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俺はもしかしたら妹が好きかもしれない  作者: 大崎真


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26/28

26、人は人生で三回、恋に落ちる

23時からF1(エフワン)の放送があったが、俺は録り忘れていたことに気付いた。

璃子の部屋の時計を見ると、午後八時を指している。


代わりに録ってもらおうと思い、成海のスマホにかけたら、『ちょっと待ってー』の台詞の後にがさごそと作業をしている音が聞こえてきた。と思ったら、


『無理だよ』


と、返された。


「なんで?」

『映画のコナンくんとかぶってるもん』

「バーロー」


思わずコナン口調でツッコむと、成海はけらけら笑い出した。


「何分かぶってんの?」

『十五分もかぶってる』

「最初の二時間を観たら、ラストの十五分は想像でいけるだろ」


けらけら笑いながら、成海はツッコんできた。


『ちょっとこの人、むちゃくちゃなこと言ってるよ~! 困るよ~!』

「頑張って想像したら、多分、犯人はこいつだったんだろうな~って感じでいけるだろ」

『そんなのやだってば~! ちゃんとコナンくんの口から聞きたいの!』

「眠りの小五郎の口からだろ」

『眠ってるから、やっぱりコナンくんじゃん!』

「あれ? ほんとだ! 間違えた!」

『そんなこといいから、とにかくやだってば~!』

「分かった分かった。譲ってやるよ」


成海と笑いながら電話を切った。

隣に座っている璃子は、ベッドを背もたれにしながら、黙ってPARMパルムのアイスを食べている。

俺は立ち上がって言った。


「録画できないし、もう帰るわ」

「明日は土曜日だし泊まって観れば? 浩平のアイスも買っちゃったんだよね。このアイス、好きだったよね? 食べない?」


食べかけのアイスを軽く持ち上げて言った璃子に、俺の動きはピタリと止まった。


前回、泊まった時も、期間限定の雪見だいふくにつられて泊まってしまった。俺はアイスをこよなく愛する男であった。

結局、前回と同様、(まあ、いっか……)と思い直し、また床のラグマットに座り直した。


「ありがとう。じゃあ、悪いけど、また泊めて」

「いいよ~っ!」


さっきまで無表情で成海とのやり取りを聞いていた璃子は、途端にニコニコとご機嫌になった。


「ねぇねぇ」

「なに?」

「だったら、もう一回しよーよ」


そう言いながら、さりげなく押し倒してきたかと思えば、璃子はさっさと俺の上に馬乗りになった。あまりにも急な展開に、俺は「え? え?」と戸惑った。


「ちょっと待て。どした? どした?」


たじろぐ俺をものともせず、璃子は俺の長袖シャツのすそまくし上げながら、腹から胸へと這うようにキスをしてきた。


「作業、はや!」


くすぐったさとあまりの素早さに思わず笑ってしまった瞬間、突然、深いキスをしてきたので驚いた。セックス中に璃子と軽いキスをしたことは何度かあったが、深いキスをしたのはこれが初めてだった。

そのまま俺たちは二回戦に突入した。



23時になり、プレゼントされたPARMのアイスを食べながらF1に夢中になっている時だった。


「ねぇねぇ、知ってた?」

「知らなかった」


テレビ画面に目をやったまま返した俺に、隣に座っている璃子はけらけら笑いだした。


「まだ何も話してないんだけどー」

「まだ何も話してないのに、なぜその喋り出しなのか。俺が知るわけなかろうに」


ピットインしたマシンを観ながら返した俺に、けらけら笑いながら璃子は続けた。


「なんかね、人が人生で恋に落ちる回数は平均で三回なんだって~」

「え……そうなの?」


俺は思わず璃子を見た。


俺は恋愛が分からなくなっていた。なんでもいいから、恋愛のことを教えてほしかった。

成海に対する感情も、家族愛だと思いながらも独占欲のようなものもあった。「あいつとは付き合うな」の台詞も、心配する気持ちだけで言ったものではない気がする。


かといって、成海をカノジョにしたいかといえば、そうではない。性欲よりも罪悪感が湧いてくる。おそらく俺は、成海を妹として大切にしたいんだろう。


俺にとって成海は、この世で唯一の理解者だった。淋しくて流した涙も、一緒に涙を流して淋しさを溶かしてくれた。死にたがっていた苦しい思いを吐き出した時も、そばにいて話を聞いてくれた。明るく優しく慰めてくれた。

誰にも見せられなかった弱い自分を、唯一、見せられる人だった。


だから、自覚している。成海を大切に想う気持ちが誰よりも強すぎる。

妹をとられるような淋しさから独占欲が湧くのかもしれない。やはり、俺はもしかしたら、かなりのシスコンなのかもしれない。


おかげで、というか、成海のせいで、なかなか俺は人を好きになれない。恋愛の良さも分からなくなってきた。

もうなんでもいいから、俺は恋愛というものを教えてほしかった。


興味を持った俺の反応に、璃子はスマホで検索した内容を目で追いながら、意気揚々と続けた。


「なんかね、異なる目的を持つ三つの種類の愛だって。一回目は『正しいように見える理想の恋』で、二回目は『辛いけどかてになる恋』で、三回目が『気付かないうちにやってくる本当の愛』なんだってー」

「そうなんだ」

「三回目の愛は正しいって分かるらしいよ。それが運命の人なんだって。三回の恋は順序は決まってないし、必ず出会うとも限らないみたい。でも、多くの人がこの三回の恋を経験して真の愛に辿り着くんだって」

「……三回も恋を経験して、やっと真の愛が分かるのか……。先は長いなぁ……」


面倒臭そうに呟いた俺に、璃子は意外そうな顔をした。


「そう? 平均の数だけど、それにしたって恋に落ちる回数が三回って少なくない?」

「いや、そんなもんだろ。璃子はどうだったんだ?」

「多いのかは分からないけど、幼稚園の時のやっくん、よっちゃん、小学生ではなおくん、野々村先生、あらたくん、中学の時は安田先輩……」


指折り数える璃子に、俺は思わず呆れ顔になった。


「……多いよ。それは恋じゃないだろ。そんなにも簡単に人を好きになれないよ」

「いーえ、恋ですー。私が恋って思ったら、それは恋なんですー。全部、こっちから告白して、無理だったのは野々村先生だけだったよ」

「凄い勝率だな」

「恋愛なんて、行かなきゃ損損! そういう浩平はどうだったの?」


言われて、俺は今までの出会いをざっと思い返してみた。


「……そうだなぁ。中学の時に一緒に図書委員をした子が初恋だったな。でも、何事もなく卒業して終わった」

「浩平らしい……」

「高校は同じクラスに気になる子がいたけど、ある日その子にカレシができて、誰にも知られることなく、ひっそりと失恋して終わった」

「浩平らしい……」

「ということは、二回か。あ、元カノもいい人だったよ。カノジョというより、俺の中では頼りになるお姉ちゃんって感じだったけど。まあ、だから、別れたんだけど」

「さっきの妹さんは……成海ちゃんだったっけ? 成海ちゃんは? 凄く好きみたいだけどー」


俺のスマホの画面を指先の爪で小突いた璃子に、俺は「ああ」と相槌を打った。

ロック解除前の画面を、ショッピングモールのクリスマスツリーの下で撮ったツーショットにしていた。


「確かに成海は好きだけど、妹って感じなんだよ。でも、元カノにはシスコン過ぎるって怒られたことがあったなぁ。妹に恋愛感情があるんじゃないの?ってやたらと疑われたな」

「確かに待受にするとかシスコンを越えてる。恋人同士にしか見えないんだけど」

「これは俺がしたんじゃなくて、成海が勝手にしたんだよ。ロック解除した待受は俺が選んだやつだし。ほらほら、ディープインパクトが日本ダービーで優勝したやつ」


ロック解除して、武豊とディープインパクトを見せながら、「これでもシスコンって言えるか?」と迫る俺に、璃子は「ハイハイ」と軽く流した。


「義理の兄妹で自撮りのツーショットとかマジであり得ないし。されるがままに待ち受けにしてあげてるのもシスコンじゃん。さっきの電話も凄く楽しそうに喋ってるしさ。本当に義理の兄妹?って感じだったー」


いつかの愛実と同様、璃子も疑いの目を向けてきた。


「本当にただの兄妹だよ。恋愛感情はないよ」

「じゃあ、待受、変えてあげる!」

「勝手にすんな。俺のスマホ」


璃子が持った瞬間、取り上げた俺に、璃子は不服そうに唇をとがらせた。


「成海ちゃんはいいのに、なんで私はダメなのよー?」

「だって成海は妹だから」

「義理の妹なのに好きすぎじゃない?」

「義理とか関係ないよ。俺の妹だから溺愛する」

「どう考えてもシスコンを越えてるんだけどー……」


璃子は、じとーという目を向けてきた。

これからの人生、関わる女性全員にシスコンだと言われ続ける気がする。

またこのパターンか……と、俺はうんざりしてきた。


「ねぇねぇ、そんなことよりさ、明日、土曜日じゃん。二人で出掛けない?」

「なんで?」

「お昼、外で食べたいんだけど一人じゃつまんないから」

「俺はいい。帰るよ」

おごるからさー」

「……奢ってくれんの?」

「ついでにショッピングもしようよ! お小遣いも付けちゃう!」


ニコニコ笑っている璃子に、俺は嬉しさよりも心配が勝ってしまった。

俺にお金を出してる場合じゃなかろうに、とお父さんみたいなことを思ってしまった。


「璃子、俺は家庭教師カテキョを二人も掛け持ちして頑張ってるからそんなのいいよ。お金は自分のために使った方がいい」

「だって、こうでもしなきゃ、浩平、出掛けてくんないじゃん」

「お金を出されても出掛けないよ。悪いけど帰るよ」

「ねぇねぇ、駅前のショッピングモールでご当地フェアだって~」

「なんだとっ?」


思わず食いついた俺に、璃子は「ふふんっ」と不敵に笑った。


「浩平、こういうの好きって言ってたよねー。駅前のご当地フェアを楽しんでから帰ったら?」


ショッピングモールのイベント情報が載った画面をこちらに見せてきた璃子に、俺はあっさり話に乗ることにした。


「そうする。ご当地すべてのじゃがビーを買うことにするわ。あ、お金はマジでいらない。自分の物くらい自分で買える」

「浩平はじゃがビーが好きなの?」

「まあ、好きだけど、成海が好きだから」


はぁ……と大きく溜め息を吐いた璃子は、まっすぐに俺を見てきた。


「浩平は……私の好きなものを知ってる?」

「前半はゆっくりで、後半から激しくするやつ」

「そうじゃなくて」

「ゆっくりと激しいを交互に繰り返すやつ」

「そうじゃなくて」

「目隠しして手を縛るやつ」

「そうじゃなくて」

「首絞め」

「そうじゃなくて」

「口を縛るやつ」

「それは隣に迷惑だからって勝手に浩平が始めたんじゃん」

「オモチャの種類の話か?」

「そうじゃなくて。っていうか、エッチの話じゃなくてさー」

「璃子が他に好きなものなぁ……」

「もういい……」


諦めたように呟いた璃子に、俺はしばし考えを巡らせ、ようやく思い至った。


「待った! あったぞ!」

「なになにっ!?」

「お酒!」

「ほんとだー……ありがとー……」


言葉とは裏腹に、璃子の反応はかなり落胆したものだった。

読んでくださって、ありがとうございました。

遅くなって、すいませんでした。

次回に続きます。


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