第15話 仕事みたいなもんだから
ある日の金曜大会の終わり。3回戦目の決勝卓で接戦の末惜しくも敗れたアキラくんは、一通り悔しがったが、その後、爽やかに笑ってみせた。
「今日は最後の最後に負けちゃいましたけど。オレ、来週こそは優勝できる気がするんスよね! そん時はオジさん、約束通りご飯に連れて行ってもらいますからね。ちゃんと見ておいてくださいよ」
「あー、ごめん」と、わたしは申し訳なく思いながら、口を挟んだ。「来週の金曜日はこの店に来られないんだ。まあ、遠くからアキラくんのことを応援してるから頑張ってね」
「えっ」
途端、アキラくんの顔から表情が消え失せる。
「なんで」
「予定が入っていて」
「予定ってなんスか」
「取引先の営業の人との麻雀があって」
「麻雀? それって行かなきゃいけないもんなんスか」と、アキラくんは妙に食い下がる。
「まあ、仕事みたいなもんだから」
「……そーっスよね。オジさんも大人なんだから、『マ・ザ』よりも優先することもありますよね」
「いやいや、『マ・ザ』よりも優先しているってわけじゃ」
「でも、これまで毎週出ていた金曜日大会には出ないで、そっちに行くんスよね」
「そりゃそうだけど」
「はー……」
アキラくんは視線を下げて、肩を落としてみせた。……そのようにふるまわれると、こちらにはなんだか罪悪感のようなものが湧き上がってくる。
ふと、大会終わりの他の参加者たちがこちらの様子を伺っていることに気づいた。『いつも仲がいい二人が、なんかもめてんな』とでも言いたげな視線がこちらに向けられている。
わたしはなんだか焦って、言い訳のようなことを言うしかなかった。
「大丈夫だって、アキラくん。きみが来週優勝するなら、飯には別の日にちゃんと連れてくからさ」
「そういうことじゃ、ないんスけど」とアキラくんは上目遣いでこちらをじっと見た。「オジさんがいないこと自体に、がっかりなんで」
「えー、そりゃ、悪かったけどさ」
「──埋め合わせ、してくれますか?」
「埋め合わせ?」
「来週の土曜日。別のカードショップでやるプロツアーのショップ予選に、一緒に出てください」
──後になって冷静に考えれば、そもそもわたしは何も悪くなく、『埋め合わせ』に応じる義理も何もなかったのだが。しかし、アキラくんの期待を裏切ってしまったという負い目を感じていたため、この要求を受けいれざるを得なかったのだ。
……まあ、たまには他のカードショップの大会に行くのも悪くなかろう。多少の気がかりもなくはないが。




