第13話 アキラに手を出そうとしてんじゃないでしょうね
わたしとアキラくんは、いつものようにフリープレイをする。対戦し、互いのプレイングを確認し合い、時には雑談を挟む。カードゲームプレイヤーにとっては、結局これがもっとも心安らぐ行為なのであるが……しかし、今日ばかりはどうも落ち着かない気分だった。イノウエさんの存在である。
フリープレイの様子を、イノウエさんは横からじっと見ていた。アキラくんがうっとおしそうにするのにもかまわず、彼女はアキラくんに肩をくっつけ、その手札と盤面を覗き込んでいる。面白いんだか、面白くないんだか、目元の化粧が派手なせいでその表情も良く分からない。
そして時折、彼女は睨みつけるような視線をこちらに向けてきた──あたかも、警戒し、牽制するかのように。
警戒と牽制。……いったい、このわたしのなにをそうすることがあるんだろうか? たしかにアキラくんはわたしに懐いてくれているが、それはカードゲーム仲間としてであり、別にそれ以上の何かがあるわけでもないのに。
さて。そうこうしているうちに閉店時間が近づいてきて、そろそろお開きにしようかとなったところ、ふと、イノウエさんが口を開いた。
「ねえアキラ」
「なんだよ」
「このカードゲームって、初心者用のデッキとか売ってないの」
「『マ・ザ』は初心者入門用のデッキをタダで配ってて、店員さんにいえばもらえるはずだけど──おいおい、なんだよイクミ、やってみたくなったのか。まあ、『マ・ザ』って面白いからな。よし、じゃあ、入門用デッキをもらってきてやるよ。──すいませんけど、オジさん。片付け始めておいてください」
友だちが自分の趣味に興味を示したことが嬉しいようで、アキラくんは楽し気に席を立った。
そして、わたしとイノウエさん二人が残される。
ちょっとした気まずい沈黙は、すぐに破られた。
「あのさ、おっさん」とぶしつけなイノウエさん。
「おっさんじゃなくて、オジですが」
「おっさんではあるでしょ」
「……」
わたしまだ三十代なんだけどな! ……と思ったが、言い返せなかった。学生さんたちからしたら、10歳も年上なら十分なおっさんなのだろう。
イノウエさんは、睨みつけるような視線を向けてきた。
「おっさんあんた、アキラに手を出そうとしてんじゃないでしょうね」
「手を出す?」その突飛な質問に、わたしは思わず首をひねった。「殴ろうを思ったことなんて、一度もないよ。アキラくん、いいやつだし。この店は治安が良いし、あまりそういう暴力沙汰の心配はしないで良いと思うけど」
「チッ」とイノウエさんは舌打ちをした。こちらの回答が気に入らなかったらしい。「……とにかく、変なこと考えんなよ、おっさん!」




