第9話 アンドウ・アキラという若者の素性
アキラくんとフリープレイをしていると、声をかけられた。
「相変わらず仲がいいね、お二人さん」
その声の主は数年前から顔なじみの社会人プレイヤーだ。
……他人から改めてこう言われると、なんだか気恥ずかしくなり、思わず言い返す。
「そちらも、たまには一緒にフリープレイどうですか?」
「いやあ、そうしたいのはやまやまなんだけど、なにぶん、これがね」と、彼は小指を立ててみせた。「帰りがあんまり遅くなると、大会の参加も許してもらえなくなっちゃうからね。それじゃ!」
そう言い残し、彼は出て行った。
「家庭持ちは大変だねえ……」と、わたしは何気なくつぶやく。
すると、アキラくんはふと視線を上げ、こちらの顔をまじまじと見た。
「そういえばオジさんって、独身っスよね?」
「んー、うん」
「じゃあ、彼女さんは?」
「いない、いたことない」
「ふうん」
「……なんか妙に嬉しそうだね、アキラくん」
「えー、まあ、嬉しいっスね」
「どういう嬉しさなんだそれは」
「いやあ、こっちも恋人いたことないんで」
「へえ。でも、アキラくん、モテるでしょ」
「まあまあっスね」
「……」
まあまあなわけないだろ! ──と心の中で突っ込みを入れた。こんなに可愛げがあって人懐っこい、女顔の美男子がモテないわけあるかい。
年かさのくせにモテないこちらを気づかって謙遜しているのかとも思ったが──いや、改めて考えてみれば。そういえば、わたしはアキラくんの素顔を見たことがない。
この若者はいつも、常に顔を隠すように野球帽と黒いマスクを身に着けて、外そうとしない。彼に対して言抱いている美男子という印象は、その大きな目とか、全体の雰囲気から勝手に類推しているに過ぎない。
容姿だけではない。これほど親しくしていながらも、アンドウ・アキラという若者の素性についても、わたしはほとんど何も知らないのだ。──所詮はカードショップで顔を合わせる程度の間柄ではあるのだが、それにしても、アキラくんは謎めいている。
最近になって『マ・ザ』をはじめた専門学生。これが、わたしがアキラくんについて知っている全てだ。
わたしはなんだか急に、心もとないような気分になった。
いま目の前にいるはずの黒マスクの若者の存在が、不確かで、あやふやなもののように思えてきた──
「あ、でも、オジさん。彼女がいないってことは、もしかしてエッチなお店とかにいくんスか?」
「……」
自分のことははぐらかすわりに、こちらのことは妙に知りたがるんだよなあ。変なやつ。




