第1話 停滞し空転するサラリーマン生活
終業時間が近づいてくると、そわそわしてしまう。オフィスチェアに座ってパソコンに向かっていても、頭の中は仕事なんかとはまるで違うことを考えている。
早くカードを触りたい。ただその一心だった。
そして18時になるや否や、さっさと職場を後にして、行きつけのカードショップへと足早に向かう。定時退社さえすれば、職場からそのカードショップまで、ちょうど大会開始の直前には到着できる。
店舗に踏み入れば、蛍光灯の光と静かな興奮の空気がわたしを迎えてくれる。
金曜の夜の店舗大会──停滞し空転するサラリーマン生活の中で、唯一の心安らげるイベントである。この時間だけが本当の人生といっていい。完全三回戦のささやかな大会であるが、そのこじんまりとした感じはむしろ性に合っている。
この店舗大会の参加者は、大体が見知った常連たちである。毎週のように顔を合わせていればそうもなろう。互いに互いの使用デッキをおおよそ把握しているが、そこから始まる読み合いというのもまた楽しいものだ。
さて、今夜はどいつと当たるのかと、一週間分のウキウキで胸を弾ませながら、わたしは大会にエントリーした。
ほどなくして、店内モニタに第一回戦の組み合わせと座席番号が表示される。
対戦相手の名前は、『アンドウ・アキラ』。見知らぬ名前だった。
指定された卓に向かえば──うげえ、と思った。そこにいたのは、なんだかガラが悪い若者だった。
まず目に入るのが、屋内だというのに被ったままの野球帽と、そこからこぼれる明るい髪色だった。(黒髪の日本人として生まれておきながら、どうしてそんなことをするのか! と、わたしなんかは思ってしまうものだが……)黒いマスクで口元は隠れているが、伏せられた目元からはその顔立ちが整っているであろうことが伺え、それが余計に鋭利でとげとげしい雰囲気を放っていた。細身の身体にまとったウィンドブレーカーは、スポーツ的というよりも、なんだかガラの悪さを誇示しているかのようだった。
そんな若者が、椅子にどしりと腰を下ろし、スマホをいじっている──
なんでこんなやつがこの大会にいるんだ? 率直にいえば、わたしはこう思った。この店は、今ではあまり流行っていない『マ・ザ』という古いタイトルのカードゲームの専門店であり、昔からのプレイヤーかディープなオタクばかりが集う場所である。そんな文化系で平穏な空間の中で、この若者の存在はあからさまに浮いていた。




