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時感  作者: 黒石迩守


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第2話:ソウイング

 割り当てられた核融合炉の通常点検作業は滞りなく完了した。


 所要時間二時間四三分。消費時間は平均的だ。


「クォルツさんとシフトが被ると早く終わっていいねぇ」

「ちょっと多めに休憩時間取れるから得した気分っすよねぇ」


 仕事を切りあげて休憩所に連れ立ってきた仕事仲間に、クォルツは答える。


「そうか。何度も繰り返してきた作業だからな。最適化の成果だろう」


 前倒しで作業を終わらせられれば、次の現場への移動時間に充てられる。そうして時間の無駄を抑えていけば、想定外の事態が起こったときに対応する時間が確保できる。


 クォルツはそう考えて作業効率化をしているのだが、どうやら周囲は、その場で余剰リソースを消費するために効率化を目指すのが普通らしい。


 時間の使途は人それぞれだ。クォルツは特にそこに口を挟む気はない。


 クォルツは休憩所でくつろぎ始めた仕事仲間へ手短に挨拶をし、先に造形炉へ向かおうとプラットフォームへ足を伸ばした。


 すると、耳慣れないチャイム音が〈ベース〉内に鳴り響いた。


 一斉放送の合図だ。最後にこれを聞いたのは何十年前だっただろうか。一斉放送が初めての者もいるようで、周囲が小さくざわつきに包まれる。


 そしてアナウンスが流れ始めた。


〝こちらは〈管理室〉です。皆さん、本日の業務は一時中断し、セントラルホールか、お近くの公共端末にお集まりください〟


 一斉放送だけでも稀な事態だというのに、そこからさらに招集がかかるなど、クォルツですら聞いたことがなかった。


 一体何が起きているのか、という疑問に、続くアナウンスが答えた。


〝〈中央〉から物資が送られてきました〟




〈中央〉は、〈大転換〉前、各地に点在していた〈ベース〉を統治していた存在だ。


 だが、厄災があり外界が荒れ果てて、クォルツが稼働を開始するより遥か昔に通信が途絶したという。存続しているかも不確かな、伝承として記録に残っているだけの存在だ。


 それが今、物資を送ってきたという。


 確かにこれは〈ベース〉の歴史に残る事態だろう。全体招集がかかるのも無理はない。


 吹き抜けのセントラルホールには、〈中央〉から送られてきた物資を、この目で見ようという者で各階の回廊がいっぱいになっていた。


 クォルツは指示通りにセントラルホールに移動しただけだったのだが、他の者よりも先に移動をしていたせいか、自然と一階の最前列に位置していた。


〈ベース〉と外界を繋ぐ扉のボルトロックが低い音を立てて外れる。そして、扉の向こうから誰かがやってきた。


 ずいぶんと小型の躯体だった。


 全身を覆っている布地は、どうやら躯体ではなく被服のようだ。おそらく、外界で活動するために躯体を保護するための防護服だろう。他にも頭部を完全に覆うマスクを初め、様々な装備品を身につけているが、躯体を守るためとは言え、やや過剰に見える。


 あれが、〈中央〉から派遣されてきた物資の輸送担当者だろうか。しかし、特に物資らしき荷物は見当たらない。


 担当者はマスクを外し、頭部を露わにした。


 そしてその姿を見て、その場にいた全員がどよめいた。


 それは、誰もが知っているのに、一度も見たことがないものの形をしていた。


 頭部にある金色をした、長いフィラメント状物質は『髪』と呼ばれるもの。カメラレンズの代わりにある、一対の碧色をした柔らかな水晶様物質は、『眼球』に違いない。しなやかで継ぎ目のない、体の表面を覆っているものは『皮膚』だ。


 無機躯体と異なり、有機物で構成されている躯体。


〈人格素子〉により、ゲノムから中枢神経系のみシミュレートした無機躯体と違い、有機躯体では、ゲノムにより体全体の特徴が表現され、性分化して大きく雌雄に別れるらしい。


 それは、〈大転換〉前の未成熟な女性個体――いわゆる、『少女』の姿をしていた。


 有機躯体は言った。


「初めまして()()()()()()。わたしは自律輸送情報媒体〈ソウイング〉です。よろしくお願いします」

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