2話
「いるよ」
「少なくとも、俺はいる」
蓮先輩の言葉が、頭の中で何度も繰り返されていた。
駅から家までの帰り道。
いつもならあっという間に感じる道なのに、その日はやけに長く感じた。
『俺、美咲さんのこと好き』
何度思い出しても信じられない。
蓮先輩が?
私を?
「……ありえない」
思わず小さく呟く。
だって、蓮先輩は誰が見ても魅力的な人だった。
背が高くて、顔も整っていて、仕事もできる。
バイト先でも、女の子たちはみんな蓮先輩を見ると少し嬉しそうな顔をする。
そんな人が、どうして私なんかを好きになるのか。
きっと何かの間違いだと思った。
次の日。
バイト先に着くと、蓮先輩はいつも通り仕事をしていた。
「おはよう、美咲さん」
「……おはようございます」
顔を見るだけで昨日の告白を思い出してしまう。
私はどう接すればいいのか分からなかった。
すると蓮先輩が少し困ったように笑う。
「避けられてる?」
「え?」
「昨日から、俺のこと見る時ちょっと緊張してる」
図星だった。
「すみません……」
「謝らなくていいよ」
蓮先輩は優しく言った。
「急にあんなこと言われたら困るよね」
その優しさが、余計に苦しかった。
普通なら嬉しいはずなのに。
憧れのような存在の人に好きと言われたのに。
私は素直に喜べなかった。
「蓮先輩」
「ん?」
「どうして私なんですか?」
ずっと聞きたかった。
「私、可愛くないし」
「おしゃれでもないし」
「明るくて人気者な女の子みたいじゃないです」
口に出すと、自分でも嫌になるくらい弱気な言葉だった。
蓮先輩は少し黙った。
そして、真剣な顔で言った。
「美咲さん」
「俺が好きになったのは、そういうところじゃないよ」
「俺の周りには、俺の顔とか雰囲気だけ見て近づいてくる人が多かった」
「でも美咲さんは違った」
「俺が失敗したら普通に注意するし、忙しい時は周りを見て動いてる」
「そういうところを見てた」
胸が少し苦しくなる。
でも、それでも。
「……でも」
「私じゃ、釣り合わないです」
その言葉を聞いた瞬間。
蓮先輩の表情が少し悲しそうになった。
「美咲さん」
「俺は、美咲さんを誰かと比べて好きになったんじゃないよ」
「だから、俺と釣り合うとか考えなくていい」
その言葉に、何も返せなかった。
だけど。
すぐに「はい」と言えるほど、私は自分を信じられなかった。
「少し……考える時間をください」
「うん」
蓮先輩は笑った。
「待ってる」
その優しさが嬉しくて。
同時に、怖かった。
もし付き合ったら。
いつか蓮先輩が思うかもしれない。
『やっぱり違った』
『思っていたより普通だった』
そんな未来が。
だから私はまだ知らなかった。
この時、蓮先輩が一番恐れていたことも。
私が自分を好きになれないことを。




