第65話 幻想ブレイク
ゆ、勇者……!?
――コイツが!?
驚愕に震える手で俺は関城と呼ばれた男を指差す。
重々しく頷くフミノ。
コノハとミズキも「うあ……私の想像より悲惨」とした表情を浮かべる。
確かにこのタガジョウダンジョンには二人の勇者が投入されているとは聞いた。
ひとりはコノハと同じ女性で、もうひとりは男性だとも。
だが――目の前で破廉恥行為に及び、尚且つ気絶したコイツが本当に勇者?
勇者というイメージが、俺の中に築き上げた幻想が砕け散っていく。
「――ふん。
ここは俺に任せてお前達は先に行け(クール系)」
「うおおおおおおお!!
ダチに手を出す奴は許しちゃおけねえぜ!(熱血系)」
「貴方の攻撃パターンは全て見切りました。
残念ですけど――僕の勝利です(インテリ系)」
「やれやれ……また戦いか。
まっ、こうして召喚されたからには本気をだすとしますか(ダウナー系)」
――等々、エトセトラetc。
テンプレ系から異世界ものまで幅広くカバーする勇者。
最近の小説では魔王と対照的に何かと悪者扱いされることが多い。
しかしそのどれもに共有するのはカッコいい、という事。
困難に対し懸命に立ち向かう姿は読者(俺)の心を捉えて離さない。
ああ、中二病と呼べば呼べ。
俺だって憧れたさ。
異世界召喚を夢見て鍛えまくったさ。
こういう世界でそういう家柄でもあったが――
一番のモチベーションはもしかしたら勇者になれるかもしれないという想いが俺を支えてきたのも確かさ。
それが、こんな……
こんなのが……
「うふ……あはは……
勇者ッテ、イツ見テモカッコイイナア~」
「ど、どうしたんだ――ショウ!?
そんな焦点のあってない瞳で虚ろな笑みを浮かべて!?」
「ああ、気にしないでミズキちゃん。
これは理想と現実のギャップの差に一時的に思考停止してるだけだから」
「ギャップの差?」
「――そっ。
ボクが女の子だったのもあるけど……
ショウちゃん、昔から男勇者に憧れてたの。
自身がなれなくても――いつか肩を並べて戦いたい、と思ってたみたい。
けど、現実は非情で……」
「こんな情けないセクハラ野郎だった、と?」
「うん」
「まあ――気持ちは分からないでもないな。
私もショ……ごほんごほん。
他の頼れる男を知らなかったら幻滅してたな、色々」
「だよね」
「――ううう。
本当にすみません。
一応お目付け役としてあたしたちが付いてるんですけど、この人良くも悪くも本能に忠実で……うう」
「ああ、泣かないでフミノさん」
「――そうそう。
パーティの仲間に罪はない。
なんなら放っておけばいいじゃないか」
「そうもいかないんです。
こんなんでも一応希少な勇者ですから。
幸い最低限のモラルとマナーはあるし、何かと女性至上主義なので、ギリギリ迫害されずにやってはいるんですけど……」
「ああ、そうなんだ。
だからか。
普通なら何事かと大騒ぎになるのに――皆苦笑するだけで去っていくのは。
これってもう日常行為なんだね?」
「うう……はい
呆れるより最近はどうも名物扱いで、生温かく見守られてるんです。
こいつ、ここ近辺の女性探索者には全て求婚して断れていまして……
新人や見慣れない女性探索者が来る度こんな感じなんですよ(溜息)」
「それは――気の毒だな。
まっ気を落とさず気楽にいくしかないぞ」
「うん」
「ありがとうございます、二人とも。
――ところで、コノハさんてもしかして……」
「ああ――うん。
一応そこの彼と同じ」
「やっぱり!
アオバダンジョンを攻略した事は行政から伺ってますよ!
おめでとうございます!」
「――うああ!
あのね、フミノちゃん」
「――はい?」
「その事はどうかご内密に。ね?」
「ああ、知れ渡ると色々面倒ですからね。
それにミズキさんも確か、魅了の剛斧の異名を持つ女戦士では?
同じ前衛職として憧れます!」
「なんだ、それは……」
「――あははは。
あたしたちの業界も狭いので、色々と噂になるんですよ。
ビキニの悪魔とかいう風にも聞いてました……所詮は噂でしたね。
そんな痴女みたいな恥ずかしい格好する筈はないと思ってまして。
今も普通のマント姿ですし」
「ま、まあな。
そんなビキニアーマーなんて装備する奴がいる訳……はは」
「? 顔色が……」
「な、なんでもないぞ」
「そうですか?
ん~まっいいか。
おっ、どうやら手続きが終わった様ですよ。
こいつの始末はあたしがしておきますから、どうぞ」
「あ、うん。
悪いけど先にダンジョンへ向かうね。
いい、ミズキちゃん?」
「ショ、ショウがこんな状態だし、そうするか(うんうん)。
では、フミノ。
申し訳ないけど後を頼む」
「はい御武運を~♪
またお会いしましょう!」
「ほら、行くよショウちゃん」
「オレ行ク。
ダンジョン潜ル」
「駄目だ、退化してる……」
「大丈夫、ダンジョンに行けば嫌でも戻るから」
「本当か?」
「ダメなときはキスしちゃえばいいよ。
あ、勿論二人でほっぺにだよ?」
「そっそれは……いいのか?」
「うん。全然OK。
男から女は犯罪だけど――
女性からは合法だよ♪」
「そうだろうか……?
う~ん……深く考えないようにするか」
「そうそう。
じゃあダンジョンに向けてレッツゴー☆」
コノハ以外初となる他勇者との邂逅を記憶がない内にいつの間にか終え――
こうして俺は自分でも知らない内にタガジョウダンジョンへアタックしていくのだった。(;´д`)トホホ




