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第99話

「お前だけは、刺し違えてでもこの場で殺す」




 怨嗟のようなロイの声。


 彼の言葉に偽りはないのだろう。


 彼は覚悟している。


 たとえここで自分が命を落としたとしても。


 私だけは殺してみせる。


 それだけで満足なのだと。


「エレナさん!」


「エレナちゃん!」


 死が近づいているせいか。


 叫ぶユリウスとリリの表情が鮮明かつ緩慢に見える。


 だからといって意味はない。


 手が届くわけでもなければ、空を飛べるわけでもないのだから。


 空中に放り出された私は無力だった。


(嘘でしょ……!?)


 まさか。


 まさかここまでするとは。


(ロイなら、この崖から落ちても死には至らないはず。だけどそれは、万全の状態で着地することが大前提)


 だが、今のロイはどうだ。


 私を吹っ飛ばすために放った斬撃のせいだろう。


 彼の体勢は大きく崩れてしまっており、上下が逆様になっている。


 このまま頭から落ちれば間違いなく死ぬ。


(それなのに――着地より私を殺すことを優先するなんて)


 あのまま落ちていればきっとロイは無事だった。


 たしかに私たちを見失うだろう。


 馬も失う以上、追いつくことはできないだろう。


 それでも死ななかった。


 なのに、彼はあえて生存への道を捨てた。


 私を殺すために。


(このままじゃ、間違いなく死ぬ……!)


 落ちても死なないというのはロイの肉体強度を前提とした話。


 彼よりもはるかに脆弱で。


 彼のような技術も持っていない。


 そんな私はどうあがいても死ぬしかない。


 奈落へと落ちてゆく。


 それが終わったとき、私の命も終わるのだ。


「嫌……!」


 ふとリュートの顔が浮かんだ。


 ようやく決意が固まったのに。


 場所は違えど、彼と同じように戦うと。


 運命を変えると誓ったのに。


「こんなところで……死ねない……!」


 終わりたくない。


 終わらせられない。


 避けられない死という未来。


 私は心の中からそれを拒絶した。


「これは……!」


 突如、私の体から黒いオーラが滲む。


 それは骸骨の腕となり世界に顕現する。


(死が迫ったから……?)


 死への恐怖。


 それが私に本来のエレナが行使した呪術の再現を許したのだろうか。


 以前に出てきたのは片腕だけ。


 しかし今回は両腕が顕現している。


「これなら……!」


 もはや地面に叩きつけられるまで数秒と猶予はない。


 ほとんど反射に近い判断で私は行動を起こす。


 左手で私の体を包み込む。


 まるで鎧のように。繭のように。


 そして残る右腕で――


「なにを……!」


 ロイが目を見開く。


 それも仕方がないことだろう。


 私が伸ばした骨の右腕が、彼の体を掴んだのだから。


 上下反転していたロイの体。


 その向きを、骨の手首を返すことで元に戻す。


 頭からさえ落ちなければ彼が死ぬことはないだろう。


(これで――!)


 そして、私たちは崖の底へと叩きつけられた。







 降りしきる雨は重力に従って流れ落ち、谷間へと集中しているのだろう。


 谷底には薄く水が張っていた。


 そんな場所で、ロイは毒づく。


「ぐ……っ……!」


 彼はふらつきながらも起き上がる。


 その形相は憤怒にゆがんでいた。


「ふざけているのか……」


 ゲームで見ていたような冷静な表情が見る影もない。


 それも仕方がないことか。


 騎士で。ノアを想っていて。私を心の底から憎んでいる。


 そんな彼が、こんな状況を屈辱に思わないはずがないから。


「この状況で俺を庇うなんて……どこまで馬鹿にしているんだ……!」


 声を荒げるロイ。


 彼とて無傷ではない。


 しかしそれでも激情を胸に、倒れている私のもとへと歩いてくる。


「聞いているのかッ!? お前……は……」


 だが、その声が急にしなびていった。


 最初は気が付かなかったのだろう。


 近くに来て、ようやく理解したのだろう。


「はぁ…………はぁ…………」


 浅い息。


 それは私の口から漏れているもの。


 なのに苦しい。


 必死に息を吸っているのに、酸素を取り込めているような気がしない。


 全身が雨に濡れているのに、脇腹が熱い。


 そんな私を見て、彼は察したのだろう。


「魔女……お前……その傷は……」


「やば……やらかしちゃった……な」




 私が落下の際に、致命傷を負ってしまったことに。

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