第11話 首領への鉄槌
(注)本話は作中に残酷描写、暴力描写および性的表現があります。
僕は、燃える男が言った、首領がいるという小屋に向かうことにした。不審者の接近を知らせるためだろうか、そこに通ずる小道には一面に砂利が敷き詰められている。
しかし、ここまで騒ぎを起こしたのだ。当然首領は、自分の軍団が何者かに襲撃を受けていると察知していることだろう。だから僕は、足音を忍ばせることもせず、盛大に砂利を踏み鳴らしながら進む。
短い小道は、すぐに小さな空き地に出た。そこに二つ並ぶ、比較的大きな小屋が目に入る。しかし、これほど盛大に砂利を鳴らしているにもかかわらず、小屋からは誰も飛び出てくる様子がない。
『カリーニャを見つけたわよ! この奥の小屋に、横になったあの子と子供が一人座っているのが確認できる。その手前の小屋では、二人の人間が重なっているわ。どうやら、大柄な男と小柄な女性が交接している模様。多分、この大男がボスのようね』
「女性? 攫われた乗客は女性二人と子供一人のはずだから、計算が合わないぞ。その女、一体何者だ? もしかして盗賊の仲間か?」
『分からない。そうかもしれないし、以前から囚われている人かもしれない。困ったわね。正体が分からない以上、即時射殺するわけにはいかないわ』
「ほかの影は無いのか」
『ええ、無いわ。周囲を確認したけど、半径百ヤード以内に生きた人間はいないと断言できる。小屋の四人以外はね』
正体不明の男女がいるという小屋は、一体どこから入手したのか、軍用馬車の車両を流用したもののようだった。その後ろに続く小屋は、おそらく貨物馬車の大型車両だろう。
さらに近づいてよく見ると、首領小屋は窓が一切無く、唯一の出入り口には堅牢に見える両開きの扉が備え付けられている。
そこに続く短い仮設の階段を上り、両手でそっと扉の取っ手を引く。右の扉は何かに固定されているようだったが、左側は意外にも施錠されていないようで、何も抵抗を受けずに開こうとする。逆に軽く押し込むと、内側の留め金で阻まれるのか、それ以上は進まない。どうやらこの扉は外開きのようだ。
中の様子を探るため、いったん扉から手を離す。無施錠の首領室から見るに、どうやら非常に統制がとれている組織のようで、親玉は組織の防衛力と、構成員の忠誠心に、絶大な信頼を置いているようだ。
中の人物が激しく動いているのか、小屋全体が小さく揺れているが、分厚い樫の板に遮られ、音は一切漏れてこない。この様子ならば、外の惨劇は気付かれていないかもしれない。
「この小屋、頑丈な造りだな。音が漏れ聞こえないから、中の様子が全く分からない。ソニア、様子はさっきと変わらないか?」
『ええ、変わりないわ。二人の体位が、正常位から後背位に変わっただけ。これで突入すぐのヘッドショットがしやすくなった。ノエル、今度は即時無力化に努めてよ! そうでないと、交接相手の女性が盗賊の被害者だった場合、人質に取られる恐れがあるわ』
「分かったよ。極力気をつける」
『男は射精中が一番無防備だから、その瞬間に突入する方がいいわ。どうやら、まもなく絶頂を迎えそう。あ、そろそろよ、待機して』
ソニアが増幅した室内音声でも、それは確認できた。快楽とも苦痛とも判断がつかない押し殺したような呻き声と、肉がぶつかり合う、乾いた、そして少しばかり湿った音。そして次第に男の荒い息が低いくぐもった呻きに変わる瞬間。
僕は左の扉を大きく引くと、そのまま小屋の中に踏み込み、銃を構え直す。蝋燭一本が照らす室内の藁敷きベッドには、腰を浮かせた俯せの女の後ろで反り返る大男の姿があった。
突然乱入してきた者の正体を見定めようと、その首が僕の方を向くが、よもや、大勢の部下を倒して敵が攻めてくることなど予想していなかったのだろう。口を半開きにした大男の目は、焦点が定まっておらず、自分の最期が近いことも理解していないようだった。
僕はすぐさま、全裸の大男の左腰部に向けて引き金を引く。間を置くことなく、男はベッドから崩れ落ちた。
『もう、ノエルったらっ! 即時無力化の意味わかってる!? それにこの状況で腰なんか狙ったら、変な角度で抜けた弾が女性に当たるかも知れないじゃない! いい加減、アタシの言うことを聞きなさいよ!!』
「ごめん。でも、こいつには聞きたいことがあるんだ。だから、すぐに殺すわけにはいかない」
男はどうやら気を失っているようだ。腰の左側方から入った弾丸は貫通することなく、骨盤や腰部脊柱をことごとく粉砕破壊したようで、周辺の形状が不気味なものになっている。着弾部からの出血は少ないように見えるが、腰部の動脈が裂けて大量の内出血を起こしているはずだ。
「おい、そこの人。あんたはこの盗賊の仲間か」
ベッドの上で俯せになったまま動かない小柄な女に声をかけるが、返事はない。背中が小さく上下に動くことから、生きてはいるようだ。部屋に響いた銃声に驚いて動けないのかもしれない。
僕はそのまま、床に倒れる大男の側に近づき、銃口を向けながら、その頭を軽く蹴飛ばす。すると小さな呻き声を上げて男が目を覚ました。
「おい。おまえがこの盗賊団の首領か。構成員は何名だ。ここ以外の集団もあるのか」
しかし、大男は質問に答えることなく、また侵入者である僕を罵りもせず、ただ痛い痛いと叫ぶばかりだった。急な反撃はないものと考えた僕は、その場に屈んで尋問を続ける。
「おまえはこの盗賊団の首領なんだろ。はっきり答えないか。さもないと、もっと痛い目に遭わせてやるぞ」
「お、俺は――」
『ノエル! 危ないっ!!』




