ないですわね。」
「返す言葉もないよ。」
男は手に持った銃を見定めた。
「今は動けないな。」
「どうするおつもり?」
「暫く隠れて、軍の隙を見てメルトを抜けて本国に行く。」
「いよいよですわね。」
「ああ。本国にいる連中も準備を進めてる。やっと世界を変えられる。」
マリアはニヤリと笑った。
「ああ、良いですわ!待ち望んでいた展開!」
「変な奴だな。最も、お前の提供してくれる魔工兵器がなければ、夢物語のままだったんだが。」
「ベルトリアの悪事を世界に知らしめましょう。」
「そして、元老院を倒す。やっとここまで来たんだ……。どれ程の犠牲があったか。」
男は拳を握りしめた。
「軍の陽動は私に任せてくださいまし。」
男はあらためてマリアの前に立った。背丈はマリアより遥かに大きい。
「あらためて感謝する。この国を変えられるのも、お前のお陰だ。」
「なあに、急に?」
マリアは甘えた声で言った後、指でつん、と男の胸を撫でた。
「他に障壁となりそうな要素は?」
動じない男に口を尖らせたマリアは、一瞬うーんと考えた。
「2人いますわね。」
「それは?」
「1人は、黒豹のアデル。先日、ベルトリアの傭兵になったと聞きましたわ。」
「ちっ。厄介だな。」
「魔法が弱点と聞きましたので、メイジの連隊を組んでうまくぶつけるしかないですわね。」
男はコップに水を注ぎ、一気に飲み干した。
「……もう一人は?」
「想定内ですけど、公安のレイナードですわね。軍と離れているから行動が掴めないし、運悪く当たった部隊は終わりでしょうね。」
「そっちは手を打つ。相当犠牲が出るがな。」
「心強いですわね。」
「ゴードンを倒した女は?」
マリアはきょとんとした。
「だまし討ちのエリン?」
「ああ。」
「話にもならないですわね。無視してOK。あ、でも、連れの魔法使いは相当マナを秘めているようでしたわ。」
「マナなら問題あるまい。」
「私にとってはカモですわね。」
「よし。」
男は上着を脱ぎ捨てた。
鍛え上げられた肉体が彫刻のように艶めいた。
「暫くのんびりするさ。嵐の前に十分英気を養うだけだ。」
「相変わらず逞しい……。」
マリアは男の腹を撫でた。
そして、またニヤリと笑った。
「期待してるぜ。アラン……。」




