第69話 俯瞰ヴィジョン
「ブレスが来る前に散開!
その後、各自特性攻撃へ移行!
体内にある魔核を中心に狙うぞ!」
「「了解!!」」
一網打尽を避ける為、俺達は部屋へ分散する。
暫定的だがこれまでの流れで俺がパーティの司令塔を務める事になった。
脳筋なコノハはともかく、こういった役割はクレバーなミズキへ任せたいところだったが……本人から拒否された。
お前以上の適任者はいない、と。
褒められて嫌な気はしない。
だが責任は重大だ。
さしずめ当面の指標は『命を大事に』か。
皆を無事に帰す事、安全第一を優先に戦闘指揮を振るう。
事前に調べた資料によると奴の攻撃パターンは大まかに三通りあるらしい。
その巨躯を活かした体当たり。
吐き出される強酸のブレス。
そして最後に極大灼熱呪文だ。
奴自身への魔法攻撃は特殊な魔導金属体である肌に阻まれ、ほぼ無効化される。
物理攻撃も金属故の硬さ、それでいて液体という特性に阻まれ、あまり有効的ではない。
随分隙の無い構成である。
さすがは階層主といったところか。
俺達が着込む【漣】との共通点が多々見受けられる事から、多分この鎧の発想というかコンセプトはこいつらから得たところが多いんだと思う。
ならば構造上、脆弱な点も同じ。
俺は工藤さんから伺っていた弱点を突く為、皆に指示を出す。
戦闘開幕直後、大きく息を吸うメタルキング。
案の定、吐き出されたのは強酸のブレスだった。
こんなものをまともに浴びたら無論命はない。
予め指示していた通り各自散開していた為、被害は皆無。
それでも飛び散った飛沫が部屋中に撒き散らされ腐食、白煙を上げる。
この煙も有毒だ。
長期戦は避けた方が賢明だろう。
最初に動いたのはミズキだった。
「ふん!」
右側から回り込み手にした戦斧を顕現、大きく旋回し横薙ぎに振るう。
巨大な眼をミズキに向け嘲笑するメタルキング。
明らかに間合いの外だ。
恐怖で錯乱したと思ったのかもしれない。
しかしそれは早計だ。
奴はミズキの持つ精神感応魔導金属製斧の特性を知らない。
振るった速度が最高峰に乗った瞬間、まるで騙し絵の様に斧が巨大化。
奴の巨躯にぶち当たる。
ゴオ~ン!
まるでお寺の鐘突きのような音が響き、動揺するメタルキング。
さすがは最高度魔導金属の一つ、オリハルコンだ。
奴自身の持つ硬さが衝撃を幾分か軽減したもののその威力は凄まじく、体の半ばまで斧が喰い込んでいた。
慌ててうっすら視える魔核を反対側へ移動させるメタルキングだったが……それは愚策だろう。
そこを執拗に狙う猟犬が反対側にいるのだから。
「えい!」
可愛らしい掛け声とは裏腹に、放たれた攻撃は凶悪の一言に尽きる。
間合いの遥か外から突き出したコノハの槍は、まるで全てを刺し穿つ槍の様に視認できない速度で魔核へと伸び進む。
抵抗なく金属体を突き破った槍は魔核を捉え、大きく穿つ。
本来であればコノハの力で奴の硬さを貫き徹すのは難しかった筈だ。
しかしミズキの攻撃により液体金属体が薄く分散し一方に寄ってしまっていた。
さらに危険個所から避ける為、魔核を中心部から外側へ避難させてしまった。
定石としては間違ってはいない。
奴の誤算はそこを正確に狙うコノハがいた事だ。
打撃には強固だが薄く伸びきった液体金属装甲の隙(一点)を突かれると脆い。
これは万能鎧である【漣】にも適応される弱点の一つだ。
魔核を損傷し最後を悟ったのか、奴は強大な魔力を練り始める。
イタチの最後っ屁か。
置き土産とばかりに道連れ覚悟で呪文をぶっ放そうとするのだろう。
「させるかよ!」
俺は鯉口に指を掛けたまま奴に直進。
最近やっと習熟してきた神魔眼の力を解き放つ。
神魔眼はマルクパーシュに付随する力の一つだ。
輝きを上げる虹色の瞳。
この双眸が見据えるのは未来視の類いではない。
世界を、起こり得る事象を物語として事前に俯瞰する力。
魔将相手に発動させたのがこれだ。
数秒先の変えられない未来ではなく――
数秒先の変えられる物語を俺は覗き視る事が出来る。
最初は膨大な量を呼び込もうとして脳の処理速度が追い付かなかった。
なので今は必要最低限な量のみを提示するように、ここ数週間特訓した。
全てが静止した世界の中、カンペのように浮かぶ物語。
この読み込み時間は俺も動く事は出来ない。
だが物語を読む事は可能なので俺は先を読む。
そこには【階層主の放った極大閃光呪文がパーティを襲う】と書かれていた。
今の読み込みではここまでが限界。
これ以上は確定した物語を変えられない。
ならば出来る範囲で俺は物語を……起きる事象を【改竄】する。
運命詩編改竄能力マルクパーシュを発動。
奴の放つ『極大』閃光呪文を『極小』へと変更。
これによりベギラゴンはギラ以下の威力へ成り果てる。
書き換えた反動なのか猛烈に痛む眼球を無視、改竄を確定。
その瞬間、物語は――未来は塗り替えられた。
通常空間に復帰し突き進む俺へ向け放たれる呪文。
それは本来なら俺達パーティに手酷い深刻なダメージをもたらした筈だ。
さすがの【漣】も魔力を纏った攻撃、呪文攻撃等はシャットアウト出来ない。
愉悦を浮かべるメタルキング。
しかし現実、放たれたのは花火並みの閃光と火力。
焦る奴は慌てて巨躯を蠢かせ俺を回避しようとするが――
「遅い」
奴に接近した俺は構えからの最速の抜刀、居合。
樫名刀【吹雪】は崩壊寸前だった魔核をその金属体ごと両断するのだった。




