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第97話

 なんというか間が悪いと言えばいいのだろうか。


 フォレスティアから聖王国を目指して山越えを目指している私たちを出迎えたのは大雨だった。


 山の天気は変わりやすいというのだから、恨み言を言うのは筋違いかもしれないけれど。


(こんなことなら、乗馬の練習をしておけばよかったわね)


 雨具代わりの外套の下で私はそんなことを考えていた。


 長距離の移動になるということで、私たちは馬を2頭調達していた。


 ……2頭なのは私に乗馬の技術がないからである。


 そのため、私はユリウスの背中に抱き着いて運んでもらっているというわけだ。


「このあたりは足場が悪いので、しっかりと掴まっていてくださいね」


「は、はい……」


 ユリウスの言葉にうなずく。


 このあたりの地質のせいなのだろう。


 山は大部分で岩肌が露出しており、そこを雨水が流れているせいでさらに滑りやすくなっている。


 ひょっとして、馬に乗ったままこんなところを移動できるユリウスとリリがすごいだけなのではなかろうか。


 まあ平地でも乗れないのだから、私が役立たずである事実に変わりはないか。


「リリさんは大丈夫ですか?」


 ユリウスは後方にいるリリへと声をかける。


 エルフである彼は動物と心を通わせることができる。


 経験値もあいまって、その乗馬に危うさは微塵も感じられない。


 ゆえに彼が先導する形で山越えをしているのだ。


「大丈夫ですっ。買い出しで慣れていますのでっ」


「……魔族の『乗馬』に慣れているのならこれくらいの悪条件は問題ではないかもしれませんね」


 そうリリの言葉に笑みをこぼしているユリウス。


(まあ、少なくとも乗っているものが馬じゃないものね……)


ちなみに魔族領にいる馬は平均的日本人が想定する馬ではない。


 馬の形をしたモンスターである。


 UMAと言い換えてもいい。


 当然ながら難易度は普通の乗馬とは大きく隔たりがあった。


 私がこの世界で乗馬の練習をしなかった最大の原因がそれである。


 素人が乗ったら死ぬと初見で確信したのだ。


「どうかなさいましたか?」


 そんな遠い日の思い出。


 私が過去に思いをはせていたからだろうか。


 ユリウスが声をかけてきた。


 いくら馬を操っているのが私ではないとはいえ、油断をして落馬しては目も当てられない。


 そう気を引き締めなお――


「やはり、彼の婚約者候補として他の異性に抱き着かなければならないというのは抵抗がありましたか?」


「なんで知ってるんですか!?」


 想定外の一撃に思わず声を上げてしまった。


 リュートからの手紙に書かれていたのだろうか。


 それとも、もしかしてノアたちから軽い事情はすでに聞いていたのだろうか。


 そんな考えがめぐる。


「リリさんから聞きました」


「…………」


 じとりとリリに目を向ける。


 ユリウスとリリが2人きりになったタイミング。


 おそらく、私がリュートに決意表明をしていたあたりか。


 まさかあのときに同時進行でとんでもない情報漏洩が行われていただなんて。


 味方に背中から刺された気分だ。


「と、ともかくこの状況に不満があるというわけじゃなくて。私のワガママに付き合わせてしまって申し訳ないな……と」


 たしかにリュートからの手紙には、場合によっては私を聖域に送って欲しいという言葉があったという。


 しかし、聖王国に連れていくという話は一切なかったわけで。


 距離を考えると後者のほうがはるかに手間がかかるというのに、彼を付き合わせてしまったことに負い目があったのだ。


「構いませんよ」


 しかし彼は笑みを崩さずにそう言った。


「実はというほどのことではありませんが、私もこれから聖王国を目指すところでしたので」


「理由は……聞いてもいいですか?」


 おそるおそる尋ねる。


 彼が聖王国を目指す理由。


 正直なところ、そんなもの1つしか浮かばない。


 とはいえ聞かずにはいられなかったのだ。


「そうですね。強いて言うのならば、確かめたいことがある……といったところでしょうか」


(確かめたいこと……ねぇ)


 返ってきたのははぐらかすような言葉だった。


 その意図を読み解くだけの観察眼は、私にはなかった。


「――おや」


「どうしたんですか?」


 外套越しに雨音を聞くだけの時間。


 それは唐突に終わりを告げた。


 ユリウスが馬を止めたのだ。


 この雨だ。


 もしかすると、さすがに進行が難しい状況になってしまったのだろうか。


 そう思うも、


「いえ、想定外のタイミングで友人と鉢合わせすることになってしまったのでどうしたものかと」


 どうやら違ったらしく、ユリウスはそう答えた。


 笑みのない、真剣な表情で。


「……友人?」


 エルフであるユリウスが友人と呼ぶ人物。


 場所から考えてエルフということはないだろう。


 そうなれば、考えられる人物は相当限られてくるわけで。


「無駄足、よくてお前の名を騙る不届き者が見つかるだけだと思っていたんだがな」


 聞こえてきたのは男性の声。


 それが誰なのかを察し、私は肩を震わせた。


 いつかは対峙するとは思っていた。


 だがまさか、こんなにも早くに遭遇するとは思っていなかった相手だったから。


「まさか、本当にお前が魔女と行動を共にしているとは思わなかった」


 私たちが進んでいた道をふさぐように前方に現れたのはロイ=バックスだった。


 彼は屈強な黒馬に乗り、私たちの前に立ちふさがっている。


「ユリウス」


「……ロイ」


 交錯する2人の視線。


 そこには剣呑な空気が立ち込めていた。


 雷鳴がとどろく。


 衝突の始まりを告げるように。


「行き違いがあってはいけないからな。念のために確認しておく」


 そう口にするロイ。


 その目には冷たい怒りが宿っていた。




「罪人の護送にしては、拘束がぬるいと思うのは俺だけか?」

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