第3話
蓮先輩に告白された日から、私は何度もその言葉を思い出していた。
『美咲さんのこと好き』
何度考えても、夢みたいだった。
あんなにかっこよくて。
誰にでも優しくて。
周りから注目される人が。
どうして私なんだろう。
「美咲、最近ぼーっとしてない?」
大学の友達に言われて、私は慌てて笑った。
「そうかな?」
「なんかいいことあった?」
「……ないよ」
嘘だった。
いいことはあった。
人生で初めて、自分を好きだと言ってくれる人が現れた。
でも――。
嬉しいはずなのに、胸の奥にはずっと不安があった。
バイトの日。
店に着くと、蓮先輩がいつも通り声をかけてくれた。
「おはよう、美咲さん」
「おはようございます」
その笑顔を見るだけで、心臓が少し速くなる。
きっと、これが恋なんだと思う。
私も蓮先輩のことが好きなのかもしれない。
でも。
ふと周りを見る。
「蓮くんって彼女できたのかな?」
「相手誰なんだろう」
スタッフの女の子たちが話している。
「絶対可愛い子だよね」
「モデルとかじゃない?」
その言葉を聞いた瞬間、胸が苦しくなった。
違う。
私じゃない。
みんなが想像するような人じゃない。
私はただの普通の女の子だ。いや、もっと言うと芋だ。
閉店後。
蓮先輩が私のところへ来た。
「美咲さん」
「はい」
「この前の返事、聞かせてほしい」
優しい声だった。
だから余計につらかった。
本当は。
「よろしくお願いします」
そう言いたかった。
でも。
「……ごめんなさい」
蓮先輩の表情が止まる。
「え?」
「私、蓮先輩とは付き合えません」
言った瞬間、胸が痛くなった。
「理由、聞いてもいい?」
私はうつむいた。
「……釣り合わないと思うからです」
「そんなこと――」
「あります」
初めて、蓮先輩の言葉を遮った。
「蓮先輩の隣にいる人は、もっと可愛くて、もっと明るくて……」
「私みたいな人じゃないと思います」
沈黙が落ちた。
蓮先輩はしばらく何も言わなかった。
そして小さく息を吐く。
「美咲さん」
「はい」
「俺が好きになったのは、美咲さんだよ」
その言葉に涙が出そうになる。
でも。
私は首を横に振った。
「……ごめんなさい」
「私、自分のことを好きになれないんです」
「そんな私が、蓮先輩の隣にいる自信ありません」
駅へ向かう道。
隣にいるはずだった人との距離が、今は遠く感じた。
私はイケメンを振った。
誰もが羨むような人を。
でも。
あの時の私は知らなかった。
私が自分自身を少しずつ好きになっていく未来を。




