至高の魔女
運命の日は、皮肉なほどに晴れ渡っていた。
広場に集まった群衆の目は、狂気と憎悪で濁りきっていた。
セリアが「魔女エレナの処刑」宣告を行う。
この魔女が絶命するまで、皆の暴行を許可する!!
そう告げた瞬間、広場には歓喜に似た異様な咆哮が響き渡った。
エレナの既に生気を失った顔が絶望にひきつり、
ピクピクと痙攣する。
エレナの絶望した瞳が、群衆を捉える。
彼女はもはや聖女の威厳など欠片もなく、ただの怯えた小動物に過ぎない。
その足元には、数え切れないほどの男たちが、獣の顔をして待ち構えていた。
「殺せ! この国を壊した悪魔を!」
「家族の仇だ! 地獄へ落とせ!」
それは、正義の執行ではない。
ただの集団リンチだった。
先陣を切ったのは、魔獣に親を殺された子供たちだった。
彼らは涙を流しながら、迷うことなく槍をエレナの四肢に突き立てた。
その一撃が引き金となり、群衆は堰を切ったように彼女に襲いかかった。
杖が振るわれることも、魔法が放たれることもない。ただ、なぶり殺されるだけの肉塊。
群衆は代わる代わるに彼女を蹂躙し、いたぶり、砕いていった。
エレナが絶命の痙攣を起こしてからも、彼らの憎悪は止まらない。
誰が最初か、誰が最後かも分からないほどの無秩序な暴行により、かつての聖女は、原型を留めないただの「肉片」へと変わり果てていった。
かつて聖女だった何かが、ただの細切れ肉になった頃、空が紫色のオーロラに覆われた。
空間を歪め、レイラが現れた。
彼女は、広場を埋め尽くした数万の民衆と兵士を一瞥する。
その瞳には、彼らに対する憐れみもなければ、共感もない。
ただ、アリを眺めるような冷徹な興味だけがあった。
レイラが、軽く指を鳴らす。
その瞬間、彼女の指先から放たれた不可視の波動が、王都を、そしてカナン王国全土を瞬時に飲み込んだ。
ドクン、と大地が脈動する。
広場にいた数万の人間が、同時に動きを止めた。
彼らの瞳から自我の光が消え、ただ虚ろな空虚だけが宿る。
王国の兵士も、農民も、貴族も、全員がレイラの支配下に堕ちたのだ。
セリアは、磔台の横で崩れ落ちた。
全身から力が抜け、膝が震える。
目の前で起きたのは、一個人の魔術などではない。
一個の国、数万の魂を、一瞬にして玩具に変えるという、神にも等しい絶大な力。
「……嘘だろ」
セリアは軍師として、魔術の理論も、軍略の最適解も計算してきた。
だが、今の現象は、計算などという次元を遙かに超えていた。
レイラは優雅に空を降り、セリアの目の前に舞い降りる。
「……私が怖いかしら?」
セリアは、その問いに答えるための嘘を思いつくことすらできなかった。
何をしても、どんな策略を巡らせても、彼女の機嫌一つで消し飛ばされる。
自分は、今までずっと手のひらの上で踊らされていたピエロに過ぎなかった。
「……ああ、怖い。心底、お前が怖いよ」
セリアの正直な告白に、レイラは花が咲くように微笑んだ。
それは、純粋な好奇心に満ちた、美しくも残酷な笑顔だった。
「お前は最初から、カナン一国くらい一人で潰せる力を持っていた。それなのに、どうして最初からこうしなかった?」
セリアは、その問いの答えが、自分の理解の範疇にあることを願った。
だが、レイラの口から出た言葉は、彼を絶望の底へ叩き落とすには十分だった。
「決まっているじゃない。全部、遊びよ」
レイラは髪を揺らし、セリアを見下ろす。
「人間が醜く妬み合い、裏切り、争い、その果てに何を残すのか……それを近くで見物するのが、私の唯一の楽しみなの。お前という『軍師』が、私の退屈をどれだけ埋めてくれるか、ずっと観察していたのよ」
絶大な力、そして人間を道具としか見ない思考。
セリアはそれ以上、何も言えなくなった。
軍師としての誇りも、復讐の情熱も、レイラの「退屈しのぎ」という言葉の前では、あまりに滑稽な戯言に過ぎなかったのだ。
数日後。
カナン王国には、レイラとセリア、そして奴隷と化した国民しか存在しなくなった。
兵士すら必要ない。
他国が攻め寄せようとも、レイラ一人で全軍を消し炭にできる。
その気になれば、この星の全生命を絶滅させることすら造作もないだろう。
彼女は、理外の存在だった。
セリアだけが生かされている。
広大な玉座の間で、セリアはレイラに尋ねた。
「……なぜ、俺を奴隷にしない? 殺さないのはなぜだ」
レイラは王座に深く腰掛け、退屈そうに欠伸をした。
「暇だからよ。……さあ、私の相手をしなさい」
レイラは無造作にセリアの衣を解き、その陰部を手に取った。
彼女がそれを咥え始めると、湿った音が王室に響き渡る。
かつて王国を動かそうとした軍師は、今はただの性玩具として、魔女の唇に弄ばれることしか許されていない。
その淫靡な音だけが、グチュグチュと滅びた国の静寂を埋め尽くしていた。




