第72話 提携ウインウイン
鍵は渡してもらったものの、拠点となるハウスの受け渡しは夕方5時以降。
これから簡単なクリーニングとかアメニティのセットに入るらしい。
それまでは残念ながら待機するしかない訳だ。
まあ今回はアレも頼んだしな。
今は昼過ぎなので丁度いい。
これから泊まり込むにしても各自準備が必要だろう。
考えてみればミズキの車も置きっぱなしだった。
驚きのステータス確認後、俺達は一度荷物を取りに狭間道場へ向かう事にする。
乗り込むのはもちろん市内循環バスだ。
タクシーを使ってもいいのだが身に付いた庶民癖は抜けない。
ホントは散財して世間に金銭を還元した方が経済が活性化するんだろうが。
まっこれも性分ってやつか。
定刻通り到着したバスのタラップを駆け上り俺達は最後部へ座る。
さすがに平日のこの時間に人はいなく、ほぼ貸し切り状態だ。
心地よい振動に揺られていると隣に座るコノハが聞いてきた。
「ねえねえ、ショウちゃん」
「んー?」
「それにしても家を借りるなんて凄いね。
何だかキャンプみたいだし楽しみ」
「そうか。
それは良かったな」
「うん!
でも――よくそんな都合の良い物件があったね」
「ああ、それは都合のいいものなんかじゃない。
仕方なく、ってヤツだ」
「仕方がない?」
「――そう。
俺達探索者っていうか、若者は戦う力がある。
だからあまり気に病まないだろうが……
自分の近所に突如ダンジョンが出来たらお前はどうする?
もし業魔が侵攻してきたら?
クラスを得る前――弱い頃の自分で立ち向かえるか?
心穏やかに暮らせるか?
大人世代の人たちはクラスも弱ければレベルアップもし辛い。
業魔に対し毅然と戦えないんだ。
だから仕方なく住む事を放棄したんだよ、ダンジョン近郊の人々は。
いつかダンジョンが攻略されて安心に暮らせる日々が来ることを信じて」
外を見ながら呟くように解説してやる。
反対側に座るミズキも無言だ。
確か彼女も似たような経験をして家を手放したと聞いた。
ミズキが双子と共同生活してたのは両親が疎開してるからだ。
子供か本人が探索者として働ければ、家族は格安の集合住宅に避難できる。
まったく良く出来た仕組みだよ。
俺が憂鬱になりながら景観を眺めてるとしゃくりあげる声が車内に響く。
発生源であるコノハを見れば、珠のような涙をポロポロ零れ落としひっくひっくとえずいている。
これには俺もミズキも慌てふためくしかない。
「ど、どうしたコノハ!?」
「コノハちゃん、大丈夫!?」
「ぼ、ボクそんな事も知らずに……
なんて無神経な事を……」
「だってそれは知らなかったんだから仕方ないだろう?」
「そうそう」
「けど……」
ジロジロとこちらを見てくる他の乗客……っていうかおば様方。
その視線はコノハとミズキに同情的で、俺へは女の敵を見る様な感じ。
まるで両脇に美少女をはべらかせているようにも見えるこの状況。
いかん、別れ話と勘違いされてる!?
俺とミズキはコノハの、何より自分達の名誉のためにフォローを入れる。
「だ、大丈夫なんだぞコノハ。
ちゃ~んとな、そういう人たち向けの救済システムも働いてる。
特にそういった人達の住居を登録しホームに仕立ててるのが行政だ。
俺達の支払う賃貸のほとんどは彼らに支払われる仕組みだ。
だから俺達がハウスを使えば使うほど彼らの財布も潤う。
俺達もダンジョン近郊にホームが出来る。
ほら、互いにWINWINだろ?」
「そーだぞ、コノハ。
私もそうやって避難している身だが、探索者が実家へ落とすお金で両親は支えられている。
家は人が住まないとすぐ駄目になるからな。
お金も入るし実際助かるんだぞ」
必死のフォローはコノハに届いたようだ。
涙をゴシゴシと拭い、向日葵の様な笑みを浮かべる。
「ありがとう、二人とも。
勉強不足だったね、ボク。
だからさ……これからも色々教えてね?」
きゅん、と胸にくるいじらしさである。
それはミズキや車内の乗客も同様のようだ。
コノハのほわほわ振り。
それは無条件で癒される事が満場で一致された記念すべき瞬間だった。




