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俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


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29、大橋家、フェリーで九州旅行するの巻

 四月に入ったある日、大崎家の四人は揃ってウキウキわくわくしていた。というのも、我々はこれから、フェリーで大分の別府温泉へ旅行するからである。


 昼過ぎに我が家を出発した。運転はなんと、俺がやっている。大学一年の時に免許を取得して近所の運転はしていたが、知らない土地の長距離運転はこれが初めてだ。緊張するが、車は好きなので運転はめちゃくちゃ楽しい。


 助手席のお父さんに要所要所で行き方を教わりながら運転を頑張る中、後部座席のお母さんと成海はぺちゃくちゃ喋りながらお菓子を頬張って笑っていた。呑気で幸せな人たちだ。


 大阪南港おおさかなんこうに無事に到着した。停泊しているフェリーの前には数台の車がすでに列をなして停まっていた。警備員と思われる男性に誘導され、俺も同じように車を停める。

 無事に着いてホッとしたら、


「運転、ありがとう〜!」


 と、お母さんと成海にお礼を言われた。俺は振り返ると、二人に、にかっと笑って返した。


 出航まで時間があったので車から降りると、潮の香りと共に、フェリーの燃料の重油の臭いも微かに漂ってきた。

 停泊しているフェリーをバックに四人で写真を撮る。四人ともフェリーに乗るのは今回が初めてなので、大橋家は目に見えてハイテンションだ。


 時間になったので四人で車に戻り、俺はエンジンをかけてスタートさせた。前を走る車の列についていくと、フェリーにどんどん車が吸い込まれていく。大橋家もそのまま流れるように車ごとフェリー内部に乗り込んだ。


 誘導に従って無事に駐車を完了し、エンジンを切ると、俺たちは車からトランクを下ろして乗用車スペースから船内へと向かった。他の乗客も同じようにトランクを引きながら移動している。


 乗用車スペースは剥き出しの鉄製に囲まれており、車のエンジン音やフェリー内部の様々な機械音で辺りは騒音が反響していた。微かに潮の香りがするが、船旅をする時の独特な重油の臭いがじかに鼻をつき、俺はめちゃくちゃテンションが上がった。


 トランクを引きながらドアを開け、船室に入ると、そこは先程の空間とは打って変わって、絨毯の敷かれた床が続くプロムナードが奥まで伸びていた。そのまま導かれるままに歩いていくと、ホテルのような豪華なエントランスの大空間が広がっていた。


 大きな階段が緩やかなカーブを描いて、吹き抜けの二階まで続いている。大橋家は、わーいわーいとなりながら、各々のスマホで写真を撮った。


 予約をしていたお父さんに従って、俺たちはトランクを引きながらついていった。すると、二つ並んだドアの間に立ち、お父さんは説明した。


「じゃあ、こっちとこっちの二部屋だから。六時半に一階のバイキングを予約してるから、それまでお風呂を済ませておくんだぞ。では、一旦解散」


 お父さんとお母さんは、二人揃って同じ部屋に入っていこうとした。

 え!?となり、俺は慌てて二人を引き止めた。


「ちょっと待て。おかしいおかしい。親と子どもで分かれんの?」

「そうだけど……なにか問題でもあるの?」 


 戸惑って聞き返してきたお母さんに、俺こそが戸惑った。


「問題だらけだよ。男子と女子に分かれよう」

「「ええ━━っ!?」」


 お父さんとお母さんの抗議の合唱に、


「なんなんだよ?」


 と、俺は二人をたしなめた。


「「大体、親と子供で分かれるもんじゃない?」」

「世間一般のことなんか知らないよ。他所よそ他所よそ、うちはうち。大橋家は合併した家族だから、初心を忘れないように」


 俺の発言に、お父さんとお母さんは、


「「合併した家族だったこと、すっかり忘れてた……」」


 と、驚きの表情で呟いた。

 忘れてしまうのは分からなくもない。俺も日々を過ごしているとすっかり忘れてしまうことがある。

 お父さんは「……う〜ん……」と困ったようにうなってうつむいた後、気を取り直したのか顔を上げた。


「お前は成海ちゃんを妹と思ってないのか?」

「妹と思ってるけども」

「成海ちゃんは?」


 お父さんにふられて、成海はきょとんとした顔で答えた。


「お兄ちゃんだと思ってるよ!」

「じゃあ、大丈夫だろ」


 嬉しそうに、どんなもんだいみたいな顔をするお父さんに、俺は(えー……?)と思った。


(いやいや、俺のことを男として見てしまうみたいなこと言うてたし、この人━━!) 


 って思った。

 心の中で騒ぎながら、俺はスンとすました顔で続けた。


「いーや、俺は間違えてない。男子と女子で分かれよう。君ら三人がなんと言おうと俺の感覚が正しい」

「浩平くん」


 すると、改まった口調でお母さんが口を開いた。

 そして、おもむろに大きなトランクを指差した。大きなトランクにはお父さんとお母さんの二人分の荷物が入れられており、俺と成海にはそれぞれ一人用のトランクがてがわれていた。 


「荷物の入れ換えが大変だし、申し訳ないけど、今日一日だけ我慢してくれない?」


 おめめをきゅるんっとまたたかせて訴えてきたお母さんに、俺はうっとたじろいた。


(俺の扱いを心得てやがる……!)


 そして、思った。明らかに我慢するの内容がこちらの思うそれとは違っている。妹の面倒をみたり、気を遣ったり、自分時間が減るたぐいの我慢だと思い込んでいる。

 そんな我慢、あの我慢に比べたら大した我慢じゃないし……!


「そういう我慢じゃなくて」

「パン太郎もいるから三人だし大丈夫だよ! 成海、先に部屋に入ってるね!」

「そういうわけだから、今日一日だけ親と子どもで分かれよう。では、一旦解散!」


 三人はそれぞれ部屋に引っ込んでいった。俺だけが、その場で茫然と立ちすくんでいた。


  



 部屋に入ると、右手にクローゼットとロココ調の漆黒のテーブルと椅子があり、左手にはトイレと洗面所があった。奥にはいちメートルほどの幅の床絨毯を挟むように、二つのベッドが並んでいる。


(こんなにベッド近いし……)


 って、なった。


(もう、どうなっても知らないし……。そういうことになったとしても、どう考えても俺のせいじゃないし……)


 って、投げやりな気持ちになった。

 入って右手のベッドの上で辺りをキョロキョロしながらニコニコしている成海に、仕方なく、俺も残りのベッドに座り、壁に背をつけて休憩した。


 そういえば、よく考えたら、こんな展開になるなんて思ってもみなかったから、コンドームなんか持参していない。絶対に間違いが起こらないよう、あそこに理性を総動員しなければならない。


 いや、待てよ――

 緊急事態用に財布の奥の奥に一つだけ忍ばせているやつが確かあったはずだ。いや、もしかしたら、二回戦の時に使ってしまったんだったか……?

 とにかく、成海とそうなるとは思っていないが、確認を急げ、俺!


 NEWニュー ERAエラのリュックから財布を取り出し、神妙な面持ちでそっと探索してみると――あった。奥の奥でコンドームくんが、「ご主人、出番ですか?」とばかりに、タキシードのえりを正してしゃなりと待ち構えていた。


 よかった――

 補充してくれた数日前の俺、ありがとう。

 とりあえず、俺が進撃の巨人になってしまって理性の壁のウォール・マリアが破壊されても、二番目の薄い壁があるから最悪の事態は免れたぞ。


 いやいやいやいや、違う違う。そういうことにならないよう、あそこに理性を総動員しなければならない。そして、使う予定なんか全くこれっぽっちもないし、この確認だって、一応念のためにやむ無しでやってみただけのことであって――


「なに見てるの?」

「うわっ!」


 覗き込んできた成海に、俺は慌てて財布を閉じた。


「なになにっ?」

「なんでもないよ」


 悟られないよう力強い口調で言ったものの思わずにはいられない。

 なぜ人は何かあるほど『なんでもないよ』と言ってしまうのだろう。これじゃあ、何かあるよと白状しているようなもんじゃないか。


「何を隠したの?」

「隠してないよ。財布の残高を見てただけだよ」

「ほんとに〜っ?」

「本当だよ。だからお兄ちゃんを許してあげなさい」

「何を言ってんのさ? そんなことより、早くパン太郎を出してあげて!」


 言われて俺は自分のトランクを開け、中でおとなしく仰向けになっていたパン太郎を渡してあげた。

 成海のトランクに入らなかったので、比較的、荷物の少ない俺のトランクへやってきたのだ。

 成海はパン太郎を枕元に置くと、スーツケースからSwitchを取り出してやり始めた。


 そうだそうだ。パン太郎がいるから三人だし、俺はお兄ちゃんだし大丈夫だ。そういう気持ちにならないだろう。いけるいける。

 …………。

 ――って、やっぱ無理。パン太郎に命なんか宿ってないし。どう考えても二人きりだし。


 ふと見ると、なんと成海は寝転がって足をバタバタして超リラックスしていた。スカートがめくれ上がって太ももが見えている。リビングだと平気だったのに、なぜ個室で二人きりだと無理になってしまうのか。

 頼むからマジでやめて――!ってなった。


「成海、スカートめくれてるから気を付けて」

「これ、スカートじゃなくてパンツスカートだから大丈夫だよ」

「そんな道理は知らん。見えてることには変わりないから」

「家でそんなこと言ったことないのに突然どうしたのさ?」

「悪いけど、もうちょっと警戒心を持ってほしい。俺のことを信用し過ぎてる。大体、なんで俺と一緒の部屋にしたんだよ」

「あのね、お父さんとお母さんって新婚旅行してなかったし、なんか……今だけでも新婚旅行の気分を味わってほしいなぁって思ってさ」

「…………」


 俺は感動した。妹はこんなにもお父さんとお母さんのことを思っていたのに、俺と来たらコンドームの有無を調べたり……。なにをやってんだ、俺のバカ……!


「成海、お兄ちゃんはダメ人間だったよ」

「……何の話?」

「でも、やっぱりこうも思う。その気持ちは大事だけども、残されたこっち、どうすんの? お兄ちゃんは男ですよ」

「お兄ちゃんは成海の嫌がるようなことは絶対にしないもん。だから大丈夫だもん」


 何を根拠にそう思うのか、成海は自信満々に言い切った。


「嫌がる……。俺とエッチするのは嫌ってこと?」


 ずばり聞いた俺に、成海は照れ臭そうに続けた。


「違うよ〜。お兄ちゃんとエッチはしたいけど、お兄ちゃんがちゃんと成海のことを好きになってくれなきゃエッチは嫌だもん。だから、成海をちゃんと好きになってくれるまでエッチはダメだからね!」

「…………」


 オアズケを食らってるのかなんなのか。もう訳が分からない。『惚れた弱み』ではなく、『惚れてない弱み』とでも言おうか。形容に尽くしがたい感情とはまさにこの事だろう。もう、俺は今、どういう表情をしているのだろうか。


「えへへっ、お兄ちゃんと一緒の部屋で寝るって、なんか新婚さんみたいで楽しみだね!(灬º‿º灬)♡」


 だから、新婚は初夜があるし――!って思った。


「どうなっても俺は知らんぞ」

「お兄ちゃんは成海の嫌がることはしないもん。だから安心安心♬」


 だから、そんなん分からんよ――! 俺は危険な奴ですよ――!って思った。


「Switch以外にトランプとかカードゲームとかいっぱい持ってきたから、夜は一緒に遊ぼうね!」


 楽しみ〜!とパン太郎を抱きしめる成海を見て思う。

 なんという世間知らずな娘なんじゃろか。

 男というものを全く分かっていない成海に、俺は深い溜息が漏れた。

読んでくださって、ありがとうございました。

次回に続きます。

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フェリー⛴️の旅か。いいね。
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