衝撃!次元獣ブラックザウルとの死闘!!
――青空を切り裂き、櫻魅耶市の東北東へと飛翔する三機のゾーンマシーン。
「各機の飛行安定よし。 巡航速度を維持して、このまま次元獣が出現した場所に急行するよ!」
ケンの冷静な声が、通信回線を伝ってタケルとモンタの耳に届く。
「りょーかい! にしても、このスーツの着心地、やっぱ最高だな。空の風をダイレクトに感じるぜ!」
タケルはフレア・ストライカーの操縦桿を軽快に操作しながら、全天周囲モニターに広がる雲の流れを眺めた。その傍らで、モンタもアイアン・グラップラーの重厚なエンジン音を響かせつつ頷く。
「本当だね 〜♪」
「モンタ。浮かれすぎないでよ。今回の次元獣は、これまで倒してきた次元獣のデータとはまた、ケタ違いの凶暴さだ。……ちょうどいい、今から各機のメインモニターに、光学センサーが捉えた奴の姿を転送するね」
ケンの操作により、三人のコクピット中央のモニターに、遠方に出現した次元獣の姿が鮮明に映し出された。
そこに映し出されていたのは――。
硬質で鋭利なウロコに全身が覆われ、額の中央には不気味に輝く鮮やかな赤い一本角。目は血のように赤く光り、両手には長く鋭い巨大な鉤爪を思わせる凶悪な武器を備えた巨獣。体色は深いグレーと漆黒で統一され、見る者を圧倒する異様な威圧感を放っていた。
映像を見たタケルは、操縦桿から片手を離し、顎に手を当てながらその特徴を淡々と分析し始める。
「ふむふむ……。全身を覆うあの硬そうな黒いウロコ、いかにも物理攻撃が効かなそうだな。おまけにあの真っ赤な一本角と、手にあるデカい鉤爪……。まさに恐竜と怪獣を合体させたような、とんでもねぇ見た目をしてやがるぜ」
じっとモニターを観察していたタケルは、ふっと悪戯っぽい笑みを浮かべると、こう言い放った。
「にひひ♪よし、決めた! あの見た目と色からして、こいつの名前は――“次元獣ブラックザウル”だ!」
その瞬間、ケンのコクピットから微かなため息交じりの声が漏れた。
「……はぁ。また君は、そういう直感的で変な名前をつけてるね。タケル」
ケンの呆れたようなツッコミに対し、モンタは目を輝かせて身を乗り出した。
「言ってるのケン君! “次元獣ブラックザウル”って、なんか、恐竜っぽくてめちゃくちゃカッコいい名前だと、僕は思うな〜。 さすがタケル君、センスが光ってるよ!」
「えへへ〜♪だろ? モンタもそう思うよな! よし、これより正式名称“次元獣ブラックザウル”に決定だ!」
二人の呑気なやり取りに、ケンはやれやれといった表情で眼鏡の位置を直す。
「まったく……。まあ、名前が何であれ、油断大敵なのは変わらないよ。気をつけて、そろそろ目的地に到着するよ」
「おう!」
「わかった!」
三人がそれぞれのマシーンを駆り、“次元獣ブラックザウル”へと接近していく。
―――その裏で三人が知らない場所で、既に次元獣防衛チームの面々が過酷な戦闘の真っ只中に身を投じていた。
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氷助匠、ジョージ・マルティス、トニー・ヴァンズ、霧島聖、そして南方宗二。
彼らは各自、それぞれの位置で、文字通り命懸けの活動を繰り広げている。
「くっ!やっぱ、正面からじゃ、ライフルの弾じゃ、あの、黒いウロコに簡単に弾かれちまう!」
森の中を駆けながら、黒い次元獣に向けてはアサルトライフルを構えては撃つ、また、移動しながらまた、足を止めては撃つを繰り返しているトニー・ヴァンズが睨みつけながら叫ぶ。
「焦るなトニー。硬い鱗以外を狙うんだ。ジョージ!そっちの状況はどうなってるの!」
氷助匠が冷静に全体の指揮を執りながら、味方に指示を飛ばす。
ジョージ・マルティスは手元の端末で画面を次元獣の容姿に合わせよえと、歯を食いしばっていた。
「わかってる! これでも分析してる、つもりでやってる!」
ジョージがタブレット端末の画面を荒々しくスワイプすると、ブラックザウルの周囲を旋回する偵察ドローンからの映像が幾重ものウィンドウでポップアップした。画面の端では警告を示す赤いアラートが激しく明滅し、解析されたばかりのデータ数値が凄まじい勢いでスクロールしていく。
「よし、データ解析完了だ! この次元獣、表面を覆う黒いウロコは衝撃を分散・吸収する特殊な構造で出来ている。つまりは生きた戦車みたいなもんだね。正面からの攻撃は、文字通り"かすり傷一つ、つけられない"って思った方がいい!」
ジョージの切迫した声が無線回線を通して全員の耳に飛び込む。その背後では、ブラックザウルの巨大な足踏みによる地響きが、スマートフォンや携行端末のバイブレーションのように小刻みに地面を揺らしていた。
「なっ……つまりは移動する生き返た、戦車ってか!?ハッ、 笑えないジョークだな、おい!」
トニーは足を止め、荒い息を整えながらアサルトライフルの銃身をグッと持ち上げた。目の前には、黒鉛色の巨体がそびえ立ち、その圧倒的な質量が作り出す影がトニーの全身をすっぽりと飲み込んでいる。ブラックザウルの赤く光る目が、まるで虫けらでも見るかのようにピクリとトニーを捉えた。
「まずいッ!トニー、危ない、退避しろ!」
少し離れた高台から戦況を見下ろしていた氷助匠が、鋭く声を張り上げる。次の瞬間、ブラックザウルの両手にある長く鋭い巨大な鉤爪が、空気を切り裂くような轟音とともに振り下ろされた。
――ガァァァンッ!!
すさまじい風圧と衝撃波が周囲の木々を根元からなぎ倒し、トニーがギリギリのところで身を翻して回避した地面を、真っ黒な巨大クローがえぐり取る。砂塵と無数の木片が弾け飛び、トニーは衝撃で派手に地面を転がった。
「クソっ……! 間一髪だったぜ! あんなの、まともに食らったら、即死だぜ、たくっ!」
這いつくばりながら悪態をつくトニーに向かって、別の方角で気迫のこもった声が飛んできた。
「そんな事を言っている暇はないぞ、トニー! 本部からの連絡では、増援の自衛隊が到着するまで、あと五分だ! それまでにこの、次元獣を一歩も街には近づけるな。ここで突破されたら、街にいる市民に甚大な被害が出る!」
南方の言葉に、トニーは舌打ちをしながらも力強くアサルトライフルを握り直した。
「チッ……! 五分かよ、 だが、ここで引き下がるわけにはいかないっ!了解だ、自衛隊の連中が来るまでの間、何とか食い止めてやるぜ!」
そのトニーの奮闘を援護するように、霧島聖が遮蔽物から身を乗り出し、保持していたライフルでブラックザウルの足元を狙撃する。
「私たちが何とかして、奴の注意を引きつけるわ! 」
聖の冷徹で的確な指示のもと、防衛チームのメンバーたちは絶妙な連携でブラックザウルの巨体を翻弄し始めた。
しかし、生きた戦車のごとき圧倒的な防御力と巨体を持つ次元獣にとって、防衛チームの攻撃はあくまで鬱陶しい虫程度でしかなかった。怒りを募らせたブラックザウルは、赤く光る目をギラつかせ、再びその巨大な両腕の鉤爪を振りかぶる。
――ズギャァァァンッ!!
爆発的な風圧と衝撃波が森を縦断し、防衛チームの面々は文字通り命懸けで地面へと這いつくばる。
「くっ……! 流石に、通常火器や装備ではこれ以上は限界か……!」
「――逃がすか……!」
聖が荒い息を整えている間に森の木々を巧みに避けながら、全身に重厚な青色のアーマードスーツを装着した氷助が、荒い息を抑えつつ一歩前に踏み出す。氷助は片手でロケットランチャーをガシャリと力強く構え、その照準をブラックザウルの巨大な頭部へと正確に合わせた。
――ドゴォォォンッ!!
引き金を引いた瞬間、凄まじい発射音と白煙を巻き上げながら、特殊ロケット弾が一直線に夜空を切り裂く。それは猛烈な勢いで黒煙を引いて進み、次元獣ブラックザウルの頭部からやや斜めの一番の急所付近へと――見事に直撃した。
――ガァァァンッ!! ズギャァァァンッ!!
凄まじい爆発の閃光が周囲を眩しく照らし出し、硬質な黒いウロコと肉片を盛大に弾き飛ばす。
「よし……っ!」
氷助匠は鋭い瞳を光らせ、手応えを確信するように小さく呟いた。
しかし、その直後だった。頭部への痛撃を受けたブラックザウルは、ふらつくどころか、血走った赤い目を一転させて怒りの焦点を氷助へとぴたりと合わせた。
「――ガァァァルルルルルッ……!!」
低く唸るような地響きのような咆哮とともに、ブラックザウルが猛然と突進を開始する。
「っ……まずい!」
氷助はすぐに次の特殊弾を装填しようとするが、生きた戦車の如き突進スピードはその予測を遥かに超越していた。ブラックザウルの巨大な両腕が大きく振りかぶられ、容赦ない一撃が放たれる。
――ズバシャァァァンッ!! ガラガラガラッ……!!
巨大な鉤爪が振るわれた瞬間、周囲の太い木々がまるで爪楊枝のように真っ二つにへし折られ、地面の土砂や岩石ごとすべてが粉々に粉砕された。圧倒的な破壊の余波が周囲一帯を呑み込む。
「――ぐわぁぁあッ!?」
凄まじい風圧と爆風に巻き込まれながらも、氷助は何とかその場を飛び退いて致命傷を回避しようと身を翻す。しかし、吹き飛んだ無数の木片や鋭い石の破片が彼の青いアーマードスーツの装甲を激しく打ち据えた。
――バキバキッ! ガキィィンッ!!
「ぐぅ…!」
激しい衝撃と痛みが全身を駆け抜け、氷助はそのまま勢いよく吹き飛ばされて地面へと激しく叩きつけられた。
『おい、氷助! 直撃を食らったぞ!無事か!?』
通信機を通じて、トニーの焦燥しきった叫び声がインカムのスピーカーを激しく震わせる。そのすぐ背後から、霧島の張り詰めた声が重なった。
『氷助さん、応答して! アーマードスーツの生体モニター、数値はどうなっているの……っ!』
激しい砂塵と土煙が立ち込める地面にうずくまりながら、氷助は荒い息を整え、額に伝う冷や汗をぐっと拭った。全身の装甲が受けた衝撃の反動で痺れているが、かろうじて意識は保たれている。
「……くっ、騒ぐな。これくらいの衝撃で俺がくたばって、たまるか…!」
氷助が低く鋭い声で返答すると、インカムの向こう側でトニーが「死んだかと思ったぜ、この野郎!」と大袈裟に胸を撫で下ろす音が聞こえた。
しかし、安堵の余韻に浸る間もなかった。
「――ガルルルルルッ……!!」
再び響き渡った凶悪な咆哮に、地面が再び大きく揺らぐ。ブラックザウルは氷助へと標的を絞ったまま、容赦なくその巨大な足を踏み鳴らし、追撃の巨体をさらに加速させていた。
「来るか……っ!」
迫り来るブラックザウルの巨大な影を前に、氷助が歯を食いしばり、フラつきながらも立ち上がる。
一方、南方宗二は一人、戦場から離れた所の高台の茂みから、微動だにせず戦況を見つめていた。
宗二は片手に高性能な暗視・サーモグラフィ機能付きの双眼鏡を構え、ブラックザウルの生態や細かな筋肉の動き、そしてウロコの隙間から漏れる微弱な熱エネルギーのパターンを、一瞬たりとも逃すまいと冷静に観察し続けていた。
「ふむふむ……。やはり、あの硬質な黒いウロコは衝撃を分散させるだけでなく、外部からのエネルギー攻撃を内部で循環させて熱に変換しているらしい。となると、連続で一点を撃ち続けるより、エネルギーが飽和する瞬間に高火力を叩き込む方が効率的だな……」
宗二が独り言のように呟きながら、双眼鏡の焦点をさらにブラックザウルの心臓付近へと合わせようとした、その瞬間だった――。
インカムのスピーカーを通じて、苛立ちを隠せないジョージの声が無線回線に割り込んできた。
『おい、そう言えば宗二の野郎は? こっちは命懸けで戦闘してるってのに、一体アイツは何をしてやがるんだ!?』
ジョージの尖った声がインカム越しに響きわたると、すかさずトニーが「まさかアイツ、何処か、高みの見物でもやしてるのか!?」と悪態を上乗せする。
その無線を聞きながら、宗二は持っていた双眼鏡からふっと目を離し、やれやれといった仕草でインカムのスイッチに指を当てた。
「やれやれ、君たちは相変わらず短気だな。脳高度な分析の妙味を説いたところで馬の耳に念仏か。こっちはね、ただ突っ立ってサボっているわけじゃない。あの次元獣の生態、いわば“弱点”を暴き出しているところさ。私は」
気取った口調で宗二がそう言い放つと、ジョージは無線越しに盛大に歯ぎしりをする音が聞こえるほど激昂した。
『こっちは今まさに生きた戦車が如く、轢き殺されかけてるんだぞ! 暴いてる暇があったら、お前も加勢に来いってんだ!』
「はっはっは、ジョージ。ここで正確なデータという名の羅針盤を提供しなければ、君等のその派手なドンパチもただの花火大会で終わってしまうだろう?」
『な~にが花火大会だ! おい宗二、今すぐそっちに行ってその双眼鏡で鼻の穴を覗いてやろうか!』
「生憎、僕の鼻の穴より目の前にいる巨大トカゲの鼻の穴を狙った方が、世のため人のためになると思うがね、なぁ、トニー?」
『こっちに振るな。おい、氷助、アイツ殴ってもいいか!?』
地面に這いつくばりながらもインカムを聞いていた氷助は、頭痛を抑えるようにこめかみを指で押さえながら低い声で呟いた。
「……お前ら、無線で漫才してる暇があるなら、少しでもあの次元獣の足を止めろ。それに宗二、ふざけてないでその分析結果、こっちにも早く回せ!」
「はいはい、了解っと」
宗二はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、双眼鏡を片手でスマートに収めると、懐から別の通信端末を取り出し、仲間たちに向けてブラックザウルの全弱点データを送信するためのスイッチに指をかけた――。




