第2話 何だか分からない若者
「席についたら対戦相手が正しいか確認してください」と、ジャッジを務める店員がお決まりの文句をアナウンスした。
わたしは意を決して、その若者の対面の席に着いた。──ああ、大会参加は週に一度の楽しみなのに。よりによって、この何だか分からない若者の相手をさせられるだなんて……
「どうも、オジです」と、わたしは形ばかりの事務的な挨拶をした。
すると、対面の若者はスマホから顔を上げ──そして、何やら居住まいを正した。背筋を伸ばし、まっすぐにこちらに向き直る。先ほどまでの気だるげな態度から一転、予想外にかしこまって見せた。
その若者は、ハスキーな声で言った。
「アンドウです。よろしくお願いします。……あの、そのオジっていうのは」
「名字なんですよ。小さい路で、オジ」
「そうでしたか。失礼しました、オジさん」
「いやいや、変な名字でしょう。それじゃあ、対戦よろしくお願いします」
当たり障りのない言葉を交わしながら、あれ? と思った。なんだか、想定していたよりも普通の態度だ。それどころか、その身なりに反して、かなり謙虚な物腰といってもいいだろう。
わたしは拍子抜けしながら、対戦の準備を始める。
鞄の中から対戦に必要なものを取り出して机の上に並べていく。プレイマット、デッキ、ダイス、メモ帳にボールペン……すると、こちらの様子を対面の若者がじっと見つめていることに気がついた。
「どうかしましたか」
「その……。すみません。オレ、大会に出るのが初めてで。メモ用紙とかサイコロとか、持ってきてなくって。必要だったんですね」
「ああ、そうなんだ。まあ必須というわけではないけど、あると何かと便利ですよ。──そうだ、今日のところはこれを使ってくださいよ」
そういって手持ちのダイスとメモ用紙の半分を差し出すと、若者は驚いて目を見開いた。
「え! いいんですか! ……本当にありがとうございます!」
若者はこちらの目をまっすぐに見て、いかにも嬉しそうに笑った。黒いマスクをしていても、その笑顔の人懐っこさが良く見て取れた。
わたしはなんだか、照れくさくて、胸のあたりが落ち着かないような気分になっていた。
いつの間にか、自分がこの若者にほだされていることに気づいた。中性的──というか、もはや可愛い感じといってもいいこの若者は、ただ素直でいるだけで、人の心の中に入り込んでくるかのようだ。しかも恐ろしいのは、精神への侵入ともいえるその干渉は、その相手に嫌悪感を抱かせるどころか、むしろ気分の良さを感じさせるのだ。
……くそう、美形ってのは得だよなあ。




