第64話 理解アンノウン
突如コノハへ背後から抱き着こうとした不届き者。
それは俺達と同年代くらいの男だった。
黙って立っていればジャニ系の優男だろうに、今はその顔が見るも無残なくらいだらしなく緩んでいる。
好色なエロ目で涙とよだれを撒き散らす姿。
俺が女じゃなくても分かる。
あれを見れば百年の恋も冷めるだろう。
さらに身を捩るコノハに回された腕。
身体にギリギリ触れてはいないものの、その先がワキワキと何かをまさぐる様に開閉し蠢いているのも大きなマイナスポイントだ。
まあ何はともあれ同意なき抱擁未遂。
これは立派な痴漢で犯罪行為だ。
俺とミズキはシンクロしたように変態を排斥すべく即時行動に移る。
ミズキが裏拳、俺が後ろ回し蹴りで撃退しようとしたのだが――
「うおっと!
あぶねーあぶねー!!」
コノハから瞬時に身を離した男はバックステップで急回避。
ゴキブリのような瞬発力を見せると距離を取る。
……躱した、だと?
いくら殺さぬよう手加減したとはいえ、それなりに力を込めた俺達の――到達者と踏破者クラスの攻撃を?
そういえばコイツ、まったく気配を察知されず近付いてきたな。
軽薄そうな外見に油断した俺が馬鹿だった。
これが暗殺者や敵だったらどうするつもりだ。
間合いを計りながら、警戒レベルを三段階上げる。
ミズキも同様だ。
ダンジョンマスターに相対した時のような緊迫感。
その殺気を受けた男は――
「ああああああああああああああああ!!
すみません、すみません!
その娘が可愛くてあまりにもタイプなのでつい出来心で!!
どうか、どうか平にご容赦をおおおおおおおおおおお!!」
いきなり土下座するなり地面に額をこすりつけ、摩擦で火が出るくらいの勢いで謝罪をし始める。
な、なんなんだコイツは……?
次の行動がまったく分からん。
俺にとって既定の対応パターンに無い、未知の生命体との遭遇に近い。
返答に困った俺はミズキに助けを求める。
ミズキは盛大に溜息を吐きながら――
「言い訳はいい。
だからまずは土下座を止めろ」
「はいいいいいいいいいい!!
っていうか、こっちのおねーさんもすっげー美人!
本妻はこの娘なんで、よかったら愛人契約を結んでくだ……って、睨まないで!
そんな道端に落ちてる汚いゴミ屑を見るような瞳を注がないで!!
ああ、ああああああああああああ!!
でも……こ、これはこれで……イイ!」
促したミズキを遮り、勝手に叫び勝手に悶える男。
呆気に取られ当惑する俺達。
あまりにもクレイジー過ぎて困る。
いったいなんなんだよ、コイツ。
通報するべきか?
するとその時、怒涛の勢いで通路奥から誰かが走ってきた。
長い黒髪の女性らしきシルエットは助走の勢いを殺さずに飛ぶと――
「いい加減に死ね、だよ。
このド変態がああああ!」
「ぬああああああああ!!」
座り込む男の頭を全力で蹴り飛ばす。
抵抗する事無く喰らい派手にぶっ飛んでいく男。
大丈夫、なのか……?
何だか首が曲がっちゃいけない角度に曲がっていた気がするが。
っていうか貴女、パンツ見えてますよ?
パンパン、と衣服を払うと女性は俺達に向かい合う。
俺はその時、その女性が武闘家が着る稽古着姿だった事に気付いた。
なるほど……素手戦闘をメインとするモンクタイプか。
だからあの威力なんだなーと見当違いな事を考える。
そんな俺をよそに女性は涙を浮かべると全力で謝りだす。
「――すみません!
ウチの変態がご迷惑をお掛けして!」
「えっと……
まだ具体的に触られてはいない、よな?」
「うん……まあ、そうだけど……」
「それでも気持ち悪かったはずです!
生理的に無理だったはずです!
あいつにはパーティ仲間のあたしが、よ~く体に言い聞かせますから。
こう……生まれてきた事を後悔するくらい、拳と蹴りで!」
うふふ、と昏い笑みを浮かべる女性。
ヤバい――会話は通じるがこの女性も相当アレだ。
情報収集の為にも話の向きを変えよう。
「と、ところで君は――?
俺の名は狭間ショウ。
今日からここタガジョウダンジョンにトライする探索者だ。
こっちはパーティのメンバー」
「同じく倉敷ミズキ」
「ボクは咲夜コノハ」
「――ああ。
そういえば自己紹介がまだでしたね。
あたしったら、つい。
粗忽者でホントごめんなさい。
あたしの名は北条フミノ。
そこで気絶している関城タダオの――
タガジョウダンジョンの汚点こと変態勇者のパーティメンバー、です」
白目を剥いてひっくり返っている男――関城を指さしながら、北条フミノは恥じ入る様に俺達へ驚愕の内容を告げるのだった。




