17話:査読完了
論文提出から一週間後、次の研究内容がある程度決まった頃に私達は夢華研究長に話があるからと研究長室に呼ばれた。論文の件かな?
ドアをノックし、中に入った。夢華研究長は研究長室の真ん中の机で実験を行っていた。お姉ちゃんがよくアニメとかでみていたオカルトならではの試験管を軽く振ると透明だった液体が水色に染まるというものをこの目で直接見た。その動き実在したんだ…なんて思った。
夢華研究長は案外すぐに私達に気がつきすぐに試験管を専用の台に置き、手招きした。
「おいで」
「あっ、はい」
お姉ちゃんを差し置いて(?)足早に夢華研究長の元まで近寄った。お姉ちゃんはいまだに困惑しながら入り口から一歩中に入った場所で固まっている。
「そんなら固くならなくていいんだよ?ほら座って、ひまりの方も」
「わ、わかった」
オドオドしながらも指定された場所に双子隣同士で座り、夢華研究長と私達が向かい合う形になるような構図になった。引き出しから分厚めのファイル…いや、私達の論文を取り出してパラパラとページをめくった後机に置き、私達に読めとでも言うかのように丁寧にこちら向きに直した、そしてゆっくりと顔を上げた。窓のない実験棟特有の、無機質な空調音だけが室内に響く。緊張のせいか何か冷たいものがが背筋に伝ったような気がした。
「自分の目でその論文が通っているか見てみればいいよ」
にこりと笑ったまま論文をこちらに少し押して読むように催促してきた。そして机に置かれた赤ペン胸ポケットに仕舞い込み私達が論文を自分で見るのを待っていた。
試しに2人で開いて見てみると修正された箇所は一切見当たらず、でも最後まで見てもアクセプトの判子は押されていなかった。
「私はこの内容に文句はないよ、寧ろ大満足だよ」
そう言ってまた論文を回収し。厚みのある論文の束が、夢華研究長の慣れた手つきによってトントンと揃えられた。その規則的な音が、承認の儀式のようにも聞こえる。そして…。
「アクセプト」
トン、と言う軽快でありつつも少し重い音を立てて論文に承認の判子が押された。
「えっ…リバイズする点もなしですか…?」
「あぁ、ここまで出来の良い論文は久しぶりに見たよ、ありがとう2人とも」
アクセプト、論文が通ったと言う時の専門用語、リバイズは論文の修正をお願いする時の言葉だ。つまり私達の書いた論文は一発で通った。
「そしておめでとう」
にこりと楽しそうに笑って短く私達を祝福した夢華研究長。研究長はすぐに机の端にあるタブレットを引き寄せると、論文の概要をまとめたものを表示して机の上に置いた。
「明日から私達研究部長グループはこの論文を元に更に研究していく。君達2人ができないこの危険区域の実践は私達に任せておくれ」
「分かりました夢華研究施設長」
「そんなに堅苦しくしなくたっていいのに…」
苦笑しながらもタブレットの画面を消した。
「そりゃ仕事場ですから、姉がしっかりしていないので代わりに私がしっかりしないと」
「えっ酷い」
「…」
「スルー…!?」
夢華研究長は静かに席を立ち、紙を取り出した。そして戻ってきて論文の内容を図でまとめ始めた。私達はその様子をじっと見ていると夢華研究長は私達に「君たちも危険区域に見学に来てみるかい?」と楽しそうに言った。仮説を確かめる為に見に行って見たいと言う気持ちと、危ないなら死にたくないし寄りたくないなという気持ちがあった。
姉は行きたそうに私を見つめてきているけど…。
「…行きます」
「よし、じゃあ行ってみようか」
そう言った後に、夢華研究長は図を描いた紙を四つ折りし、白衣のポケットに入れて私達についてくるように促した。このまま行くらしい。
「ひまりはこの場所で何をみたいんだい?」
そう言いながら私の方を振り返りつつバックで最奥の方へと歩いていく夢華研究長。私の方を向いているから私のことなんだろうけど、私はひまりじゃなくてかなでの方だ。髪の長さも赤色メッシュの位置も違う、間違えないで頂きたい。
「かなでです」
「おっとこれは失礼」
少しも反省する気を見せずに軽く笑って見せながらも私にそう返した。
「…そうですね、危険個体はどんな能力を持つのか、そして仮説は本当なのかを調べたいです」
「ほう…いい心持ちだね、かなで」
「…お褒め頂き光栄です」




