第67話 威力アンイクスペクテッドリー
滑らかな疾走。
足に履いたブーツが床を捉え、膝を発条とし前へ突き進ませる。
動く度にマント下の【漣】が稲妻の様な輝きを燈し、心身の機能を飛躍的に向上させるバフ系恒常術式を循環展開。
俺の四肢を、意識を、感覚を強化・覚醒させていく。
工房主である工藤さん達が惜しみなくこの【漣】へ魔化を施したという話は、どうやら間違いないらしい。
全身を包む万能感。
束の間でも重力の頚木から解き放たれたようだ。
何より空気を裂き突き進むこの感覚は久々だ。
病院ではリハビリ室とベッドの往復だったからな。
走りながら、俺はふと入院生活を思い返す。
探索者用リハビリとして、重り100㎏を付けての理学療法。
そつなくこなしてPT(理学療法士)さんにドン引きされてたっけ。
あんな優しいメニュー、うちの道場では初心者向けなのに。
まあ、普通という概念が我が家では違うのかもしれないが。
超人集団の高笑いが脳裏に思い浮かび、うんざりしながら角を曲がる。
いた――魔力探査で察知した通り。
緑色をした粘液が三体。
いかにもドラクエチックな姿ではない。
ファンタジー世界に出てくる様な蠢く粘液体寄りの姿だ。
地域全体は大きく変わらないも、ここら辺はダンジョン差が影響に出るらしい。
時折立ち昇る煙は自身が生み出した酸による腐食か。
煙も有毒と聞いていたので俺は息を止め突っ込む。
三体いる中でも一番左端の奴に狙いを定め、抜刀。
中心にある核を弾き出すよう、気負いなく振り抜く。
結果、驚愕する。
――斬った。
斬れてしまったのだ。
魔核を、スライムを構成する粘液体ごと。
これには俺もびっくりである。
スライムとはいえ普通、粘液体ゆえの抵抗がある。
それはまるで泥濘に刃を突き立てる様な愚行。
斬撃や刺突は半減され、打撲攻撃は無効化されてしまう。
だから通常は粘液体に浮かぶ核を狙い、弾き飛ばすのがセオリーだ。
しかし親父から預かったこの樫名刀『吹雪』は――
そんな想像を遥かに上回ってしまった。
意図しない通常の斬撃でこの威力。
完全にオーバーキルである。
ならば必殺の意志を以て振るえば――
いったいどれだけの威力になるというのだろう?
俺はまだパラメータジャグラーのポイントすら注いでないのに。
……おいおい、どんな伝説級武器だよ。
多分これ、あんだけ苦戦した魔将クラスなら一刀両断できるぞ。
露雫ひとつすら零れていない蒼白き刀身を見ながら身震いする俺。
樫名刀の凄さは噂には聞いていた。
しかしここまでとはな――事実は小説よりも奇なりとはよくいうけどさ。
いづれにせよ、とんでもないチート武器を手にしたもんだ。
これからの探索に向け力強い相棒が出来たな。
感慨に耽る俺の脇ではコノハとミズキがそれぞれの獲物を仕留めていた。
コノハは惚れ惚れする様な疾走からの前傾チャージ。
手にした魔槍による刺突がものの見事にクリーンヒット。
魔核を中心にスラッグ弾を受けた様にスライムが弾き飛ぶ。
それはミズキも同様だ。
武装顕現させた剛斧をそのまま振り下したのだが――
これまた魔核にクリティカルヒット。
叩き付けた床ごとスライムは爆散し、消滅してしまった。
「えーっと……」
「これは……」
予想外の威力に戸惑う二人。
それを宥めるべき俺も残念ながら同じ状態である。
「ま、まあ――気楽に行こうか。
思ったより威力があってびっくりしただろうしな。
あと、魔核の回収は忘れずに。
俺のはなぜか真っ二つに斬れて――使い物にならなくなっちゃったけど」
「そうだね、ボクのは穿ち壊れちゃったし」
「魔核があるならまだいい。
私のは――消滅しちゃったし」
「お、おう。
という訳で――次からは気を付けて行くとしよう」
フォローにならないフォロー。
各自が自らの武器の威力にドン引きする中、俺達は進む。
やっとあのPTさんの気持ちが分かった。
きっとこんな思いだったんだろうな……うん。
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「おはようございます、先輩」
「おはよう、後輩ちゃん。
今日は何だか眠そうだね」
「分かります?
実はソシャゲーにハマって、2時まで頑張っちゃいました」
「ああ、そりゃ眠いわけだ。
まっ仕事に差し支えない範囲でね」
「勿論、理解してますよぉ。
あ~あ、一日が24時間だったらいいのに」
「……後輩ちゃん、一日は元々24時間です」
「――あ、いや違うんです。
遊ぶ時間が3倍になって24時間になったらいいのに、って話で」
「その理論だと仕事時間も三倍になりそうだけど?」
「あう~」
うちの後輩ちゃんはアホ可愛い。




