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エピローグ

カナン王国に、昼や夜が訪れることはなくなった。



レイラの放つ魔力が、空を常に紫色の黄昏色に固定しているからだ。



それは永遠の終わりのようでいて、同時に永遠の停滞でもあった。



玉座の間。かつて王が座り、セリアが座ったその場所で、レイラは窓の外――奴隷たちがレイラの為に働くだけの廃墟となった街並みを眺めていた。



彼女の表情には、これまでの愉悦も、刺激も、もはや微塵も残っていない。



「ねえ、セリア」



レイラが気だるげに声をかける。



彼女の背後で、セリアはただ人形のように佇んでいる。


彼が望んだ「カナン王国の崩壊」と「聖女の破滅」。


それらは完璧に成し遂げられた。



しかし、その果てにある景色は、ただの静寂でしかなかった。




「この国での遊びは、もうおしまいね」




レイラは振り返り、セリアの頬を指先で愛おしげになぞる。



だが、その瞳に宿っているのは愛情ではなく、新しい玩具を見つけた子供のような薄ら寒い好奇心だ。



いつかこの時が来る事を、セリアはずっと前から知っていた。



覚悟もできていた。



勿論、抗うつもりも無い。



もとは、この魔女によって救われた命だ。



レイラは命の恩人だった。





「この世界も、この国も、あなたという軍師も。……全部、飽きちゃった」




 彼女がポンと指を鳴らす。




その瞬間、世界から音が消えた。




外を歩いていた奴隷たちは、まるで行進を止めた人形のようにその場に崩れ落ち、塵となって風に溶けていく。




街は、城は、大地は、レイラが飽きたというただそれだけの理由で、存在の定義を失っていく。



「私、次は別の国に行くことにしたの。そこには、もっと面白い絶望があるかもしれないでしょう?」




「俺は……俺はどうなるんだ?」




セリアの問いかけは、空虚に響いた。



彼はレイラの寵愛を受けていたのではない。



ただの、一番長持ちした玩具だったに過ぎない。




「貴方はここに残るわ。……あ、でも安心して。私がいなくなれば、この国は静止した時間から解放される。でも、誰もいない。何もない。ただ、貴方だけが永遠にこの広大な廃墟の中で、自分が成し遂げた『復讐』の跡を眺めながら、ゆっくりと枯れていけばいいの」




レイラは立ち上がり、空間に亀裂を入れた。その向こう側には、別の、真新しい星空が広がっている。




彼女は振り返ることなく、光の先へと歩みを進める。




「じゃあね、セリア。最高の遊び相手だったわ」



「あと、あなたのセックスもよかったわよ。」




裂け目が閉じると同時に、レイラの放っていた強大な魔力も消失した。




 静寂が、世界を支配する。




 セリアは玉座から立ち上がり、窓の外を見た。



そこには、かつての王国があった場所が、ただの荒野として広がっている。


国民も、兵士も、愛した記憶も、恨んだ過去も、すべてが塵となって消え去った。



残ったのは、セリアと、ただ風が吹き抜けるだけの荒野だけ。



彼は、かつて聖女を追い詰め、国民を殺し、国を滅ぼしたその手を見つめた。



完璧な軍略。完璧な復讐。



そのすべてが、一人の魔女の「飽き」によって無に帰したのだ。




「……はは……」




乾いた笑いが、唇から漏れる。


セリアは崩れかけた玉座に深く背を預けた。


誰もいない、何も聞こえない。


永遠に続く孤独の中で、軍師はただ魔女の温もりだけを辿っていた。




「愛している。レイラ」




そう呟くと、彼は膝からその場に崩れ落ちた。




カナン王国という歴史は、こうして誰の記憶にも残ることなく、ただ荒野の一部となって幕を閉じた。





(完)

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