18話:危険区域
ここは危険区域…だったはず。久しぶりに目を開けれた気がする。毎日私のそばにやってくる唯璃を気配だけで感じ取っている。会話はない、唯璃はただそこにいるだけ…。でも今日はただ見つめ合っていた。
不意に小さく唯璃の声が聞こえてきた。
「まだ出れない…?こんなにも完成しているのに…最初とは比べ物にならないほど形而上成分数値も高いのに…」
私は首を傾げて唯璃を見た。唯璃は真剣な眼差しでジィッとこちらをみている。
完成、形而上成分?なんのことかはよく分からないけどきっと唯璃は他の人から情報を聞いたんだろうと思って無理矢理納得することにした。
いまだに私の方をじっと見つめてくる唯璃に大丈夫ですよ、すぐ出れますから、と声をかけたかった。でも意思疎通の手段を持つ相手は私にその手段を使おうとしなかった。いつもなら意思疎通効果を私に付与して会話を試みるのに今日は全くする様子が見られなかった。珍しい。
瞬間、唯璃は何故か目を見開いた。何かあったのか──
「ごぼっ…」
急に息が詰まった。ここにきてからもくる前からも不幸にしか見舞われない。いつになったら『普通』を味わえるのか私に教えて欲しい。
呼吸が出来ない、体が言うことを聞かない、考えがまとまらない。私は今どういう状況?唯璃はどうしてる?
軽いパニックのような状態に陥りそうになりながらもなんとか自分の体を確認しようとした。
「…効果付与【無痛、無呼吸、休憩】」
急に楽になった。原因は…。
「唯璃…?」
「…」
返事はなかった。ただずっと見つめられていた。今まで唯璃が3つも同時に効果を使った事はない。きっと唯璃も初めてやったと思う。現状唯璃は無理してる…はず。現状私はその唯璃を助けることはできない、能力が使えない。ただずっと能力を私に行使する唯璃を眺めていることしかできない。
それから数分が経った頃に唯璃は倒れた。能力の使いすぎという様子ではなかった。目線はじっとこっちのままで能力を行使していたから。ただ体を丸めてじっとしていた。能力なら目が痛くなるはず、でも今押さえているのは胸だった。呼吸器官が弱いなんて話は聞いてない、一方的な語りかけだったし話すこともなかったのかもしれないが、だとしても…。
「煓…」
苦しそうに私の名前を呟くだけで動く様子はなかった。喋らないで欲しいと伝える術も助けを呼ぶことも一切出来ない。不甲斐ないばかりだった。
次第に効果が切れていく感覚がした。段々色々なことが不明瞭になり、最終的には意識が落ちた。
この培養液はよく分からない。何がどうなって人を怪物に変えられるのか。何故動物が人の形をとることができるようになるのか。
でも、だからこそ助かる命、だからこそ救われた者だっているはず。だが被害者になった者もいる。
その被害者とはこの研究施設の危険区域に閉じ込められている実験体達全員だ。他はみんな成功作。改善の余地ありと失敗してしまった 個体のみがいれられる。それ故に強力だったりちっぽけだったりする。処分しようにも出来ない。故に役割がある。それを果たすまでは誰も死ねない。




