第22話 この日の大会の優勝者
あとは、アキラくんが完全に盤面を制圧した。こちらは敗北を回避するために、リソースを切り崩しての盤面への対応を強いられ、その分だけコンボ成立から遠ざかっていく──
勝負所で一歩踏み込んだことこそが、このアキラくんの優勢を決定づけたのだ。
そのまま、わたしは圧されていく。
アキラくんは、有利な分だけ無理をしない。自らの負け筋を着実に潰していき、リソース差を確保し、ある種淡々と対戦相手を追い詰めていく。
踏み込むべき局面と踏み込むべきでない局面を的確に判断し、一辺倒ではなく臨機応変に立ち回る。これこそがカードゲームのプレイングというものだろう。
……奇妙な気分だった。いま、わたしは間違いなく崖際に追い詰められている。対戦ゲームにおいて、もっとも惨めな帰結へと落下している。惨めで、陳腐で、不毛な帰結だ。しかし、それだというのに、清々しい気分だった。寂しさすら感じるような、清々しさ。
そしてついに、わたしはアキラくんに敗北した。
わたしは頭を下げた。
「……ありません。わたしの負けです。対戦ありがとうございました」
アキラくんは、その大きな目をぱちくりと瞬かせた。こちらの顔を見て、盤面を見て、またこちらの顔を見る──勝利を目指し、勝利に向かって全力を尽くしていた若者が、ついにそれを手に入れたのだ。それでいながら、実感が追い付いていないような、そんな様子である。
「あ、ありがとうございました。……やった。勝った」
それは普段の明るいアキラくんからすると随分と控えめな、しみじみとした呟き声だった。
息をつめて見守っていた見物人たちが、ほっと溜息をついた。不思議な、安堵したような空気がプレイスペースに広がっていた。常連客たちも皆、ある日突然このカードショップに現れたガラの悪い若者を、今となっては弟分のように思っているのだ。
「優勝おめでとう、アキラくん」と、わたしは改めてその勝利を称えた。
「ありがとうございます、オジさん。でも、3本目はこっちのツモが良くて」
「いや、勝因は実力だよ。アキラくん、これまで頑張ってきたから、それだけ強くなったよ」
「あー……」と、アキラくんはやや言い淀んだあと、頭を掻きながら、照れくさそうに言った。「……オレ、負けた時には実力不足でしたって言って、勝った時には運がよかったって言いうの、オジさんを真似してるんス」
こうして、アキラくんはこの日の大会の優勝者となった。そしてこれは、彼が目標を達成したことを意味している。




