第25話 味はおいしくない
入店し、二人個室に入ると、アキラくんは物珍しそうにあたりをキョロキョロ見回した。木の柱、明るい色の土壁、障子紙の淡い照明。
「へー。お酒を飲むお店って、こんな感じなんスね」
二人で向かい合って座ると、わたしはメニュー表をアキラくんに渡す。
「アキラくんは、何を飲む? 最初なら、甘いやつが呑みやすいんじゃないかな」
「オジさんは何を飲むんスか?」
「わたしはビール」
「ビールってどんな味?」
「苦くて酸っぱいよ」
「それって、おいしいんスか」
「味はおいしくない」
「なぜ大人はそんなものを飲むのか……いや、逆に興味が湧いてきたかも。あとで一口だけくださいよ。オレの注文は……どうしようかな」
「特に要望がないのなら、梅酒のソーダ割とかいいんじゃないかな。味はだいたい梅ジュースだし」
「じゃあ、それでお願いします」
「食べ物は、適当に頼んでいい?」
「肉をお願いします!」
注文を終え、最初の飲み物が運ばれてくるまでのちょっとした時間。
アキラくんは黒い野球帽を取った──淡い照明の光の中、明るい色の髪がふわりと舞うのが見えた。それは見るからに繊細で柔らかく、そのように生まれついた美しい動物の被毛のようにも見えた。美青年というのは、髪の毛の一本一本から、凡夫とは造りが違うらしい。
こちらの視線に気づいて、アキラくんは恥ずかしそうに目を細めた。
「もー、なんすかジロジロ見て。人の頭がそんなに珍しいっスか」
「……珍しくはあるね。きみが帽子を取ったの、初めて見たかも」
「まあ、そうっスね。カードショップに行くときは、人に舐められないようにってずっと被ってるんで」
「ふうん。そうだったの」
確かに、黒い野球帽をかぶっていない状態のアキラくんは、目元がよく見え、可愛い感じの女顔であることがよく分かる。美形なんて得しかないじゃないかと思っていたが、確かに男社会においてはかえって舐められるということがあるのかもしれない。
「はじめてアキラくんが現れた時は、なんかチンピラみたいなやつがいるって思ったなあ、そういえば。帽子にマスクで、なんか髪色も派手だし。正直怖かった」
「オレの方も、かなりビビッてましたからね。カードショップでの大会がどんな感じなのか、全然わからなかったし。初心者なんか、馬鹿にされて適当にあしらわれるんじゃないかって。……最初にあたったのがオジさんで、本当によかったっス」




