響音
「おい、新人。早く来い。殺されるぞ。」
夜、未明。三人の男たちが屋根をかけていた。
「いいじゃないですか先輩、その【夜】て奴は別につかまっても死ぬわけじゃないんでしょう?」
「普通ならな。」
もう一人の男がつぶやいた。そうだ、今はわけが違ういまは精鋭たちでも本来ならば行動が許されない時刻、見つかれば死ぬ。そういう時間帯だ。
(全く、本国はなんて奴のお守りを依頼してきたんだか。大迷惑だ。)
ちらりと後ろにいる新人に目を向ける。こういう隠密活動では音のなるようなものや光を反射するようなものは極力禁止なのだがこのゴミは金のネックレスや指輪をこれ見よがしにつけている。商会に潜入したことしかおそらくないのだろう。男爵家の暗部のほうがまだ教育されている。
いまは未明だ【夜】は出てこない。その代わりに【殺】が出る。未明しかでないがその代わり俺たち暗部は出会った時点で殺される。現在の犠牲数は確か六百超えてんじゃなかったっけ。そのほとんどが情報屋と暗部が占めている。裏社会の人間は【夜】が出た時点で夜の活動をやめたので被害は少ない。たまに馬鹿が殺されるくらいだ。
「おい、ここだ。」
長らく俺とタッグを組んでいた男が一軒家を指さす。一見するとただの家だがここは何かがあるらしい。
そう、らしいだ。俺たちがやるのは見張り。先ほどまで他の者を見張っていたが欠員が出たので回されたのだ。
「仲間はどこにいる?」
「あそこの集合住宅だね。」
指さされたその先にはマンションがあった。
「えー、なんすか?見張りって目の前の家でよくないすか?」
新人の言葉に思わず俺たちは顔をゆがめる。本当にこいつは教育を受けてきたのだろうか?本国がいくらぬるいからってそれはないだろと思う。
(おい。)
(わかってるよ。)
少し殺気が漏れ出たのか相棒に注意される。
本来なら最精鋭でも行動を許されていない未明での活動。俺たちはしっているこの町の【夜】の恐ろしさを。
【初メマシテ】
その言葉を聞いた瞬間俺と相棒は別々の方向に逃げ出した。
(何でだ!何で気づけない!)
あの時と同じだ。ふと、後ろを見ると何もわからない間抜けな顔をして新人が立っていた。
「あー、そういうことね。」
彼の上半身はその瞬間消滅した。
「すまん…。」
前を振り返り家の屋根を降り、裏路地に入る。
(一刻も早く遠くへかなければ!。)
あいつに捕捉されればどこへ逃げようとも殺される。現在推奨されているのは遠くへ逃げること。それだけだ。姿かたちもわからない。攻撃方法もわからない。すべてが謎に包まれている存在。
【殺】
彼ら暗部が危険を冒して動く理由の一つである。その正体としては、魔物、魔道具、未知の魔法、または魔術だといわれている。しかし、魔物であればなぜ町民を襲わないのか。魔道具であればなぜ未明にしか現れないのか。これらの理由で魔法または魔術だという説が主軸となっている。
なぜ【殺】という名が付けられたのかすら誰も知らない未知である。
後世に書かれた書物にこのような記述がある。
リハルの未明にはよく死の色をした楽音が奏でられている。
なぜなら、そこにそれがあるから。
あるようでない、ないようである。
光のようで陰ではない
影のようで光ではない
あれはあれという存在はそこにはない
出典『リハルの夜』 作者不明
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