第27話 あたかも美しい少女のような
乾杯をした。そして掲げたジョッキをそのまま口元に運ぶ。
ビールを一口飲んだだけで、酒精が血流にのって全身に巡っていくかのようだ。なんだか気分がよく、すでに酔いが回り始めている。
アキラくんは、乾杯のあとグラスをいったん机の上に置いた。そして少し下を向き、両手を耳の後ろに回し、マスクを取ろうとする……そりゃそうだ、マスクを着けたままでは何も飲めない。
わたしは思わず、アキラくんのその仕草に見入った。これまでずっとつけていた黒いマスクを外すという行為が……何というのだろう。つまり、秘められていた部分が、本人の意思によって露わにされるというその状況に、目を奪われたのだ。
アキラくんの細い指が、マスクの耳ひもを少し持ち上げて──そこで動きが止まった。その姿勢のまま、アキラくんはこちらに視線を送った。
都合、二人の目が合う。
「……あの、オジさん」と、アキラくんの声。マスクの下から聞こえる少しくぐもったハスキーボイスが、おずおずと続けた。「ちょっと、変なこと言うかもしれないんスけど、いいスか」
「な、なに」
「マスクの下がどんなんでも、よそよそしくはしないでほしいんスけど」
「っ──」
喉の奥が狭くなり、息ができなくなった。
アキラくんはこれまで素顔を隠していたのだ! 途端に、頭の中に想像が駆け巡る。つまり、本人が隠しておきたいものが、あのマスクの中にある。それは、怪我か、欠損か……
顔から血の気が引く。罪悪感がこみあげてくる。
「──本当にごめん、アキラくん。無神経だった。人の顔をジロジロとみるなんて」
「えっ? あっ。いや、あの、そういう深刻な感じのやつじゃないっス。なんか、余計な誤解を与えたみたいで」
「……そうなの?」
「はい、その……よそよそしくしないでほしいって言ったのは、大したことじゃないんです。ただ、これからも仲良くしてほしいなって、単に思っただけス」
「うん、それなら、問題ないよ。よそよそしくしないって、約束する」
「……約束っスよ」
黒いマスクが、はらりと外された。
現れたのは、白い顔だった。きめ細かい肌に、整った顔立ち。猫のような大きく潤んだ目と、均衡のとれた鼻と口。それは想像していた通りの、美男子らしい綺麗な女顔であり──いや、想像していたよりも、さらに綺麗な顔だ。この店の照明の淡い光の感じのせいだろうか。それこそ、もはや中性的を通り越して、あたかも美しい少女のような──
(【筆者】ここまでお読みいただきありがとうございます。毎日更新は、この第27話でいったんストップとなります。続きは気長にお待ちください)




