第21話 現実として実際に起こってしまえば
現実として実際に起こってしまえば、何事だって、案外あっさりしたものなのだ。
金曜日大会の決勝卓。わたしの向かいに座るのはアキラくんで、勝負はまさに大詰めだった。他の卓はすでにみな試合が終わっているらしく、立ち見のギャラリーがこの決勝卓を取り囲み、腕を組んだり顎をさすったりしながら、アキラくんのターンを見守っている。誰も声を発しない。
盤面は辛うじて拮抗しているが、プレイヤーの一手ごとに優勢が入れ替わるような微差である。つまりは、プレイングの一つ一つがそのまま勝ち負けに直結するような、繊細な状況である。
このターン、アキラくんには二つの選択肢がある。
ひとつは、こちらのコンボを警戒し、そのままターンを返すことだ。盤面は拮抗しているし、そうすれば、少なくとも死ぬことはない。
そしてもうひとつは、リスクを取って戦線を強化することだ。そうすれば盤面はアキラくん有利に傾く。ただしこうした場合、わたしの手札にコンボが揃った場合に勝負が決まってしまう。
なお、今のわたしの手札だと、コンボまでは1枚足りない。次のターンのドローで揃う可能性は……4割程度だろうか。
現状を維持するか、リスクを取って前進するか。今、アキラくんがとりうる選択はそのどちらかだ。
さて。
わたしの主観としては……リスクを取って盤面を強化される方が、困りそうだ。むろん、そうなればトップデッキ次第でコンボ勝ちできる。しかし、そこでコンボが成立しなかった場合に、盤面の対処に追われることになる。
こういうとき、初心者ならば、選択を誤って、こちらが楽できるプレイングをしてくれるのだけど……。
わたしは、アキラくんの顔を盗み見た。
キャップと黒マスクの間にわずかにのぞく涼し気な目元──その視線は自身の手札に向けられているが、しかし手札だけを見ているわけではないことがわかった。手札、盤面、互いのライフ、そして対戦相手──一瞬、アキラくんと目が合った。
アキラくんが、悪戯っぽく笑ったような気がした。そして宣言をする。
「デーモンを出します。ターンエンド。フルタップです」
「……ターンをもらいます」
ここ一番で、アキラくんは正しい選択をした! もしも現状維持を選んでいたのなら、ターンが進むごとにこちらは楽になっていただろうに。
対戦相手の的確なプレイングにより、わたしはトップデッキとの勝負に追い込まれた。
ターンのドロー。コンボを成立させるカードであれば、わたしの勝ちとなるが──しかし、そこで引いたのは、コンボに寄与しないカードであった。




