第12話 首領小屋の女
(注)本話は作中に残酷描写、暴力描写および性的表現があります。
ソニアの叫びに顔を上げると、ベッド脇に脱ぎ捨てられた大男の装備から抜き取ったのか、短剣を握った女が突っ込んでくる。思わず後ろに飛び退いて小銃を構え直すと、女の短剣は、床でのたうち回る大男の喉に突き刺さっていた。
女はその刃を引き抜くと、再び力任せに男に突き立てる。僕の存在を無視して何度も何度も大男の首や腹を刺し続けた女は、ようやく自分の相手がただの肉塊に成り果てていることに気づいたのか、死体の胸に突き刺さった短剣から手を離す。そして、放心したかのように床にぺたんと座り込んだ。
僕は、女の狂気じみた、執拗で一方的な“作業”を目前にしながら、何もできなかった。
瞬き一つしない、その見開かれた女の目からは、何の感情も読み取れない。何も纏っていない体は傷こそついてはいないものの、その股間から未だに溢れ出す大男の残滓は、彼女が陵辱の被害者であることを物語っていた。
「あんた、いったい何者だ。何故こんなことをする」
自分が最初の襲撃を仕掛けておいて言う台詞ではないと思いながら、僕は聞かずにはいられなかった。
「こいつには聞きたいことがあったんだ。それに答えようとしているときに、あんたはこいつを刺した。考えようによっちゃ、あんたはこの盗賊団の一味で、隠蔽のためにこの男を刺したのかもしれない。もしそうなら、僕はあんたを殺さなければならない。だから、お願いだ。納得のできる答えを聞かせてほしい。あんたはなぜ、この男を刺したんだ」
ソニアは黙ったままだった。つまり、今の僕の発言は、ソニアにとっても至極納得のいくものだということだろう。
何も答えない女にもう一度問おうとしたとき、天井を見上げて惚けていたかに見えた女が、突然小さく笑い出した。そして僕の方を見る。笑い声を上げているにも関わらず、その顔は全くの無表情だった。その細い目の奥には浮かぶ光もなく、その深淵に、ただ絶望だけが覗いているかに見えた。
「こいつらの一味? フフ……、そうかもしれないね。ここにいる馬や鶏もこいつらの一味と言えるんだったら、慰みもの役のアタイもそうなんだろうねぇ。だから、アタイも盗賊ってことでいいや。ねえ、あんた。あんたが今ここにいるってことは、こいつら盗賊は全滅したってことだよね。その瞬間に立ち会えただけでも、今まで苦しみに耐えてきた甲斐があったよ。だから、もう思い残すことはないさ。早いとこ、始末しておくれ」
そう言って、女は大の字に転がった。この話しぶりだと、やはり盗賊ではないということか。
「何やってんだい! 早く殺してくれって言ってるんだよ!! こっちは夫も子供もこいつらに殺されて、もう無くすものなんてないんだ」
「あんた、こいつらに攫われたのか」
「そんなこと、どうだっていいだろ! 早く殺しておくれよ!!」
突然、女の細い両目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。そして止まらないその川は、感情のない能面を流れゆく。
ソニアと相談したいところだったが、正体不明の女の前で精霊の存在を明かすのもまずいと思い、僕は語りかけないでいた。
「まあいい。あんたの処遇は後で決める。それより、人質の奪還の方が先だ」
「人質? ああ、収穫品のことか。なら、もう諦めな。こいつらは攫った相手のことは人間と思っていないんでね。いつも、物扱いしてやがった。だから、男はすぐに殺し、女は犯し尽くしてから殺す。こいつらを全滅させたのに、そいつの姿が見えないって事は、既に殺されているってことじゃないかい」
「いや、心配は無用だ。彼女は生きている。この隣の小屋に、小さな子供と監禁されているようだ」
「彼女?」
僕は問いかけに応じないまま、女をベッドに俯せに寝転ばせると、その両手を後ろに回し、ポーチから取り出した結束バンドで手首と足首を縛った。
「悪いけど、あんたの正体がはっきりするまでは、こうさせて貰う。少し痛いかも知れないけど、我慢してくれ」
「こんなことしなくても、殺せば済むことじゃないか」
「それは、いつでもできる」
「そうかい。勝手にしな。死にたいっていうアタイの気持ちは全く関係ないって事だね。まあいいさ。そういう扱いには、もう慣れちまったよ」
僕はそれには答えることなく、裸の女にシーツを掛けてやる。そして銃を構え直すと、女にそこを動くなと言い、外への扉に手を掛けた。
「なんであんた、その人質が隣にいるって知ってんのさ」
「……」
僕は何も答えずに首領小屋を出ると、ステップを駆け下りて左へ回り込み、隣の小屋に向かった。




