第26話 乾杯しましょうよ
店員が席までやってくる。わたしは生ビールのジョッキを受け取り、アキラくんは梅酒のソーダ割を両手で受け取った。
じゃあ飲むか──という段になって、アキラくんは、なにやらスマホを取り出した。
「写真、撮りますね。初めての飲酒の記念に」
「どうぞどうぞ」
アキラくんは、目の前に置いたグラスを何回か撮った。そしてスマホの画面をまじまじと見つめた後、顔を上げる。
「──あの、オジさんの胴体も写っちゃったんスけど、これSNSにあげてもいいスか?」
「顔が写ってないんなら問題ないけど……ちょっと退くから、写真は撮り直した方がいいんじゃないの」
「いや、いいっスいいっスそのままで! 大会に優勝して、ようやくオジさんに飯に連れてきてもらった記念でもあるんで」
「……わたしも、アキラくんの優勝祝いの記念に、撮っておこうかな」
「オジさんもSNSに写真を上げてくださいよ、見せつけてやりましょうよ」
「そうしよっかな」
スマホのカメラを起動し、机の上のジョッキと、向かいのグラスとが写るような角度を画面に収める。そしてシャッターの瞬間──アキラくんが手を伸ばし、画角の中にピースサインを差し込んできた。
その子供っぽい悪戯に、わたしはアキラくんと顔を見合わせ、お互いに思わず笑ってしまった。
ふと、アキラくんのスマホがバイブレーションした。アキラくんは画面をちらっと見ると、何事もなかったかのように、スマホをしまう。しかし、次々と通知が来ているらしく、バイブレーションが止まっていなかった。
「なにかの連絡?」とわたしは何の気なく聞く。
「いや、大丈夫っス」とアキラくんは素っ気ない返事をする。……その素っ気なさがかえって作為的に思える。
「家族とかからのハタチのお祝いの電話とかじゃないのかい。わたしのことは気にしないで良いから、出なよ」
「いや、その……イクミからの、鬼電です。たぶん、オレがいまSNSに上げた写真を見て、それで文句を言いたくなったんスかね。まあ、だからこれは気にしないでください」
「あー……」
「あいつ、もう、オジさんの何が気に入らないっていうんスかねえ本当に」
「……」
わたしが良からぬことを考えてアキラくんに手を出そうとしているんじゃないかと彼女は警戒しているんだよ──と、思ったが、まさかアキラくん本人にそれをいう訳にもいかなかった。
「──まあ、とにかくっ」アキラくんは仕切り直すように一つ手を打った。「乾杯しましょうよ、オジさん!」




