聖女の自慰
魔女レイラの隠れ家は、外界の喧騒から隔絶された、毒のように甘美な空気に満たされていた。
天井に描かれた魔方陣が、紫色の妖しい光を明滅させ、部屋全体を薄暗い影で満たしている。
その仄暗い闇の中で、俺――セリアは、レイラと寝台の上で絡み合っていた。
彼女の身体は、氷のように冷たく、それでいて火傷するほど熱い。
矛盾したその感触が、俺の理性をじわじわと侵食していく。
レイラは俺の胸元に指先で複雑な模様を描きながら、妖艶に微笑んでいた。
「ねえ、セリア。あんなに惨めな捨て方をした王国のこと、どうやって料理してあげるつもり? 貴方のその冷酷な頭脳で、極上の復讐を考えているのでしょう?」
彼女の指先が、俺の喉元を優しく、しかし鋭い爪でなぞる。
俺は彼女の腰を引き寄せ、背徳的なまでの密着を楽しみながら、淡々と、だが底知れぬ悪意を込めて語り始めた。
「復讐とは、ただ相手を滅ぼすことではない。相手が最も大切にしている『価値』を、根底から否定することだ」
「……価値、ね」
「カナン王国にとっての価値は、聖女エレナだ。彼女は民衆の希望であり、信仰の象徴だ。彼女が神聖であればあるほど、国は統制される。ならば……その象徴を、俺たちの手で『穢れ』に変えればいい」
俺の言葉に、レイラはアメジストの瞳を歓喜で見開いた。彼女の吐息が俺の耳をくすぐる。
「素敵。貴方は本当に、私の期待を裏切らないわね。英雄だった貴方を捨てた聖女が、その信仰する神の前で、獣のように淫らに果てる姿……想像しただけで、ゾクゾクするわ」
「ああ。民衆の目の前で、彼女が最も禁忌とする快楽に溺れさせる。彼女が絶望し、かつて自分を称賛した民衆に軽蔑され、唾を吐きかけられる。その瞬間、カナンという国の信仰は死ぬ。俺がいなくなった後の『英雄なき国』の崩壊は、そこから始まるんだ」
「ふふふっ……天才ね、セリア。貴方のその性格、本当に愛おしいわ」
レイラは俺の唇を貪るように塞ぎ、その熱い舌で俺の理性を絡めとった。
計画は決まった。
俺という軍師を捨てた代償を、国全体で支払わせる。聖女エレナの身も心も、俺たちの手で徹底的に堕とすのだ。
すぐに作戦開始の時は来た。
俺たちが魔獣の群れをカナンの防衛線へと向かわせると、街は一瞬で戦場へと変わった。
俺という要を失った軍隊は、統率を欠いた烏合の衆だ。次々と突破される防衛線、逃げ惑う市民、響き渡る悲鳴。
街の中央広場に、聖女エレナが飛び出してきたのは、まさにその混乱の最中だった。
彼女は白い衣を揺らし、神に救いを求めて祈りを捧げようとしている。その姿を見守る民衆の瞳には、微かな「希望」が宿っていた。
だが、それもここまでだ。
広場の空気が、ぐにゃりと歪んだ。
俺とレイラが仕掛けた魔術が、彼女の精神を侵食し始める。
「……っ!? なに、これ……体が、熱い……?」
祈りの言葉を紡ごうとしたエレナの唇が、震え出す。
彼女の純白の衣が、自身の意志に反して、勝手に結び目を解かれていく。
民衆の視線が、一斉に彼女に注がれた。
神聖なはずの聖女が、公衆の面前で、自らの手で肌を露わにしていく。
「や、やめて……! 誰か、止めて……! 私は、神に仕える身なのっ……!!」
エレナの必死の懇願も虚しく、彼女の指先はレイラの魔力に操られ、露わになった自らの胸を、秘部を、あられもなく弄り始めた。
「あぁ……っ、ダメ、見ないで……! お願い、誰か……ッ!!」
広場に集まった民衆たちは、ただただ唖然として立ち尽くしていた。
崇拝していた聖女が、戦火の中、自分たちの前で獣のように腰をくねらせている。羞恥と、魔術による強制的な快楽。
その二つの波に飲み込まれ、エレナは涙を流しながらも、自らを貪り続けている。
その様子を、俺は建物の屋根から冷ややかに見下ろしていた。
「……セリア……っ、セリアァッ……!!」
エレナが、俺の名を叫ぶ。
その声は、かつて俺を蔑んだ時とは違う。
救いを求める、卑しく、しかし切実な哀願だった。
俺はゆっくりと、彼女の目の前へと降り立った。
広場に静寂が訪れる。
死んだはずの俺を見た民衆の表情は、驚愕から、次第に醜悪な嫌悪へと変わっていく。
聖女が、かつて自分たちが「裏切り者」として追放した軍師の名を叫びながら、裸体で喘いでいるのだ。
俺はゆっくりと剣を抜き、彼女を守ろうと駆け寄ってくる衛兵たちを、容赦なく切り伏せた。
血飛沫が、エレナの白い肌に降り注ぐ。
「……聖女様を傷つけることは、誰にも許さん」
俺は彼女の肩を抱き寄せ、冷徹に言い放った。
その光景は、誰の目にも『正気の沙汰ではない』と映ったはずだ。
民衆の心の中で、聖女への信仰が音を立てて崩れ去る音が聞こえた。
計画は、完璧だ。
これから彼女は、聖女ではなく、国を汚した『淫らな女』として、この国の底へ堕ちていく。
俺はエレナの絶望に濡れた瞳を覗き込み、背後でレイラが妖しく笑っているのを感じながら、凱旋のようにして戦場を後にした。




