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レベルアップ!

2


 あれから《リプレイ》を試しまくった結果、いくつか分かったことがある。


 まず、魔力の消費量は登録した動作の長さで決まるっぽい。


 最初に登録した斧の振り下ろしは、一秒もかからない動作だった。それを《リプレイ》すると、魔力を一消費する。


 じゃあ、もっと長い動きを登録したらどうなるのか。


 気になったので、斧を五回続けて振ってみた。


「セット!」


 横薙ぎ、振り下ろし、切り上げ。そこからもう二回、適当に斧を振り回す。


 正直、途中から足がもつれていた。


 格好よく五連撃を決めるつもりだったのに、最後の一発なんて斧に振り回されていただけだ。技術のない人間が重い武器を連続で振るとこうなるらしい。


 それでも登録自体は成功した。


 魔力が全回復するまで待ってから、斧を構える。


「リプレイ!」


 何も起きない。


「あれ?」


 もう一度やってみる。


「リプレイ!」


 やっぱり動かない。魔力も減っていなかった。


 五回は多すぎたのか?


 登録枠を一つ消し、今度は斧を三回振る動作へ変更する。


「セット!」


 振り下ろし、横薙ぎ、もう一度振り下ろし。


 さっきより短い。これならどうだ。


 減っていた魔力が戻るのを待ってから、《リプレイ》を発動する。


「リプレイ!」


 俺の身体が勝手に動き、登録した三回の攻撃を続けて再現した。


 腕だけではない。足の運びも腰の回転も、セットしたときと同じだ。


 再現が終わったところでステータスを確認する。


【魔力】1/3


「二も使うのか」


 斧の振り下ろし一回なら、消費魔力は一。


 三回続けて振ると二。


 なら、単純に動作の回数で決まるのか?


 次は斧を置き、拳を構えた。


「セット!」


 左、左、右。そこから左右を一発ずつ。


 合計五発。


 ボクシング経験はないので、たぶんジャブっぽい何かと、右ストレートっぽい何かだ。最後の二発はもう普通のパンチである。


 また魔力の回復を待ち、《リプレイ》を使う。


 今度は発動した。


 俺の両腕が素早く動き、五発のパンチを連続で放つ。


 消費した魔力は二。


「なるほどな」


 斧は五回だと発動せず、三回なら発動した。


 一方でパンチなら、五回でも発動する。


 攻撃回数ではない。たぶん、登録した動きを再現するのに必要な時間で消費魔力が決まっている。


 短い動きなら一。少し長くなると二。それ以上になると三、四と増えていくのだろう。


 今の俺は魔力が三しかない。斧の五連撃を再現するには、それ以上の魔力が必要だったから発動しなかった。


 たぶん、そういうことだ。


 ちなみに、魔力は時間が経つと少しずつ回復した。


 正確な回復速度までは分からない。時計がないからな。それでも休んでいれば戻ると分かっただけで十分だ。


「十一連撃とか登録したかったんだけどな……」


 某VRゲームアニメみたいな必殺技を期待していたのに、今の魔力量では三回攻撃が限界だった。


 残念。


 まあ、魔力が増えれば長い動きも使えるかもしれない。


 それに、登録できる数は三つしかない。格好いい連続攻撃を入れるより、短くて使いやすい動作を三つ選んだ方がいいだろう。


 ぱっと思いつくのは、斧を振る動作。


 ナイフを投げる動作。


 それから、攻撃を避ける動作。


「よし。いっちょやりますか!」


 俺は斧を持ち上げた。


 そのまま動きを登録しようとして、足元のホーンラビットが目に入る。


 血のついた死体が転がっている場所で、斧を振り回し続けるのはまずいか。


 さっきの戦闘で枝も折れている。俺の声を聞いて、別の何かが近づいてくる可能性だってある。


「……場所を変えてからだな」


 リプレイを試したい。


 すぐ試したい。


 でも、試している途中に二匹目が来たら笑えない。


 俺は縄でホーンラビットの後ろ脚を縛り、斧を持ってその場を離れた。


     ◇


 少し歩き、周囲を見渡しやすい場所を見つけた。


 大きな岩と木が離れて立っており、足元に茂みも少ない。何かが近づいてきても、さっきよりは早く気づけそうだ。


 ここなら大丈夫だろう。


 まず登録したのは、斧の振り下ろし。


 連続攻撃も捨てがたいが、今は短くて威力のある一発の方が使いやすい。相手が隙を見せた瞬間、確実に斧を振り下ろせる。


 次に登録するのは、回避動作だ。


 右へ大きく踏み込み、そのまま身体を沈める。


 ホーンラビットの突進を避けたときより、かなり速く動けた。何度かやり直し、一番うまくいった動作を登録する。


 問題は三つ目だった。


 果物ナイフを右手で持ち、少し離れた木へ向けて投げてみる。


「ふっ!」


 ナイフはくるくる回り、木のかなり手前へ落ちた。


「……まあ、そうなるよな」


 ナイフ投げなんてやったことがない。


 映画やゲームでは簡単そうに投げているが、実際にやると真っすぐ飛ばすことすら難しかった。


 拾っては投げ、拾っては投げる。


 横へ飛ぶ。刃ではなく柄が木へ当たる。地面へ突き刺さる。危うく自分の足元へ返ってきたときは、さすがに少し離れた。


 何度目かの挑戦で、ナイフが真っすぐ飛んだ。


 刃先から木へ当たり、浅く突き刺さる。


「おおっ!」


 今のだ。


 俺は急いでナイフを回収し、さっきと同じ場所へ戻る。


 立つ位置、腕の角度、投げる速さ。


 できるだけ同じになるよう意識して、もう一度投げた。


 今度は木の横を通り過ぎる。


「難しいな、おい」


 一回うまくいったからといって、次も同じように投げられるわけではないらしい。


 それでも何度も繰り返し、狙った木へ真っすぐ飛んだ動きを《セット》した。


 ナイフを拾い、魔力が回復するのを待つ。


 同じ位置から木へ狙いをつけた。


「リプレイ!」


 腕が勝手に動く。


 果物ナイフはほとんど回転せず、狙った場所へ飛んでいった。


 刃が木へ突き刺さる。


「成功!」


 自分で投げれば何度も失敗する。それなのに《リプレイ》なら、うまくいった一回をそのまま再現できる。


 これ、すごくないか?


 感覚でいえば、FPSに近い。


 俺が狙いをつけて《リプレイ》を使えば、あとはスキルが決めた動きをしてくれる。


 しかも、ただ同じ腕の動きをするだけではなかった。


 試しに木へ背中を向けた状態で使ってみると、俺の身体が勝手に振り返ってからナイフを投げた。


 少し横を向いていても、狙った木へ飛んでいく。


「じゃあ、これはどうだ?」


 地面へ寝転がり、仰向けになった。


 枝葉の隙間から空を見上げながら、木へ狙いをつける。


「リプレイ!」


「うおっ!?」


 上半身が勝手に起きた。


 身体が横へ回り、投げやすい姿勢へ直される。そのまま腕が振られ、ナイフが木へ突き刺さった。


 寝転がった状態からでも成功した。


「なにこれ。異世界パワー?」


 登録したときと体勢が違っていても、ある程度ならスキルの方で合わせてくれるらしい。


 もちろん、どんな状態からでも使えるとは限らない。両手を縛られていたり、壁へ押さえつけられていたりすれば無理だろう。


 でも、多少バランスを崩している程度なら使える。


 これはかなり強い。


 俺は木へ刺さった果物ナイフを見ながら、何度も頷いた。


 大幅な戦力アップだ。


 斧を振り下ろす《リプレイ》。


 ナイフを投げる《リプレイ》。


 攻撃を避ける《リプレイ》。


 これだけあれば、次にホーンラビットが出てきても、さっきより楽に戦えるはずだ。


 いやー、便利そうだとは思っていたけど、想像以上だったな。


 魔力が少ないのは問題だが、時間が経てば回復する。一回の戦闘で無駄遣いしなければいい。


 俺は満足しながら空を見上げた。


 そこで、ようやく気づいた。


「あれ。暗くなってない?」


 木々の間から差し込んでいた光が、かなり弱くなっている。


 さっきまで青かった空も、黄色っぽく染まり始めていた。


 リプレイを試し始めたときは、まだ昼だったはずだ。


 そこから何度も斧を振り、魔力の回復を待ち、ナイフを投げ続けた。


 うん。


 そりゃ、時間も過ぎるわ。


「いや、マジで俺は何してるんだ」


 水を探すために歩き始めたんじゃなかったか?


 それがリプレイを手に入れた途端、何時間も遊び続けてしまった。


 いや、遊びではない。


 今後の生存率を上げるための、重要な能力検証だ。


 そう。必要な時間だった。


「……ちょっと楽しくなってただけだから」


 誰も責めていないのに、言い訳だけが口から出た。


 さて。


 戦う手段は手に入ったが、俺のサバイバル生活は正直かなり微妙だ。


 食料はある。


 足元にはホーンラビットの死体があるし、ガチャから出たおにぎりも残っている。


 ただし、水がない。


 火を起こす手段もない。


 ホーンラビットを食べようと思ったら、このまま生で齧ることになる。


 それは嫌だ。


 寄生虫とか、感染症とか、考えたくないものがいろいろある。ポーションで食中毒まで治る保証もなかった。


 おにぎりがあるから、今日一日は何とかなる。


 問題は明日からだ。


「水と火が目下の課題だな」


 あと、寝床。


 むしろ今は寝床が最優先かもしれない。


 あんな殺意マシマシのウサギがいる森だ。夜になれば、もっと危険な動物が出てきてもおかしくない。


 真っ暗な中を歩き回る羽目になったら、それだけで終わる可能性がある。


「よし。寝床と水場探しにレッツゴーだ!」


 俺はナイフを回収し、ホーンラビットを引きずって歩き始めた。


     ◇


 結局、水場は見つからなかった。


 代わりに、日が沈みきる少し前、岩肌に開いた穴を見つけた。


「洞窟……というより、洞穴か?」


 入口は、俺が少しかがめば入れるくらいの大きさだった。


 ナイフを片手に持ち、外から中を覗き込む。


 奥行きは三メートルほど。大人が二人並んで寝ても、まだ余裕がありそうだ。


 中は暗いが、奥まで見えないほど深くはない。


 斧で地面や壁を軽く叩いてみる。何かが動く音はしなかった。


 骨や糞も見当たらない。獣臭もしない。


 少なくとも、今使われている巣ではなさそうだ。


「これ以上探す方が危ないよな」


 もう森の中はかなり暗い。


 ここを逃したあとで、もっと安全な場所が見つかる保証もなかった。


「よし。今日はここにしよう」


 俺は周囲から大きめの枝と葉を集め、洞穴の入口へ立てかけた。


 本気で何かが入ろうとすれば、簡単に突破されるだろう。それでも、外から中を見えにくくするくらいにはなる。


 さらに細い枝を集め、入口の前へ敷き詰めておく。


 誰かが踏めば、枝が折れて音が鳴る。


 簡易的な警報だ。


「我ながら、なかなか頭いいんじゃないか?」


 ただ入口へ枝を置いただけだが、今は自分を褒めておこう。


 ホーンラビットの死体を洞穴の奥へ運び、リュックからおにぎりを取り出す。


 包装を開けると、何の具も入っていない塩むすびだった。


 それでも、朝から何も食べていない身体には十分うまい。


 一口食べるたびに、口の中の水分を持っていかれるのだけがつらかった。


「水……明日は絶対見つけよう」


 おにぎりを食べ終え、リュックを枕代わりにして横になる。


 地面は硬い。枝葉でも敷けばよかったと思ったが、今から外へ出て集め直すのは面倒だった。


 明日でいいか。


 斧を右手の届く場所へ置き、果物ナイフも腰の横へ置く。


 これで、とりあえずは一安心。


「じゃ、おやすみなさーい」


 目を閉じる。


 スヤァ――とはいかなかった。


 枝が擦れるたびに目を開け、外で何かが動いた気がして入口を見る。


 それを何度か繰り返しているうちに、少しずつ意識がぼんやりしてきた。


 このまま眠れそうだ。


 そう思ったときだった。


 パキッ。


 乾いた枝の折れる音がした。


 目が開く。


 今のは、入口へ敷き詰めた枝だ。


 俺は身体を起こし、右手で斧を掴んだ。左手には果物ナイフを持つ。


 息を殺し、入口を塞ぐ枝の隙間から外を覗く。


「グルルルゥゥ……」


 低い唸り声。


 暗い森の中に、赤い二つの目が浮かんでいた。


 オオカミだ。


 見た目は俺の知っているオオカミに近い。ただ、かなり大きい。低く構えた状態でも、背中が俺の腰近くまである。


 赤い目が、まっすぐ洞穴の中を見ていた。


 もう入口の目の前まで来ている。


 たぶん、俺にも気づいている。


「ヤバい、ヤバい、ヤバい……」


 逃げ道はない。


 洞穴の奥へ進んでも行き止まりだ。入口を突破されたら、斧を振る空間すらない。


 向こうが入ってくるまで待つ方が危ない。


 だったら、先に出る。


 斧を握る手に力を込める。


「や……やってやるよ!」


 声が少し裏返った。


 でも、言ったからにはやるしかない。


 先手必勝だ。


「うおおっ!」


 入口を塞いでいた枝を蹴り飛ばし、俺は洞穴の外へ飛び出した。


 オオカミの身体が跳ねる。


 急に獲物が飛び出してきたのは予想外だったらしい。前脚で地面を蹴り、後ろへ大きく跳んだ。


 今だ。


 俺は左手の果物ナイフを構える。


「リプレイ!」


 身体が勝手に動いた。


 足の位置が整い、肩が前へ出る。


 果物ナイフが手から離れ、オオカミへ向かって一直線に飛ぶ。


 後ろへ跳んだ直後のオオカミは、空中で方向を変えられない。


 ナイフが胸へ迫る。


 だが、オオカミは着地と同時に無理やり身体をひねった。


 刃が前脚の外側を掠め、黒い毛と血が飛ぶ。


「外した!」


 いや、まだだ。


 オオカミは避けたせいで体勢を崩している。


 俺は地面を蹴り、一気に距離を詰めた。


 オオカミがこちらへ顔を向ける。牙が見えた。


 立て直される前に振るしかない。


 斧を両手で頭上へ持ち上げる。


「うおおおおっ!」


 そのまま全力で振り下ろした。


 鉄の刃が、オオカミの首へ食い込む。


「ギャッ――!」


 短い鳴き声。


 オオカミの身体が地面へ倒れた。それでも前脚は動き、俺の足へ爪を伸ばそうとする。


「まだ動くのかよ!」


 斧を引き抜き、もう一度首へ叩き込む。


 今度は深く入った。


 オオカミの脚が一度だけ大きく跳ね、そのまま動かなくなる。


 赤かった目から光が消えた。


 俺は斧を構えたまま、すぐには近づかなかった。


 数秒待つ。


 オオカミは動かない。


「……勝った?」


 足先で土を蹴り、身体へ当てる。


 反応はなかった。


「勝った!」


 次の瞬間、頭の中へ声が響く。


【フォレストウルフを討伐しました】


【討伐報酬として、ガチャポイントを50P獲得しました】


【レベルが上昇しました】


【レベルが上昇しました】


「二つも上がったのか!?」


 目の前にステータスが表示される。


【名前】相馬直人


【種族】人族


【年齢】21


【レベル】3


【生命力】15/15


【魔力】5/5


【筋力】10

【耐久】8

【敏捷】8

【器用】5

【精神】18


【スキル】

《ガチャ》Lv1

ガチャポイント:70P


《リプレイ》Lv1


【称号】

《異界渡り》


 確認したいことはいろいろある。


 ただ、今はそれどころじゃない。


 果物ナイフを拾い、付着した血を草で拭う。斧も同じように拭いてから、周囲を見回した。


 他に赤い目は見えない。


 唸り声も聞こえなかった。


 こいつ一匹だけだったのか?


 分からない。


 仲間を呼ばれる前に、死体をどうにかした方がいい。


「こいつが来たの、ホーンラビットの血のせいか?」


 洞穴の中には、血のついた死体を置いていた。


 動物は鼻がいい。俺には分からない匂いでも、離れた場所から嗅ぎつけた可能性はある。


 フォレストウルフの死体も、このまま入口へ置いておけば同じだ。


 俺はフォレストウルフの後ろ脚を掴み、引きずろうとした。


「ん?」


 思ったより軽い。


 いや、見た目からすれば四十キロくらいはありそうだ。軽いわけがない。


 それなのに、片手で引っ張れる。


 試しに両脚を掴んで持ち上げると、少しきついが地面から浮いた。


「すごいな、ステータス」


 筋力が七から十へ上がったおかげだろうか。


 数字だけでは分からなかったが、こうして物を持つとかなり違う。


 洞穴の奥からホーンラビットも引っ張り出し、二匹の死体を森の中へ運ぶ。


 せっかく手に入れた肉だ。


 ホーンラビットくらいは残したい。


 そんな考えが頭から離れなかった。


 でも、火がないから食べられない。洞穴へ置いておけば、また別の動物が来るかもしれない。


 さっきは、うまく先手を取れた。


 ナイフが前脚を掠め、オオカミが体勢を崩した。その隙に斧を当てられたから勝てた。


 同じやり方が、もう一度通用する保証はない。


「はあ……もったいないな」


 ホーンラビットの肉も、フォレストウルフの毛皮も、持って帰れるなら持って帰りたい。


 帰る場所なんてないけど。


 それでも命には代えられなかった。


 ポーションも一本あるが、効果は最低だ。噛まれた傷がどこまで治るか分からないし、感染症まで防げるのかも分からない。


 俺は洞穴から離れた場所へ二匹の死体を置き、そのまま戻った。


     ◇


「よし。戻ってこられた」


 目印もなく暗い森を歩いたせいで、途中で少し不安になったが、何とか洞穴まで帰ってこられた。


 入口の枝を立て直し、細い枝ももう一度地面へ敷く。


 リュックを枕にして横になってみる。


「……寝られるか、これ?」


 無理だな。


 完全に目が冴えている。


 さっきまで、目の前にオオカミの牙があったのだ。安全を確認したからといって、すぐに眠れるわけがない。


「ステータスでも見るか」


 もう一度画面を開く。


 レベルは一から三へ上がっている。


 レベルアップで上昇する数字は、かなりばらばらだった。


 筋力は七から十。


 耐久と敏捷は六から八。


 器用は四から五。


 生命力や魔力の最大値も増えている。


 その中でも、一番大きく上がったのが精神だ。


「十二から十八って、上がりすぎじゃない?」


 二レベルで六。


 一レベルにつき三ずつ上がった計算になる。


 すごい。


 全然実感がない。


 筋力の上昇は、フォレストウルフを運んだときに嫌というほど分かった。


 でも、精神は何が変わったんだ?


 オオカミを前にして戦えたのは、精神が高いからなのか?


 いや、めちゃくちゃビビっていたぞ。声も裏返ったし。


「よく分からんな」


 考えても答えは出ない。


 使っているうちに分かるかもしれないし、分からないままかもしれない。


 そこで、まだ確認していないものがあることを思い出した。


 称号の《異界渡り》だ。


「これ、異世界から来たからってことだよな?」


 俺は《異界渡り》の文字へ触れた。


【称号《異界渡り》】


【異世界からの来訪者】


【行動補正:弱】


「相変わらず説明が雑だな……」


 異世界から来たことは分かる。


 俺がここにいる時点で、その説明はほとんど答え合わせにしかなっていない。


 問題は、行動補正だ。


「身体を動かしやすくなるとか?」


 こっちへ来てから、急に運動神経がよくなった感じはない。


 ホーンラビットを倒せたのも運がよかっただけだ。枝の先が目に刺さらなければ、今ごろどうなっていたか分からない。


 ナイフ投げが変な体勢からでも成功したのは、《リプレイ》の効果だと思っていた。


 もしかすると《異界渡り》も関係しているのか?


「いや、分からん」


 確かめる方法がない。


 行動補正がなかった俺と比べられるわけでもないし、今はそういう効果があると覚えておくしかなかった。


 ステータス画面を閉じる。


「さて、やることがなくなった」


 本当はガチャも引きたい。


 現在のポイントは七十。あと三十あれば一回引ける。


 でも、足りないものは足りない。


 今から森へ出てポイントを探すほど馬鹿ではなかった。少なくとも、今夜は。


 明日やることは決まっている。


 水場を探す。


 火を起こす方法を考える。


 それから、できれば人も探したい。


 今日はもう休もう。


「夜の第二回戦が始まりませんように」


 斧を手元へ引き寄せ、目を閉じる。


 外で枝が鳴るたびに目が開いたが、さっきのような唸り声は聞こえなかった。


 しばらくして、眠気が戻ってくる。


「今度こそ……おやすみなさーい」


 スヤァ……。

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