第13話 奴隷奪還
(注)本話は作中に残酷描写があります。
『二人は無事のようね。体温も平常。カリーニャは、今は起き上がって、子供に何か話しかけているみたい』
「二人以外には、中には誰もいないんだね」
『ええ、間違いないわ。この辺りには拘束者二人とさっきの女、それにアンタ以外に誰もいない。他にいるのは馬と鶏だけ』
その小屋も軍用のようだったが、こちらは貨物車両のようだ。外壁の台座に挿さる松明が一本焚かれており、揺らめく明かりが周囲を仄かに照らしている。窓のない堅牢な造りは首領小屋と変わらないが、長い車両側部に横開きの大きな扉が閉じていた。
その把手部分には太い鎖が巻き付けられており、中からは到底開けられそうにない。だが幸運なことに、錠前などで封印はされていないようだ。僕は鎖を緩めて外し、勢いよく扉を開くと、ステップのない小屋の床に手を掛けて、中に体を滑り込ませる。
暗視モードで真っ暗な小屋の中を見回すと、左隅の壁際で、奴隷の少年が一人の幼女を庇うように抱きながら、怯えきった表情でこちらの方を見上げていた。
「それ以上近づかないで! わたし達をどうするつもりか知らないけど、すぐ近くに仲間が来てるの。あなたも聞いたことがあるでしょ? 『雷閃の死神』って名前。彼ってとっても強いんだから! あなたの仲間、大方倒されたみたいよ。さっきも近くで彼と守護精霊の声が聞こえたんだから間違いないわ。もうあなた、逃げ道がないわよ!」
「あんまり敵を絶望させるようなことを言うと危ないよ。それに僕は『死神』じゃない。『独言のノエル』だって言ってるじゃないか」
『あれ、自分で言うんだ。アンタ、二つ名のこと嫌だったんじゃないの?』
僕はゴーグルを跳ね上げながら、小銃に取り付けたフラッシュライトを灯して天井を照らす。拡散した白い光の中に浮かぶ、汚れた少年奴隷と、彼に顔を埋めてしがみつく亜麻色の髪をした幼女。
「ノエルッ! ノエルなのね!! 助けに来てくれた。やっぱり助けに来てくれた! ノエル! ノエルッ!! 信じてた。わたし信じてたよ! ノエルが、あなたが、絶対助けに来てくれるって!!」
カリーニャは僕の正体に気付き、いきなり飛びついてきた。そして、僕の存在を確かめるかのように、強く抱きしめてくる。
「怖かった、怖かったよ! ノエル、わたし怖かったの!」
そして、彼女は大きな声で泣き出した。よっぽど恐ろしかったのだろう。僕は優しく彼女の頭を撫でながら、語りかける。
「もう大丈夫だ、カリーニャ。大丈夫。怖い思いをさせてごめんよ。僕が君から離れたばっかりに、こんな目に遭わせてしまった」
僕の腕の中で、ひとしきりわんわん泣いた後、ようやく彼女は落ち着きを見せた。
「ノエルが悪いんじゃないの。わたしが言いつけを守らずに、おしっこをしに森に入ったからこうなったの。ごめんなさい」
『まあ、あなたが無事で良かったわ。ザンギのおじさんにも、これで申し訳が立つし』
「ソニアさんもごめん。心配してくれてありがとう」
『まあ、アタシがした心配なんか、ノエルに比べれば大した事無いわよ。だって、あなたが攫われたと悟ったときのノエルの表情、この世の終わりが来たかのようなものだったんだもの』
「ちょっと、ソニア! 何変なこと言ってんだよ。僕はただ……」
『別に変なことじゃないじゃない。仲間を心配する事って、とっても素敵なことでしょ』
カリーニャは再び強く僕を抱きしめると、身を離した。
「二人ともありがとう。わたし達、本当に仲間なんだね。そう思っていいんだね。わたし今、とっても嬉しいや!」
暗闇に浮かぶ彼女の黒く汚れた顔は、流れた涙が一面に光るものの、その表情は酒場で初めて出会ったときのような、とても明るいものだった。
「お姉ちゃん、どこ行ったの? 誰か助けに来てくれたの? お母さんはどこ?」
カリーニャの後ろから、幼い少女の声がした。
「ごめん、ごめん。さっき言ってたお姉ちゃんの仲間が助けに来てくれたんだよ、クリムちゃん! ノエル、この子、クリムちゃんっていう――!?」
幼女を僕に紹介しようと後ろを振り向いたカリーニャの言葉が、突然固まった。その不穏な空気に、僕もカリーニャ越しに幼女に視線を向けた。そして息が止まる。
フラッシュライトの白い灯りに浮かぶ幼女の両目は無残にも潰されており、そこからは血が流れ続けていた。




