第14話 世間一般的には
「オレはこれを家まで送ってくんで」と、アキラくんはイノウエさんを指さした。「それじゃあ、オジさん、また来週!」
イノウエさんは、それまで素知らぬ顔でこちらから目をそらしていたが、最後にこちらに一瞥をくれた。その視線は鋭く、『さっき言ったこと忘れんなよ、おっさん』と言外に伝えているのが明らかだった。
そうして、アキラくんとイノウエさんの二人は、きらめく夜の中に去っていった。──なんか、随分と引っ付いて歩いている。友達と言っていたはずだが、今の学生さんは男女間でもあんな感じなのだろうか?
……わたしも帰路につく。
帰りの電車の中、夜の世界を映す車窓に、自分の姿がうっすらと反射していた。仕事終わりにカードゲームまでやって、すっかり疲れている男の姿。
今日は、本当に疲れる日だった。イノウエさんの乱入から、なにから。大会は優勝できたというのに、なんだかいまいちすっきりしない気分だ。
イノウエさんに言われた言葉が、消化しきれていないように、頭の中に残っている。
『アキラに手を出そうとしてんじゃないでしょうね』
『変なこと考えんなよ、おっさん!』
なんとも変な話だ。一体彼女は何を危惧していたのだろうか。こんな穏やかな文化系の人間を捕まえて、手を出すだとか、変なことを考えるだとか──
ん? 手を出す、手を出す──
「あっ」と、思わず声が出た。
もしかして、『手を出す』というのは、暴力を振るうという意味ではなく、手籠めにするという意味だったのではないか!
そう考えれば、イノウエさんが言っていたことにも説明がつく。
……つまり、いい年して女にモテずそれゆえに欲望を持て余している男が、若くてかわいいアキラくん懐かれて、変な気を起こしているんじゃないだろうなと、そのような疑いをかけられていたのだ。
不本意この上ない。それに、無礼! 変な本の読みすぎだろ! まったく、頭にくる話ではあるが──しかし、すぐに正反対のことも思いついた。
もしかして、世間一般的には彼女の見方のほうが、むしろ普通なのだろうか? 大の大人が、学生と仲良くしているということは、ただそれだけで十分にいかがわしく思われるのではなかろうか?
顔から血の気が引く。
……まったく、世間様というのは、わたしのような三十路男にかくも厳しい。他人に迷惑もかけず、毎日あくせく働いて、趣味に没頭しているだけだというのに。さえない男というのは、さえない男というだけで、訝しみを受けるのだ。




