16話:論文査読開始
「出来た!」
静かだった部屋からそんな大きな声が聞こえてきた。声の主は天城かなで、最近論文をずっと書いていた双子の妹の方だ。
「お姉ちゃん!」
「んー?」
「研究長さんに見せる前に、先に査読お願いします!」
姉のひまりに珍しく元気よく資料を渡したかなで、その渡された資料を速読し、資料を一度机に置いた。
「…どう?」
「…おけ!さっすがかなで!これなら夢華さんに出しても大丈夫だと思う!」
「よかった…じゃあ渡しに行く?この『能力原理論文』」
2人が今回書いた論文は『能力原理論文』その名の通り魅凪のような実験体が発現させた能力の原理についての論文、つまり能力暴走の対策にもなるかもしれない論文だった。
これさえあれば魅凪ちゃんの助けになるし、夢華さんの研究にもきっと役立つはず。
「うん、じゃあいこっ!」
そうして私とかなでは自分達が居候する部屋から出て研究長の夢華さんがいる部屋へと向かった。扉の強化ガラスで出来た窓から部屋の中を覗いたところ、いつになく真剣な表情で夢華さんは相変わらずパソコンと向き合っていた。
ドアを開けて部屋に入り、軽く机の上の散らばった資料に目を向けた後に夢華さんへと声をかけた。
「も、夢華研究長〜」
「あぁ、何か用事でもあったかい?」
こちらを向くこともなくそう素っ気なく返した。相変わらずキーボードをカタカタと鳴らしながら文字を打ったり資料を整理したりしている。
「論文が出来ました、査読お願い出来ますか…?」
夢華さんはそこで初めて手を止めた。急に椅子ごとこちらに向いたと思ったら片手を差し出してきた。
「?」
「論文見せてもらえる?」
「あっはい」
慌てて論文を差し出された片手に渡すと、夢華さんは物凄く集中しながら私たちの論文を読み進めた。
私達の書いた論文に書かれている能力の原理とは即ち全ての能力は繋がっているという内容だ。能力保持者が近くに沢山いればいるだけ能力の汎用性は上がる、そしてその能力によって上げられる能力の可能性は変わるというもの。
魅凪ちゃんの魂の能力なら『ストック』梟の子の能力である効果消しなら『一極集中』…リストに載せられている龍の子は『繋ぐ』だと予測している。
ストックの効果はタメが必要な能力をあらかじめ魅凪ちゃんのもつ魂によって溜めておくことができるらしい。簡単に言えばタメが必要な能力のデメリットの消失。
余談だけど、引き出しの能力を持つ龍の子は試さないと分からないけれどきっとどこにいても能力の副次的効果を発揮させることができると予想している。なんせ引き出し…引き出す能力だし。他の子の能力も面白い効果を見せてくれたけど、まだ試せていない子もいるから…主に危険区域の子達、あそこが一番例外がいそうなのに一切試せていない。次はそこを徹底的に調べて、今度こそ結論を導き出したい。
夢華さんが顔を上げた、その顔はさっきのような仏頂面ではなく、いつもの少し余裕ありげな笑顔を浮かべて私達の顔をじっと見つめていた。
「あの…?」
「どしたの夢華さん」
「ありがとう2人とも」
「「?」」
「ははっ、流石双子だね、髪型で判別はつけど行動はほぼ同じだ」
ただ私達をじっと見ながら笑顔で会話をしてくる夢華さん。なんとも珍しい光景だった。普段は忙しいから話なんてできやしないのに。
そしてしばらくの静寂の後、夢華さんが
「査読は後にしておくよ、内容が面白すぎて時間を忘れそうだ」
「そんなまっさかぁ」
「私は研究が大好きだからね、有り得なくはないかもしれないよ?」
「そ、そうなんですか…?」
「そうそう…あぁ、一応次の研究内容も考えておいてくれ、君達の発想はきっと世界を救えるよ」
それだけ言うとまたパソコンに向き直ってしまった。先程までしていた作業とはまた別のことを進め始めた様子だった。
私達は一度自分の部屋に戻って夢華さんの様子について考えることにした。
「なんか論文の話になった途端に元気になったよね」
「もしかして論文中毒にでもなってたのかな…」
「いやいやないでしょ〜!…あるかも…」
「あっ、あるんだね…」
「かなでの言うことは普段常に正しいから…」
「そんなバカな…」
「だって私は馬鹿だから…」
「えぇ〜…」
結局夢華さんの行動言動については話はまとまらず、査読の結果を待ちながら1日を終えた。




