はじめての異世界!
1
「うっ……いてて」
手をつくと、掌の下でざりっと硬いものが擦れた。
土だ。
なんで俺、土の上に寝転がってるんだ?
腕に力を入れて身体を起こす。頭が重い。何度か瞬きをしてから周囲を見回すと、最初に目へ入ったのは木だった。
いや、木なのは分かる。
ただ、太すぎる。
「うお……でっか」
近くにある一本なんて、幹の向こう側が見えない。少し離れた場所にも、同じくらい太い木が何本も立っている。見上げても枝葉に遮られて、てっぺんがどこにあるのか分からなかった。
こんな場所、見た覚えがない。
というか、俺は今まで何をしていた?
こめかみを押さえながら記憶をたどる。
たしか、ゲームのコントローラーが壊れたんだ。それで新しいものを買うために、車で近所のピオンモールへ向かった。
やっていたゲームは『プレイザプパイア2』。
毎回違う展開になるから、何度やっても飽きない。昨日もあと一戦だけと思いながら、気づけば三時間ほど――。
「いや、ゲームの話はいいんだよ」
モールへ向かったところまでは覚えている。
ただ、そのあとの記憶がない。事故に遭った覚えもなければ、誰かに襲われた覚えもなかった。
改めて自分の身体を確認する。
薄手の半袖シャツにジーパン。足にはスニーカー。
今日は最高気温を更新するとか言っていたのに、よく長ズボンを選んだな、今朝の俺。もし短パンとサンダルだったら、すでに足を何か所か虫に食われていたかもしれない。
まあ、上半身は半袖なんだけど。
怪我がないか確認してみたが、頭を含めて特に痛む場所はなかった。服にも血や破れは見当たらない。
ひとまず、大きな事故に遭ったわけではなさそうだ。
「誰かいませんかー!」
返事はない。
もう一度、今度は少し大きな声で呼んでみた。それでも人の声は返ってこなかった。
聞こえるのは、枝葉の擦れる音だけ。
ちょっと待って。本当にどこだ、ここ。
俺が住んでいる地域も、都会とは言いにくい。車で少し走れば山も田んぼもあるし、野生の鹿だって珍しくはなかった。
それでも、こんな森は見たことがない。
試しに一番近くの木を一周してみる。早足でも元の場所へ戻るまで三十秒近くかかった。
太い。それに高い。
目測だから当てにはならないが、五十メートルくらいあるんじゃないか?
「こんなのが何本もあったら、観光地になってるだろ……」
自然遺産とか、そういうやつだ。
少なくとも、何の案内もなく放置されているような場所ではない。
というか、日本か?
そこまで考えて、さすがに飛躍しすぎだと首を振った。
知らない森で目覚めただけだ。まだ外国という可能性もある。外国なら外国で、なんで俺がいるのかという話になるけど。
「まあ、ここにいても分からないか」
遭難したときは、下手に動かず救助を待てと聞いたことがある。
ただ、それは俺がここにいると誰かが知っている場合の話だ。ここでじっとしていれば助けが来るという期待は、さすがに持てなかった。
ひとまず、人のいる場所か水場を探そう。
そう決めて、俺は歩き始めた。
◇
しばらく進んで分かったが、あの巨大な木が何本も立っていたのは、目覚めた場所の周辺だけだったらしい。
今いる辺りには、俺が知っている木と大差ない太さのものも多い。
普通の森に出た。
そう思った直後、幹を埋め尽くすほど長い棘の生えた木を見つけた。
「……普通ではないな」
棘は一本一本が俺の指より長い。知らずに寄りかかったら、背中に穴が開きそうだ。
動物が刺さったら、そこから栄養でも吸うのか?
食虫植物ならぬ食獣植物。いやいや、さすがにないか。
少し先には、紫と黄色が混ざった果実も実っていた。食える可能性より、腹を壊す可能性の方が高そうな色をしている。よほど追い詰められるまでは触らないでおこう。
この辺りに来てから、見覚えのない植物ばかりだ。
気になってスマホで写真を撮ろうとして、ポケットへ手を入れる。
何もない。
「あれ?」
左右のポケットを探り、尻のポケットも確認する。
スマホがない。財布もない。車の鍵もない。
落としたのかと来た道を少し戻ってみたが、それらしいものは見つからなかった。
衣服以外、全部なくなっている。
「……ドッキリか?」
誰に向けるでもなく呟く。
いや、こんな森まで俺を運び、巨大な木まで用意するドッキリがあるなら、制作費が高すぎる。
人為的なものは感じる。それでも、誰が何のためにやったのかはさっぱり分からなかった。
「あー……喉渇いたな」
歩き続けているせいで、口の中が乾いてきた。
まず水だ。
川を探そう。
とはいえ、何を頼りに探せばいいんだ?
小説だと水の音を聞いたり、湿った場所を見つけたりしているが、実際に森へ入っても分からない。そもそも、この森に川があるという保証もなかった。
それでも探さなければ始まらない。
「よし。川探しにレッツゴーだ」
自分を励ますために声へ出した、その直後だった。
ガサッ。
右手側の茂みが揺れた。
足が止まる。
「……動物か?」
できれば鹿。最悪でも狸くらいで頼む。
クマだけはやめてほしい。俺の右ストレートでは、クマを追い返せそうにない。
茂みから目を離さず、足元に落ちていた木の枝を拾った。長さは一メートルほど。少し乾いているが、素手よりはましだ。
両手で枝を握り、ゆっくり後ろへ下がる。
次の瞬間、茂みから白い影が飛び出した。
ウサギだった。
俺の膝より低く、身体も知っているウサギより少し大きい程度だ。
問題は、その額から真っすぐ伸びた一本の角。
「うーん。これは異世界」
薄々そんな可能性も考えていたが、実物を見せられると認めるしかない。
角の生えたウサギなんて、少なくとも地球にはいないはずだ。
俺がそんなことを考えている間にも、ウサギは前脚を開き、頭を低くしていた。
赤黒い目が、まっすぐ俺を見ている。
逃げる動物の目ではない。
「キュッ!」
短く鳴いた直後、ウサギの後ろ脚が地面を蹴った。
「速っ!」
白い身体が一気に迫る。
俺は慌てて横へ跳んだ。ウサギは地面すれすれを走ったまま、俺の手前で跳び上がる。
角がシャツの脇を通り過ぎた。
「あぶなっ!」
着地した拍子に足がもつれ、片膝をつく。すぐに振り返ると、ウサギも地面を滑りながら向きを変えていた。
腹を狙って跳んできやがった。
あの角が刺されば、ただでは済まない。一撃で仕留めるつもりらしい。
逃げるか?
いや、無理だ。
直線の速さでは勝てない。木の間を使って走ったとしても、背中へ飛びつかれたら避けられない。
だったら、反撃するしかない。
枝を握り直して立ち上がる。手汗で少し滑ったが、持ち替える時間はあった。
ウサギが再び頭を下げる。
「来い」
枝を右肩の近くに構えた。
狙うなら頭。小さい身体を追うより、角ごと叩いた方が当てやすい。
後ろ脚が沈む。
来る。
地面を蹴ったウサギが、さっきと同じ速さで迫ってきた。俺は正面から逃げず、半歩だけ左へずれる。
ウサギが跳んだ。
「おらぁっ!」
腰を回し、枝を思い切り振り抜く。
メキッ!
手に強い衝撃が返ってきた。
枝の先端がウサギの顔を捉え、そのまま目へ突き刺さる。乾いていた枝は途中で折れたが、ウサギの勢いまでは止まらない。
体勢を崩した白い身体が、顔から地面へ落ちた。
刺さった枝が、さらに深く入る。
ウサギの身体が一度、大きく跳ねた。
前脚が土を掻く。後ろ脚が細かく震え、やがて動かなくなった。
「……勝った、のか?」
折れた枝を構えたまま、しばらく近づけなかった。
ウサギは動かない。
足で土を蹴り、その身体へ当ててみる。それでも反応はなかった。
死んでいる。
「うわ……グロいな」
目から濁った液体が流れ、白い毛を汚している。
俺がやった。
向こうから襲ってきたんだから、仕方がない。反撃しなければ、今ごろ腹に穴が開いていた。
そう分かっていても、ゲームで敵を倒すのとはまるで違う。
口元を押さえ、顔を背けた。
そのとき、頭の中へ声が響いた。
【ホーンラビットを討伐しました】
「は?」
【討伐報酬として、ガチャポイントを20P獲得しました】
【初回討伐報酬として、ステータスが付与されます】
【初回討伐報酬として、転移者特典スキルの抽選を行います】
【スキル《ガチャ》が付与されました】
【スキル《ガチャ》の初回10連ガチャを引くことができます】
一気に情報が流れ込んできた。
反射的に周囲を見回す。
誰もいない。
もう一度ウサギを見る。いや、ホーンラビットというらしい。
その死体の近くにも、声を出しそうなものは見当たらなかった。
「なんだ、これ……ガチャ?」
俺の好きな、あのガチャか?
それにステータス。スキル。転移者特典。
ここまでそろうと、異世界へ来たという考えを笑えなくなってくる。
完全に、なろう小説のテンプレ展開だ。
理由は分からない。元の世界へ戻れるのかも分からない。
ただ、素手同然で化け物に襲われた直後だ。使えるものを断る余裕なんてない。
「開け!」
森の中へ、俺の声だけが響いた。
何も起こらない。
「……違うのかよ」
わざわざ結構な大声で言ってしまった。
誰も見ていなくて助かった。見られていたら、そのまま森の奥まで逃げたいくらい恥ずかしい。
咳払いを一つして、今度は少し声を落とす。
「ステータス」
目の前に、半透明の板が現れた。
「おお……」
板の向こう側が薄く透けている。文字は日本語で、初めて見るはずなのに読み方も操作方法も何となく分かった。
視線を下へ動かしていく。
【名前】相馬直人
【種族】人族
【年齢】21
【レベル】1
【生命力】10/10
【魔力】3/3
【筋力】7
【耐久】6
【敏捷】6
【器用】4
【精神】12
【スキル】
《ガチャ》Lv1
ガチャポイント:20P
【称号】
《異界渡り》
「すごいな。本当に出たぞ」
自分の身体能力が数字になっている。
基準が分からないので、七が高いのか低いのかは判断できない。それでも筋力が他の身体能力より少し高いのは、仕事終わりにジムへ通っていたおかげだろうか。
一方で、器用は四。
「美術の成績二は伊達じゃないぜ」
いや、何も誇れない。
それより気になるのは精神だ。他の数字と比べて、明らかに高い。
俺にそんな精神力あったか?
学生時代は部活もそれなりにサボっていた。ちなみに美術部である。だからこその成績二だ。
もしかすると、ここでいう精神は根性とは別物なのかもしれない。魔力と関係している可能性もある。
今の情報だけでは分からないか。
ステータスを一通り確認し、俺は《ガチャ》の文字へ指を伸ばした。
触れた瞬間、その横へ新しい画面が開く。
【スキル《ガチャ》】
【ガチャからは、あらゆるものが排出されます】
【1回:100P】
【10回:1000P】
【初回10連無料!】
【10連は★2以上を一つ確定】
【排出率】
★1:85%
★2:10%
★3:4%
★4:0.9%
★5:0.1%
★6:0%
【ガチャを回す】
「荒れるぜ、これは!」
高ランクの排出率が悪すぎる。
★5が千分の一。しかも★6に至っては、堂々のゼロパーセントだ。
出ないなら、なぜ載せた?
レビュー欄に絶対いるぞ。「ゲーム自体は面白いのですが、運営の対応とガチャ率が……」って長文を書くやつ。
ただ、《ガチャ》はレベル一と表示されている。
スキルを成長させれば排出率が上がったり、★6が解放されたりするのかもしれない。
まあ、今は考えても分からない。
初回は無料だ。引かない理由がなかった。
「頼むぞ。武器か水、できれば両方!」
俺は【ガチャを回す】へ触れた。
画面が切り替わる。
そこに現れたのは、デフォルメされた金色の竜の顔だった。
「いや、これモ○ストじゃん」
竜の頭がぐるりと回り、開いた口からカプセルを吐き出す。
白。
また白。
白、白、白、白、白。
「ちょっと待て。白しか出ないんだけど?」
八個目で、ようやく銅色のカプセルが出てきた。
「これが確定枠だろ。知ってるぞ」
九個目は白。
残るは、あと一個。
「まずい、まずい。せめて★3はくれ……!」
竜の頭が、ゆっくりと一回転する。
口元に見えたのは白いカプセルだった。
「あっ、終わった」
最低保証だけ。
異世界へ来た直後の記念すべき初回十連が、白八個と銅一個と白一個。
神様でも運営でもいい。新規ユーザーを大事にしてくれ。
白いカプセルが口から落ちる。
そう思った瞬間、竜の目が強く光った。
「え?」
竜の頭が勢いよく、もう一回転する。
白かったカプセルの色が、銀へ変わった。
「昇格演出まであるのかよ!」
さっきまでの文句は一度忘れた。
銀のカプセルが画面の中へ落ちる。演出が終わると、十個のカプセルが横一列に並んだ。
まずは白からだ。
一番端のカプセルを押してみる。
蓋が開いた瞬間、目の前に銀色の刃が落ちてきた。
「うおっ!」
慌てて足を引く。
土へ突き刺さったのは、小さなナイフだった。恐る恐る柄を握って引き抜くと、画面に説明が表示される。
【★1 果物ナイフ】
【説明:果物用】
「説明が雑だな」
せめて刃渡りくらい書いてほしい。
ただ、今の俺にとっては十分な武器になる。角のあるウサギを木の枝で倒した直後だ。石ころでもない限り、何が出ても嬉しい。
いや、できれば石ころはやめてくれ。
残りの白いカプセルも、順番に開けていく。
【★1 布のハンカチ】
【★1 水筒】
【★1 おにぎり】
【★1 角材(一メートル)】
【★1 縄】
【★1 リュック】
【★1 ポーション(最低)】
水筒を手に取って振ってみる。
音はしない。
蓋を開けて逆さにしても、一滴も出なかった。
「中身は別売りかよ……」
水は飲めなかったが、見つけた水を持ち運べるようにはなった。素手で森へ放り出された状況を考えれば、十分ありがたい。
おにぎりもある。
包装された白い米を見た途端、腹が減ってきた。今すぐ食べたいが、食料はこれ一個だけだ。しかも水がない状態で食べたら、余計に喉が渇きそうだった。
「川を見つけるまで我慢だな」
自分へ言い聞かせ、リュックへ押し込む。
ハンカチや縄も、何かには使えるだろう。ポーションは効果が最低らしいが、薬であるなら怪我をしたときの保険になる。
角材だけはリュックから大きくはみ出した。
まあいい。さっきまで持っていた枝より、ずっと頑丈そうだ。
続いて、銅色のカプセルへ触れる。
【★2 鉄の斧】
地面へ落ちてきた斧を拾い上げる。
片手で扱えそうな大きさだが、刃にはしっかり厚みがある。持ち上げると、腕へずっしり重さがかかった。
「めっちゃ当たりじゃん」
これがあれば、次に何かが襲ってきても木の枝で戦わずに済む。
★1も、想像していたよりずっと使える物ばかりだった。ゴミや石ころが混じっていないだけで十分だし、今の俺にはハンカチ一枚だって貴重品だ。
最後に残った銀色のカプセルへ手を伸ばす。
「さあ、★3。いいもの頼むぞ」
少し間を置いてから、画面を押す。
カプセルが開き、拳ほどの大きさの水晶玉が土の上へ転がった。
「なんだ、これ?」
拾い上げると、ガラスよりも重い。中には薄い光が漂っている。
説明欄を確認する。
【★3 スキルオーブ《リプレイ》】
「スキルも出るのか」
あらゆるものが排出されるという説明は、本当らしい。
《リプレイ》。
名前だけでは効果が分からない。録画でも見られるのか、それとも一度見た技を使えるとか?
どちらにしても、使わない理由はなかった。
スキルオーブを両手で持ち直す。
「……どうやって使うんだ?」
ボタンはない。継ぎ目も見当たらない。
食べるのか?
試しに端を少し噛んでみる。
「硬っ!」
歯が痛い。
食べるものではないらしい。
腕へ擦りつけても反応はない。地面へ叩きつけて割る方法も考えたが、失敗したときに取り返しがつかない。
「使用!」
反応なし。
「装着!」
やはり何も起きない。
「合体!」
違う。
「つかう!」
駄目だった。
「使えねえじゃねえか!」
異世界のアイテムにも、取り扱い説明書は必要だろ。
しばらく水晶玉を睨んでいたが、答えは出なかった。
「はあ……期待して損した」
水晶玉を軽く宙へ放り投げる。
すぐに受け止めるつもりだった。
ところが、水晶玉は開いたままだったステータス画面へ触れ、そのまま表面を通り抜けた。
ツルン、と水へ落ちたように消える。
「は?」
【スキル《リプレイ》を獲得しました】
一拍遅れて、表示が現れた。
「分かるか!」
初めて見たぞ、こんな使い方。
説明書をつけないなら、せめてステータス画面へ入れろくらいは書いておいてほしい。
まあ、使えたからいいか。
俺はステータスのスキル欄へ追加された《リプレイ》に触れた。
【スキル《リプレイ》Lv1】
【登録した行動を再現します】
【登録:「セット」】
【使用:「リプレイ」】
【登録数:0/3】
「……分からん」
登録した行動とは、どこからどこまでを指すんだ?
歩く。走る。跳ぶ。斧を振る。
どれでも登録できるのか?
説明を眺めていても答えは出ない。こういうものは、試すのが一番早い。
俺は鉄の斧を右手で持ち、周囲に何もないことを確認する。
「セット!」
斧を頭上へ持ち上げ、両手で思い切り振り下ろした。
刃が地面へ食い込み、土が少し跳ねる。
ステータスを確認する。
【登録数:1/3】
「おお、できてる」
なら、次は再現だ。
地面から斧を抜き、さっきと同じように構えてみる。
「リプレイ!」
声へ出した瞬間、俺の意思とは関係なく右足が前へ出た。
「うおっ!?」
斧が持ち上がる。
腰が回り、両腕が動く。
止めようと考える間もなく、斧は先ほどと同じ場所へ振り下ろされた。
刃の角度も足の位置も、ほとんど同じだ。
自分で振ったはずなのに、身体だけが勝手に動かされた。操られたというより、登録した動きへ引っ張られたと言った方が近い。
「すごいな、これ」
自分で振ったときと違い、腕にはほとんど力を込めていなかった。それでも斧は同じ勢いで地面へ食い込んでいる。
すぐにステータスを確認する。
【魔力】2/3
「なるほど。魔力を使うのか」
一度の再現で、魔力を一消費した。
今の一回だけで、体力をまったく使わないと決めつけるのは早い。それでも、自分で斧を振ったときより腕は楽だった。
登録できる行動は三つ。
攻撃だけでなく、回避や移動も再現できるなら使い道は多い。追い詰められたときでも、身体が覚えた動きを確実に出せる。
いや、待て。
もっと変な動きを登録したらどうなる?
走りながら斧を振る。しゃがんでから跳ぶ。果物ナイフへ持ち替えて、連続で突く。
考え始めると、次々に試したくなってきた。
喉は渇いている。水も探さなければならない。
ホーンラビットの死体がある場所で、いつまでも騒いでいるのもよくないだろう。
「あと二つだけ。登録するだけなら魔力は減らないしな」
数分くらいなら問題ない。
そう自分へ言い訳して、俺は次の動きを考え始めた。
「よし。面白くなってきた!」
ゲーマーの腕が鳴る。
俺は斧を構え直し、二つ目の行動を《リプレイ》へ登録し始めた。




