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俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


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27/28

27、Conflict

駅前のショッピングセンターに着くと、すでに多くの客で賑わっていた。


一階のひらけた空間のフロアでは、ご当地の食べ物やグッズのコーナーが並んでおり、驚いたことに広い通路に沿って奥までコーナーが続いている。

一番手前が北海道で、次に東北と続いており、どうやら歩けば歩くほど南へと下がっていくらしい。ショッピングセンターの本気を感じた。


北海道のコーナーで《札幌さっぽろらーめんセット二人前》を二つ買い、後はひたすら、じゃがビーを探し求め、南まで堪能していく。


東北はずんだ味、次に東京咖喱(カリー)味、信州のわさび醤油味、東海は手羽先味、関西はたこ焼き味、瀬戸内レモン味や九州のゆず明太子味と続き、最後に沖縄の島とうがらし味で俺の日本一周は終わった。


「さてと……帰るとするか」


目的を果たしたので、さっさと帰ろうとしたら、


「お昼、食べてから帰らない?」


と、隣の璃子に誘われた。


「いや、いいよ。帰るよ」

「ねぇねぇ、『丸亀製麺まるがめせいめん』で肉がさね玉子あんかけが期間限定でやってるよー」

「なんだとっ?」

「浩平、食べたいって言ってたよね? 一緒に食べようよー」

「そうだな……。じゃあ、食べてから帰ることにするわ」


璃子の誘導に従って、俺はフードコートへと向かった。

俺は丸亀製麺も、こよなく愛する男であった。





まだ十一時過ぎのため、フードコートの客はまばらだった。湯気が立つ商品の乗ったトレイを運び、二人で向かい合わせに座る。


俺が早速、食べ始めると、璃子は食べずに立ち上がった。フードコートに備えられた冷水機で、二つの紙コップに水を淹れて運んでくれた。


「ありがとう」


とお礼を言って、俺はまた食べ始めた。

璃子は釜揚げうどんと野菜かき揚げを食べ、俺はもちろん、肉がさね玉子あんかけと、ちくわ天とかしわ天を食べた。


「おいしいねー」


と、ニコニコ嬉しそうに笑う璃子に、俺も、


「やっぱ、丸亀製麺はいつ食べてもおいしいな。シェフに挨拶したいくらいだわ」


と、うどんをすすりながら返した。

その時だった。


「あ! お兄ちゃん!」


成海の声に、俺は(え?)と思いながら声のする方へ目をやった。

くりくりおめめの美少女が手を振りながら近づいてくる。明らかに周囲よりも目立っている美少女は、やっぱり予想通り、成海だった。


最初は成海しか目に入らなかったが、隣には同い年ほどの女の子が三人並んで立っていた。どうやら友達と一緒に遊びにきていたらしい。

友達の三人は少し離れた場所から俺たちに軽く会釈すると、席に座って食べる場所を確保しだした。


成海だけが笑顔で手を振りながら、こちらへ近づいてきた。


「成海も来てたのか」

「うん、お兄ちゃんも来てたんだね。あ、妹の成海です。いつもお兄ちゃんがお世話になっております」


ぺこりと可愛くお辞儀した成海に、俺はなんだか複雑な気持ちになった。


実際、なんのお世話になっているのかは絶対に知られてはいけないトップシークレットである。そして、こんなれた大人の世界を、成海はずっと知らないままでいてほしいと俺は切に願うのであった。


「わっ、ご丁寧に、なんか緊張しちゃうー。こちらこそ、お世話になってます。斎藤璃子です。こんな所で会うなんてびっくりー」


璃子と他愛ない会話をする成海の笑顔を見て、


(何にも知らないとはいえ、俺の妹はなんて純粋無垢な天使なんだろうか)


と、俺は改めて思った。


「それじゃあ、失礼します。あ、お兄ちゃん、ユニクロで《HUNTER×HUNTER》のコラボTシャツ売ってたよ~」

「マジか。ちょっと見てくるわ」

「うんっ、じゃあね~」


笑顔で手を振ると、成海は友達のいる席へと戻っていった。


「浩平」

「なに?」

「妹さんって、浩平のことが好きなの?」

「……なんで?」


突然の指摘に俺はびっくりした。女性はなぜこうも鋭いのか。名探偵よりも名探偵じゃん、と思ってしまった。


「なんか、そんな感じがしたんだけど。キーホルダーもお揃いだったから、ちょっとビックリしちゃった。それ、ペアのキーホルダーだよね? 浩平が選んだんじゃないでしょ?」

「……そうだな」

「今までそれらしいこと言われなかったの?」

「別に」


とぼけた俺に、納得いかない様子で璃子は続けた。


「そうかなぁ? 妹さんに直接、聞いちゃおうかなー?」

「聞いても何もない。俺たちはなんでもないよ」

「気になるなー。どう想ってるのか、ちょっと聞くだけじゃん」

「やめろよ。別に聞かなくてもいいだろ」

「なにをむきになってんの?」

「そんなんじゃない」

「むきになってるじゃん。いつもと全然、違うじゃん」

「そんなことない。聞かなくていい」

「ちょっと聞くだけじゃん。なんでそんなに嫌がってるわけ?」

「なんでって……俺と成海のことだろ。璃子には関係ないだろ」


俺の台詞に、璃子の表情が固まった。


「……私って関係ないの……?」

「関係ないだろ、セフレなんだし」


その瞬間、璃子の顔は一気に血の気が引いたように青ざめた。


「浩平……」


震える声で言ったそれは、すがるようだった。シャープな細目からは静かに涙が流れ始めた。

俺はびっくりした。璃子が泣いているところを俺は初めて見た。


「どうした……?」

「分かんない……。けど、私、悲しいみたい……」

「なんで……?」

「好きみたい……」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。

次に、恋愛はしたくないと言っていたのに、どういうことだという混乱と懐疑が湧いてきた。


「そんなわけないだろ」


俺の感情を察したのか、璃子はもう一度、俺を説得するようにまっすぐに見てきた。


「ううん、私、浩平が好きみたい……」

「違うだろ」


困惑しかなかった。嬉しい感情は一切沸いてこなかった。それどころか面倒な感情も湧いてきた。こんな自分を、俺はなんて勝手な奴なんだろうと思った。

璃子は顔を横へ静かに振った。


「セフレなんだし関係ないだろって言われて、悲しいみたい……。こんなにも苦しくて悲しいなんて、好きだとしか思えないよ」

「璃子は惚れっぽいから、どうせ好きだと勘違いしてるだけだろ」

「そんなんじゃない! こんなにも欲しいと思った人は浩平が初めてだよ! 今までの好きなんて、あんなの大した感情じゃない! 今までの恋なんて、あんなの全部、恋じゃなかった!」

「ちょっと待て」

「浩平、カノジョだったら、もっと優しくしてくれるの……? 聞いてもいいよ、それで君が安心してくれるならって言ってくれるの……?」


涙で黒々とした瞳で訴えられ、俺は困惑しかなかった。どうすればいいのか全く分からなかった。


「……俺と成海はなんでもないよ。ただの兄妹だよ」

「それでも成海ちゃんの口から聞いてみたい。カノジョの立場になって、ちゃんと聞いて安心したい」

「…………」

「私が浩平のカノジョになりたいって言ったらどうする……?」

「ちょっと待て。俺、そんなつもりじゃなかった」

「成海ちゃんに聞きにいきたいって言ったらどうする……? 浩平に近づかないでって言いたいって言ったらどうする……?」

「言わなくてもいいだろ。俺と成海はなんでもないよ」

「言いたい」

「言うな」

「分かった。そんなに言うのがダメなら、もうこの関係を終わりにしたい」

「じゃあ、終わりにしよう」


即答した瞬間、顔面に水がブッ飛んできた。


「ここまでシスコンだとさすがに引く」


伸びた前髪から、ぽたぽたとしずくが伝って落ちてきた。

荒々しく椅子を引いて、璃子が去っていく音がした。


周囲は、いろんな雑音や話し声が聞こえてくる。だが、明らかに俺への好奇の視線を感じた。

だが、そんなものはどうでもいい。どうだっていい。


俺は、成海の視線が怖かった。成海に見られたくないところを見られ、どう思われるのかを考えたら、どうしようもなく怖くなった。しばらく視線を上げられなかった。


すると突然、ふわりと優しく、前髪にハンカチが触れた。そのまま、ハンカチはふきふきと俺の髪や顔を遠慮なく拭いてまわっていく。


「……お、お兄ちゃん……喧嘩したの?」


目の前には、心配そうにおどおどしながら尋ねる成海がいた。

俺は安心してしまい、思わず小さく笑ってしまった。

読んでくださって、ありがとうございました。

遅くなって、すいませんでした。

次回に続きます。

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