幕間 彼ら
時系列的には決別の脱出した後です。
山を駆け下がる。
前ではグルートが皆を鼓舞している。心配なのは、ショルツ嬢だ。シュリュッセルはそう判断した。事実、現在はフロントがショルツの手を引いているがそれでも、彼女の遅さは変わらない。
「グルート、ちょっと遅くした方がいいんじゃない?他の人が追い付けないよ。」
「しかし、早くここを離れなければいつ追手が来るか分からない。せめて、この山を下るまでは、、」
「ダメ。女子の体力が持たない。あの二人だけ取り残されたらどうする?せっかくテイラー子息が救おうとした命を無駄にするわけ?」
「だが、追手が、、、」
「ねぇ、なんで僕たちはあの部屋に移されたと思う?」
シュリュッセルの言葉を聞き入れ、速度を落としたグルートの横を歩き、シュリュッセルは尋ねた。
「確かに、今思うとなぜだ?」
「色々あるかもしれないけど、僕はこう考える。多分、もともと会わせるつもりはなかったけど何か事情があって合わせるしかなかったんじゃないかな。」
「例えば?」
「何者かによる襲撃、とかね。」
いたずらっぽく笑みを浮かべてシュリュッセルはいった。
「確かに、それは一理あるかも。」
いつの間にか追い付いてきたフロントもそれに同調した。ショルツはもはや走っておらず引きずられている。その姿は最早貴族の令嬢とは思えない。引きずられたせいでパンツが見えている。
「フロントぢゃん~~~~~~~、ひきずだないで~~~~。い~~~だ~~~い~~~。」
「うるさい。追手が引き寄せられてきたらどうするの。」
「でもまずは、人に会わなくちゃね。まずは、山を下りよう。」
励ますように、グルートは笑顔を浮かべた。
「どうやら、山を下りる必要はなさそうだよ。」
そういって、シュリュッセルはにこにこの笑顔で後ろの林を指さした。そこには、大柄な騎士がいつの間にかいた。
「む、すまない。あなた様方は、誘拐された御子息、御令嬢で間違いないだろうか。」
大柄な騎士の男、シュヴェーアト辺境伯騎士団副団長レイリー・ノーズその見た目とは裏腹に非常に丁寧な口ぶりで言った。人は見かけによらないとはまさにこのことだろう。
「シュヴェーアトというと、テイラーの家だな。」
「なんと!テイラー様をお知りで!?して、テイラー様はどこに!」
かなり興奮した様子でレイリーはグルートの肩をつかみ振り回しながら詰め寄った。おそらく、今の彼は彼が貴族、それも公爵家の子息だということを忘れているだろう。
「ちょっと、副団長!?落ち着いてください!皆様戸惑っておいでです!」
連れの騎士の説得もあって何とか落ち着いたがそれでもかなり興奮して目が血走っている。
「僕たちは捕らえられて、最初は牢屋にいましたが、とちゅうでなぜか皆同じ部屋に集められました。その理由はおそらく」
「うむ、我々の襲撃だろうな。」
「じゃあやっぱり、あの場でテイラーと別れたのは悪手だったか。」
俯きながらグルートはそう呟いた。
「いや、そうとも限らんな。おい、ハイド。皆様方を本部へと逃がせ。」
「はっ!」
そしてレイリーを残し騎士たちはグルート達をつれ、その場から撤退した。
「レイリー副団長を一人残して撤退していいのか?何か任務があったんじゃないのか?」
その言葉に並走していた騎士が破顔しながら答えた。
「ほんとはどこかの壁を破壊してあなた方を救出する手筈だったので大丈夫ですよ。」
「だけど、テイラーはいないぞ。」
「そうですね。それに関しては死ぬほど悔しいです。そもそも、テイラー様が誘拐されてしまったのは私共のせいですから。なんなら、今すぐ皆様捨てて戻りたいくらい。」
「それは、少し笑えない冗談だな。」
「もちろん嘘ですよ。でも、テイラー様は一人でも生きて行けそうですから心配はいらないですね。」
少し遠い目をしている騎士を見上げながらグルートは少し首をかしげる。なぜなら、どうしても彼はひとりで生きていけるとは思えなかったからだ。なぜなら、誘拐されたのにのんきに寝ているからだ。マイペースすぎて生きて行けそうにない。喋っているときはかなりの知性を感じたが。
しかし、その時。後ろから何か殺気が飛んできた。まるで、化け物同士が戦ってるかのような。
「ヒッ」
思わずその場にとどまる。周りを見るとシュリュッセルもショルツも、はてはフロントまでもおびえた顔で固まっている。
「大丈夫、こっちには来ません。あれは副団長と誰かが戦ってるんです。副団長は強いので相手がどんなに強くても攻撃はこっちには来ません。」
「本、当?」
「はい、本当です。」
騎士は優しくうなずく。
「わかった、ありがとう。」
その時、地面が揺れた。後ろからは爆発音が聞こえる。振り向くと、自分たちがいた部屋のあたりから黙々と煙が出ていた。そして、ボウリングのピンのように宙を舞う群青色の髪と瞳を携える少年を見た。爆発を間近で受けたようできりもみ回転をしながら血が出ている。とても悲惨な光景だ。
「ッ、テイラーーーーーーーーーーーっ」
銀髪の少年は思わずといった様子で叫ぶ。その悲痛な声は彼に届くはずもなく。だが、その銀の瞳には確かに、群青色に白の紋様が入った眼がこちらを見ているのを認識していた。この、これ以上ないともいえる快晴の中雲と空になり消えてしまいそうな少年は確かに、生きていた。そして、確かに俺を、いや俺達を見ていた。
「・・・美しい。」
フロントはふと、呟く。どうやら彼女には飛んでいく少年を美しい舞と認識したようだった。それは、本当に無意識に出たのだろう。空によく似た見た目をしている少年はよく似た色の空の中同じ色なのに夕焼けのようにひと際この快晴に映えているようだった。
群青色の少年は笑っていた。間違いなく。
世界一の画家が見たのならそれを絵に描こうと思ってもどうしても描けない明るさと、儚さと、美しさと、どこか色気を感じさせる少年は海に溶けるようにいつの間にか視界から消えていた。
まるで、闇に浮かぶ影のように。
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