第62話 退魔コンセプト
そのままじゃ目立つわねェ、と言う工藤さん。
もっともな話である。
見慣れない顔の新人が高級そうな装備をしている。
うん、まずガラの悪い連中に絡まれトラブルの元になるだろう。
力を手に入れると人は横柄になりやすい。
ダンジョン外における特技の使用に関しては非常に厳しい行政だが、探索者同士の争いには基本不介入だ。
あからさまな犯罪行為は勿論処罰の対象だが、軽犯罪レベルの問題は見過ごしがちである。
何故なら探索業は身体を張った仕事だ。
そういった分野は力=正義という方程式が成立しやすい。
全体的な方針はともかく、荒くれ者個人個人の取り締まりはとても手が及ばないのが現状。
自浄作用……個々のモラルに期待する、ってやつだ。
結果――ものを言うのはレベル及び功績。
俺やミズキ達は、少しは名を知られた存在だった。
だから絡んでくる奴は大っぴらにはいなかった。
でも、皆無な訳じゃない。
表立ってでないものの誹謗中傷翳口。
隅に目を向ければ不快な奴等は確かにいた。
もっと悪質なのは授業料と称したカツアゲや暴行目的のナンパなどの行為。
こういったグレイゾーンな行為を侵す輩は残念ながら、いる。
アオバダンジョンは俺を含む有志でそういう不届きな奴等を排除(主に物理的に……殺してはいませんよ?)していたが、ここタガジョウダンジョンがどうなのかは分からない。
話は長くなったが警戒するに越したことはないのだ。
悪意に晒されたことがない為、きょとんとした表情のコノハを余所に、互いに顔を見合わせる俺とミズキ。
さて、どうするかと思ってたところ……仕方ないわね~これもサービスよんと、工藤さんはマントをくれた。
綺麗な空色で丈夫そうな造り。
これなら全身を隠せるし都合がいい。
特別な効果はないらしいが、パーティで揃いなのが連帯を深めそうだ。
ちなみに鎧を外す時は再度【着装】と呼ぶだけでいいらしい。
重要なのは脱着する意志とキーワード。
それに応じ元の球に戻ったり着装出来るとの解説を受ける。
「――ちょっといいかしら?
あとは武器なのだけど……」
今まで黙っていたレイカさんが口を開く。
「どうかしましたか?」
「あなたたちが先日まで使っていた武器。
アレも経験を積んで進化し掛けていたけど……
――残念ながら耐久限界ね。
振るうのを引き留めるレベルの損傷だったわ」
激戦を乗り越えた俺の刀、ミズキの斧、そしてコノハの槍。
魔化されたミズキの斧はともかく、数打ちだった俺達の品々。
むしろ無茶な使い方によく付いてきてくれたと思う。
「だからこれ、二人には新しい武器を用意したわ。
以前から研究していた品の廉価版だけどね。
持ってみなさい」
コノハとミズキにロッドを渡す魔女。
傍から見ればマーチングに使われるようなバトンに似ているのだが……
ゾクっとした俺は左目を隠し覗き込む。
結果――判明。
こいつはとんでもないぞ。
「レイカさん、これって……」
「はい、さっきと同じよ。
構えて【武装】って言ってみて」
「「【武装】」」
レイカさんの声に素直に応じる二人。
次の瞬間、各々の武器は真の姿を取り戻す。
コノハの手にしたロッドは長大な槍に。
ミズキの手にしたロッドは巨大な斧に。
驚く二人にドヤ顔でレイカさんは説明し始める。
「コノハちゃんに渡したのは精神感応魔導金属で作った伸縮自在の槍よ。
自分の意志で伸び縮み出来る優れもの。
ミズキちゃんに渡したのも同じ精神感応魔導金属制の斧ね。
こっちは見かけよりずっと重いけど、自在に大きさを変えれるわ。
質量保存の関係上、共にある程度の制約はあるけどね」
さらり、と解説する魔女。
しかしこれはとんでもないことだ。
魔導銀であるミスリルより高価な精神感応魔導金属オリハルコン。
それは軽くて非常に丈夫で魔力を纏わせることが可能だ。
漣もそうだが、だからこういった加工も出来るのだろうが……
いやはや、彼女は前衛職でないから気付かないだろう。
自らが生み出した武器の恐るべき効果を。
間合いを自在に操れる武器。
それは俺の様な前衛職にとって悪夢以外の何ものでもない。
俗に剣と槍は三倍段という。
たとえるなら初段の槍の腕前を相手にするなら剣の腕前は三段が欲しいといった具合だ。
この大きな理由は多々あるが……一番は間合いだ。
槍の描く殺傷圏。
そこへ入るには並大抵以上の覚悟をしなければならない。
稽古ならやり直しがきくが実戦における敗北は死と同意儀。
気安く打ち掛かれなくなる。
その上でコノハの槍の恐ろしいのは、見切ったと油断した槍がさらに延長して自らを襲って来る事、尚且つ懐を詰めたと思ったら短槍になり対応して来る事。
これは正直攻略するのは手を焼く。
ミズキの斧も同様だ。
大きさを自在に変える斧。
受け手に回った瞬間巨大化するなんてどこのゴムゴムだよ。
ミズキはいまいち気付いてないようだけど、これ前衛職が垂涎してやまない範囲攻撃も行える品だぞ。
いいな~二人とも。
樫名刀があるとはいえ少し羨ましくなる。
だから訊いてみた。
「あの~レイカさん?」
「なに?」
「俺の分は?」
「ある訳ないでしょう」
ガーン。
やっぱり。
「な、なんで!?」
「じゃあ――逆に聞くわ。
何故あると思ったの?」
「ですよね~」
「可愛い女の子ならいざ知らず――
男の武器なんて仕事以外じゃ作りたくもないわ。
大体、今の君に武器なんて必要ないでしょ?」
「……分かります?」
「君ね、私達をなんだと思っているの?
君が携えているその双刀。
おそらく室町時期の古刀なんでしょうけど……
剣袋の上からでも分かる、凄い業物だわ。
私達創造職が求めて止まない域の、ね。
お願いだから工房内じゃ絶対抜かないで。
年月と信仰を重ね――神秘の域まで達した武具。
抜いた瞬間、室内の作業用魔導回路がオーバーヒートするから」
「アタシからも良いかしらぁ?」
「は、はい。
どうぞどうぞ」
「貴方の持つその刀だけど……使い方が良かったのね。
神秘の上に数多の魔を狩ったという概念が上乗せされてるわぁ。
元々の性能に魔を滅するという特性が付与されている。
いうなればそれは――退魔の刀。
おそらくだけど……扱いに熟練すれば魔法を斬れるわよん」
「魔法を……斬る?」
「そっ、正確には魔法という認識を断ち切るんだけどね。
誰が作り誰が業魔相手に立ち回って育てたかはしらないけど……
アタシたちでは未だ及ばない、
冒涜するようなクラスの武器なのは間違いないわよぉ」
お、親父いいいいいいいい!
アンタ、いったいこれで何をしでかしてたんだよ!!
とんでもないチート性能の判明に……
俺は思わず親父のやんちゃぶりへと絶叫するのだった。




