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拷問計画

隠れ家の奥、琥珀色の酒が高級なクリスタルグラスの中で揺れていた。  


壁に埋め込まれた魔石の柔らかな光が、俺たちの肌を妖しく照らし出している。



作戦は成功した。   



カナン王国は今や、内側から腐り落ちる果実のように、醜い混迷の中に沈んでいる。



「ふふっ……いい顔ね、セリア。その、どこか晴れやかな、それでいて酷く歪んだ笑み。私の知らない貴方を見ているようで、ゾクゾクするわ」   




レイラはグラスを傾けながら、俺の肩に寄り添ってきた。


彼女の指先がグラスの縁をなぞる仕草だけで、この空間の空気が甘く色付く。



俺は酒を一口含み、喉に流し込んだ。   


深い芳醇さが、戦いの高揚感を心地よく引きずっていく。



「感謝するよ、レイラ。こんなに心から笑えたのは、いつぶりだろうな」   



俺はグラスを置き、彼女の髪に手を伸ばした。


ただ守るためだけに、数式を解き、感情を殺し続けた日々。


あの頃の俺には、この悦びなど理解できなかった。



他人を陥れ、希望を絶望に変えることが、これほどまでに脳を痺れさせるほどに楽しいものだとは。




「人を弄ぶのが、これほど快楽に近いものだとは知らなかった。……ああ、そうか」


 

俺はふと、脳裏にあの聖女の顔を浮かべた。



広場で、俺の名を呼びながら狂乱していたエレナ。彼女がかつて俺を「魔物」と断じ、冷徹な判決を下したあの時――彼女もまた、この愉悦を感じていたのかもしれない。



自分よりも優れた存在を、大衆の面前で無様に引きずり下ろす。その高揚感。


そう気づいた瞬間、俺の中の底冷えした何かが激しく鼓動を打った。



もっと見たい。もっと、あいつのプライドが崩れ落ちる瞬間を、俺の手で演出したい。



「……ねえ、セリア」



レイラが、部屋の中央に浮かび上がらせた水晶玉を指差した。




そこには、暗く湿った地下独房で、重い鉄の手錠をかけられ、膝をつく聖女の姿があった。


髪は乱れ、かつての聖女の威厳は塵一つ残っていない。彼女は壁にもたれかかり、虚ろな瞳でただ闇を見つめている。



「せっかくの最高傑作よ。このまま放っておくのは退屈だわ。……ねえ、拷問に行きましょう?」



以前の俺なら、即座に切り捨てただろう。  


『効率が悪すぎる』。拷問にかけたところで、今の彼女から得られる情報など何もない。感情的で、非合理的な時間の浪費だ。




だが――。







今の俺には、その提案が、喉から手が出るほど甘美な誘惑に聞こえた。

レイラの提案する遊びは、どれも俺の理性を焼き切り、本能を剥き出しにさせる刺激に満ちている。

非合理であることこそが、復讐者にとっての最大の贅沢なのかもしれない。




「ああ、いい提案だ」



俺は立ち上がり、レイラの細い腰を引き寄せた。

彼女の唇が、俺の耳元で小さく弧を描く。




「……やっぱり、貴方は私の最高の軍師ね。行きましょう、その聖女の魂が、どこまで悲鳴を上げるのか、確かめに」



俺たちは闇の中を歩き始めた。



地下独房へ続く廊下の先に待つのは、かつての聖女の絶望と、俺たちの新しい遊戯だ。





合理的かどうかなんて、もうどうでもいい。

今の俺にとって、この国を解体し、エレナを壊し尽くすことこそが、唯一の「至高の計算」なのだから。

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