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割合は三対一

 豚が好きな人がいた。名を万里。その豚好きは筋金入りで、幼稚園のころにお遊戯会で三びきの子豚をすることになり狂喜乱舞し、まわりの子がその喜びように驚き、泣き出す子まで出たというのだから、どれだけ嬉しかったのだという話で。


 理由は定かではないらしく、とにかく彼女は物心ついた頃から豚が好き。あの愛くるしい姿、ピンク色という奇跡的な配色、つぶらさ、鳴き声、そして、それでいて美味しいと、視覚聴覚味覚で豚を好いている。いや、愛している。


 悪口で豚、と使うやからに本気の鉄拳を下し、豚がいかに愛くるしいかを語って説得しようとしたものの相手が迫力負けして号泣、その後先生にしかられたのが小学二年生のとき。

 はじめてできた彼氏が、豚の商品を見れば飛び付き、食う肉は豚、豚、そして豚の片寄り具合に辟易、いつしか夢にまで見るようになってしまい音をあげ、まさかの豚が理由で別れてしまったのが中学三年生の冬。

 仲良し女子のグループ名を、三びきの子豚にしようと提案し、バカ言わないでと笑われ、本気だったのにと落ち込む、高校二年生の日を経て、彼女は今、僕の前で延々と豚について語っている。大学三年生の春。食堂にて。講義内容は、三びきの子豚がいかに素晴らしい物語か。


「昔話で、よくあるパターンなんだけど、どんどん子ども向けになっていって、グロテスクさがなくなっていったのね、あの話も。最初は、狼が食べちゃうのよ、兄貴たちを。そして最後、狼を食べるの、弟が。兄も食べちゃうってことになるでしょ、それ。共食いよ、肉親食いよ。そりゃさすがに、規制されるよね」

「そうだね」

 僕はコーヒーを飲む。彼女も同じコーヒーを頼んでいるのだが、なかなか減ってない。

「でもね、それでもやっぱりどこかグロテスクなの、あのお話は。追いかけてくるのは、食べるためよ。狼も必死よ、おなかがすいているのよ。子ども達は、いつか気がつくの、豚を食べたい狼の気持ちに。お肉が食べられない子以外は、その美味しさを知っているんですものね。そこでふと、気がつくの。自分も狼の立場になる日が来るのかもしれないって。わかる? 深すぎるの、深いのよ、この話」

 深読み、掘り下げ、妄想少々。そういう解釈が嫌いじゃない僕は、なるほどなあと頭のなかで先程の考察を反芻しようと試みるも、彼女のマシンガントークはそれを許さない。

「そもそも豚ちゃんは、あんまり昔話に出てこないのよね。森の仲間たちの中に豚はいないでしょ。ウサギのとなりに、豚がいてもいいのに! かわいいのに。ほんとうに可愛いのに、もったいない。だからこそあの三びきの子豚は、稀有で素敵な作品なの」

 そうだそうだとうなずく。でしょでしょと彼女もうなずく。

「しかし、海里君に言われて気がついたけど、狼はよく出てくる反面、ほぼ悪役よね」

 マシンがントークを中断するチャンス。そうなんだよ、と僕は身を乗り出す。

「赤ずきんでもそう、七匹の子やぎでもそう」

 バトンタッチ。ここからは僕の番だ。


 僕に会って、彼女の世界は変わったのだという。はじめて、自分と同じ人種にあったそうだ。僕は、狼好きすぎ人間。理由は割愛、長くなる。

 彼女は、はじめて客観的に自分を見つめ直すことができたそうだ。そりゃ、子どもは泣くし、彼氏ともわかれるわ、と思ったそうだ。

 でも同時に、この人なら私のことをわかってくれるのではないか、とも思ってくれたそうで。


「あなたみたいなやさしい性格の狼がいたら、豚は恋に落ちていたのかもね」

 という、まあなんともわかりづらい告白をしてくれたりもした。

「君ぐらいかわいかったら、狼も食べなかったと思う」

 変な返しだけど、彼女は気に入ってくれた。


 いつか、君と一緒に暮らしたいという予定だ。豚のぬいぐるみと、狼のぬいぐるみにかこまれた家。もちろん割合は、三対一だ。


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テーマ「三匹の子豚」


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