第20話 与える者と使う者、守る者と守られる者
「捕まえた奴は何者だったの?」
警備中、ミリアにそれとなく尋ねてみる。
「セント・ウォールという組織の一員だということが分かった。武力によるベルトリアへの攻撃を目的とした集団で、構成員は10名程度らしいが、エーテル銃のような魔科学兵器を有することから非常に危険な組織だ。」
「逃げた2人もそうなんだね。」
「ああ。だから今日から警備隊も増やして、装備も充実させた。」
それもあってか、今日から警備隊には魔科学兵器にも対応可能なバリア発生器が支給された。
「逃げた奴らやセント・ウォールの拠点は、ベルトリア軍が追うことになった。私達は警戒しながら警備だな。」
強力な軍隊が来てくれるというなら少し安心する。このまま解決してくれるといいんだけど。
「ところで、仲間は大丈夫だったのかい?」
「うん。でも病院が半壊したから医療機器が使えなくて大変みたい。新しい機器が届くまでヒーラー達は休みなしみたいだよ。」
「大変だねえ。頭が下がるよほんと。」
昨日の騒ぎがあったから、町に人の姿はほとんどない。
警備は楽でいいが、何かが起こりそうな気配もあって落ち着かない。
「マリア・デ・ラウエレス」
ふいに思い出したかのように、ミリアは荒々しく言い放った。
「どうしたの急に?」
「セント・ウォールに魔科学兵器を与えやがった世紀の大馬鹿女の名前さ。」
いつもよりイライラしているミリアを見て、よくない状況であることは理解した。
「そいつは、どこにいんの?」
「これから会うんだよ。アポもなけりゃ居場所も不明だけどね!」
そう投槍に言って写真を見せてきた。
「あれ?この帽子の女なの?それって……」
「ああ。あんたと見かけた2人のうちの1人さ。うちの部下達が紳士的に見送った奴のことだよ。」
今日は何かと言葉がキレてるなあ。
「こいつはセント・ウォールの構成員じゃない。だが、武器供与をしているのは間違いない。先日捕まえた男が吐いたんだ。」
「そっか……。」
「だまし討ちのエリン、あんたもうすぐアルバイトの期間終わりだね。ベルトリアに行って、もしこいつを見かけたら、くれぐれも気を付けて。」
「ん?この町にいるんでしょ。」
「軍の情報では、こいつはベルトリア本国に拠点を持っていることが分かってる。メルトに侵入したのは間違いないが、そのルートも不明だ。つまり、出口もしっかり準備している恐れがあるってことだ。」
神出鬼没の死の商人……恐ろしいなあ。
しかも、扱っているのはどうやら普通の武器ではないようだ。
「今回使われたエーテル銃なんて、一撃で数十人も殺せるような武器だ。テロリスト達にそんなものを渡すなんて、本当に恐ろしいよ。」
エーテル銃。
レンが言ってたな。
魔力で増幅したエネルギーによって、広範囲を焼き殺すレーザーを打ち込む武器だと。
反射する魔法がなければ……レンがいなければ、悲惨なことになっていただろう。
どうしてそんな武器を作るのだろうか。
「ねえ、ミリアはさ、その武器を欲しいと思う?」
「はあ?いるわけないでしょうが。」
「そんな残酷な武器をさ。作る人間もいれば、躊躇なく使う人間がいるんだよ。どうしてなんだろうね。」
「あんた……。」
そんな眉を顰めて睨むように見ないでよ。
単純な疑問なんだよ。
「そんなバカでかい剣持った人間が言うかい?」
ミリアは豪快に笑った。
「これは私が欲しがったわけじゃないんだけど。」
「でも、あんたが必要だから使ってんだろ。」
「そうだよ。」
「武器ってのは、すべからくそうなんじゃないのかい?欲しいとか使いたいとかじゃなく、必要だと思う人間が使わざるを得ないもんなんだろ。」
なるほど、確かにそうだ。
「悪いのは使う人間なんだね。」
「あんたさ……。」
ミリアは目をぱちぱちと瞬かせた。
「さっきから、マデリーン女王みたいなこと言うんだね。」
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大きなことは起きないまま、今日の仕事が終わった。
「あー、今日も歩いて疲れたなあ。ただいまー。ってあれ?」
自分達の部屋に戻ってくると、ベッドで横になるレンの姿があった。
「レン、大丈夫?」
顔を近づけると、穏やかな呼吸音が聞こえた。帰ってくるなり、倒れ込むように寝てしまったんだろう。
「ずっと魔法を使ってるもんね。昨日はあんなことがあったし。」
寝ているレンの髪の毛を梳くように頭を撫でる。指の間を滑るサラサラとした手触りが心地よい。
黒髪を触られている少女は可愛い寝息を立てている。
「疲れたんだね。」
ねえ、レン。
恐ろしい武器や魔法を使う者達を前にした時、私はあなたを守れるのかな。
もっともっと強くならないと、あなたを守るどころか、足を引っ張ってしまう。
「……強くなるからね。」
絹のような黒髪を、いつくしむように撫でる。
いい匂いがする。
いたずらに、柔らかな頬に指を滑らせた。
「うわあ……。」
思わず声を出してしまった。
暖かくて、まるで指に吸い付くように気持ちがいい。
まだ起きる気配はない。
「まつ毛長いなあ。ふふ、耳小さい。それに……。」
吸い寄せられるように、ピンク色の唇に触れそうになった時、レンが少し動いた。
「うわあ。」
正気に戻った私は、勢いよく手を離す。
それまでの自分の行いが酷く恥ずかしいことに思えた。
「破廉恥なことしてるな、私のバカ!」
最近、気が付けばいつも触れようとしてる。
勝手にベタベタ触ってレンが嫌になるかもしれないのに。
でも、どうしても触りたくなってしまう。
煩悩を鎮めようと頭を何度か振ってみる。頭がクラクラするだけで何も変わらない。ただのバカな人だ。
「守るとか言って……私が危険人物じゃないか!」
枕にボスボスと頭を打ち付けて反省した。
「ん……。」
あ、起きちゃった。
一人でバタバタしていた私のせいで、レンの眠りを妨げてしまった。
「エリンさん……?」
今にも閉じてしまいそうな目をかろうじて開いている。
「お疲れ様。ごめんね。起こしちゃって。」
レンは、もぞもぞと私の方に近づいた。そして……きゅっと私の手を掴んだ。
「ん……エリンさん……。」
ほとんど無意識なんだろう。
甘えたように蕩けた声で、自分の頬に私の手を寄せた。
そして、微笑んで眠っていった。
私に対する信頼の気持ちが伝わってきて、物凄く嬉しい。嬉しいんだけど……
「どうすればいいの、私!」
手に触れる柔らかな温もりと、吐息のくすぐったさで、ちょっとおかしくなりそうだった。
その後、レンが起きて、照れて真っ赤になってしまうところまでが、私達の日常だった。
真面目なことを考えていたのに、結局、イチャつくことしか考えていませんでした……




