街へと迫る黒き次元獣! 揺らぐ日常と移動教室での緊急事態!
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「いい、振り返っちゃダメよ! 落ち着いて、一定の車間距離を保って進むのよ!」
大柄な体躯のゴウさんが、先頭を走るロケ車の助手席から振り返り、後続のスタッフたちに向けて大声で指示を飛ばす。
先ほどの突発的な地鳴りと次元獣の出現という悪夢のようなパニックから、ゴウさんの的確な采配と全員の必死の連携により、撮影スタッフ及びアイドルグループのメンバーたちは誰一人欠けることなく、無事に山道を下りきり、麓の待機スペースへとたどり着いていた。
「急いで! とにかく全員、それぞれの3台の車に分乗して!3人はアタシと一緒に一番前の車に乗るのよ!」
「は、はい!」
「わかった!」
「う、うん…!」
美璃、律、陽葵そして、スタッフの一団が慌ただしく機材車やロケバスに乗り込んでいく。
その中で美璃、律、陽葵の3人もしっかりと手をつないだまま、ゴウさんが運転する3台目から一番前の車両へと滑り込んだ。全員の顔には恐怖と疲労の色が濃く滲んでいるが、パニックを起こして立ち止まる者はいなかった。
「……エンジン掛けるわよ! 全車、急ぎ撮影現場から離脱するわ!」
ゴウさんの合図とともに、3台の車は一斉にエンジンを唸らせ、未舗装の山道を蹴立てるようにして一目散にその場から走り去っていった。
♢ ♢ ♢
車列が山を離れ、比較的視界が開けた舗装道路へと差し掛かった時のことだ。
「……っ!」
後部座席の窓際に座っていた陽葵が、ふと息を呑んで外の景色に目を留めた。それに釣られるように、隣に座っていた美璃と律も、ゆっくりと車の窓へと視線を向ける。
車の進行方向とは少し離れた山の中腹。
木々の隙間から、信じられないほど巨大な黒い影が、悠然と動いているのが見えた。
――ドスンッ……! ドスンッ……!
車の窓ガラスが微かに共鳴するほどの重低音。
離れた距離からであっても、その圧倒的な存在感を隠すことはできない。あの時目の当たりにした、硬質な黒いウロコに包まれた強靭な体躯。そして、額の中央で不気味に赤く輝く一本角。
次元獣の横顔が、遠ざかる木々の合間からチラリと覗いていた。
それは人間のことなど最初から眼中にないかのように、ただ自らの本能に従って破壊の歩みを進めている。
「あれがニュースで言っていた、巨大生物次元獣…」
陽葵が内心、恐怖に震えながら、小声で呟いた。
美璃は言葉を失ったまま、ただ窓ガラスに貼りつくようにしてその巨大な横顔を凝視し、律は無言でしっかりと美璃の手を握りしめ返す。
車内には重苦しい静寂が漂っていたが、彼らを乗せた車は、恐ろしい怪獣の姿を背に受けるようにして、アクセルを踏み込み、さらにスピードを上げて安全圏へと遠ざかっていった――。
♢ ♢ ♢
――その頃、陽光が校舎を柔らかく照らし出す、櫻魅耶市の羽山小学校。
中庭の木々が爽やかな風に揺られ、廊下を歩く子供たちの笑い声や、チャイムの音を待つざわめきが校舎のあちこちから聞こえてくる。普段と何ら変わらない、平和な昼前のひとコマだった――。
だが、その平穏は、突如として別の現実によって切り裂かれる。
「――ねえ、次の理科室、確か実験の準備とかあったよね?」
「うん、確か班ごとに分かれて、水溶液の性質を調べるやつだったはず。準備物忘れてない?」
「大丈夫、ちゃんと筆箱と一緒にノートも持ってきたから!」
廊下を歩きながら弾んだ声を交わしていたのはタケルと、そのクラスメイトたち。
タケルは少し癖のある髪を揺らしながら、きびきびと歩みを進めている。その隣を歩くのはケンとモンタそして、もう一人のクラスメイトも加わった三人組は、四時間目の移動教室である理科室を目指して校舎の廊下を進んでいた。
周囲では他の生徒たちも、「急げ急げ」「廊下は走らない!」といった先生の注意を遠くに聞きつつ、教科書やファイル片手に移動の真っ最中だ。
学校という巨大な箱庭の中で、誰もがいつもの日常を疑いもせず過ごしていた。
しかし、その日常の裏側で、タケルたちの左手首に巻かれた小さなデバイス《ゾーンブレス》が、密かに異変を捉え始めていた。
(ん…?)
ふと、タケルが歩みを緩めた。
左腕のあたりから、かすかな電子音が聞こえた気がしたのだ。周囲の喧騒にかき消されそうになりながらも、それは確実にタケルの耳に届いていた。
ピピッ……ピピッ……。
「どうしたの、タケル? 早くしないと先生に怒られちゃうよ」
前を歩いていたモンタが振り返り、首をかしげる。
その瞬間、タケルだけでなく、少し離れた位置にいたもう一人の仲間、そしてケンとモンタ自身の左手首からも、同じ電子音が重なるようにして響き渡った。
ピコピコピコッ……!
「あっ…!」
「これって…!」
三人が同時に足を止める。
く三人の腕に装着された《ゾーンブレス》が点滅しながら、音を発生していた。
次元獣が出現をを知らせるかのように鮮烈な赤色が激しく点滅をしていた。
「"次元獣"が出現したんだ…!」
「嘘だろ、こんなタイミングでかよ!」
周囲のクラスメイトたちは、移動教室の列に夢中で、まだタケルたちの異変に気づいていない。
「おーい、タケル、ケン、モンタ! 何やってるの、早くしないと授業が始まっちゃうよー!」
前方を歩いていた係の女子生徒が振り返り、声をかけてきた。
「あ、ううん!わりぃ、俺ちょっと、教室に忘れ物したから、一回戻るわ!後で先生に言ってくれねぇか!」
タケルはとっさに明るい声を作って手を振り、その場をごまかした。
「え、あ、うん。わかった。伝えとくねー」
クラスの女子がそう言い、女子グループの列へと戻っていく。その背中が角の向こうへ消え、廊下に他の生徒たちの足音が遠ざかっていくのをしっかりと確認した瞬間、三人は顔を見合わせ、無言で頷き合う。
「クラスの連中は先に行ったみたいだな。よし、今だ!」
タケルの短い合図に合わせ、ケンとモンタの二人は一瞬たりとも躊躇することなく、防火扉の影の暗がりに身を滑り込ませた。
ここはちょうど、歴史資料室と用具入れの間に挟まれた、普段は生徒があまり立ち入らない死角のスペースだ。薄暗いコンクリートの壁と非常灯のオレンジ色の光が、わずかに彼らの緊張した影を床に落としている。
「よし、今のうちに…!」
ケンが周囲を素早く見渡し、廊下の向こうから別のクラスの移動の足音が聞こえないことを確認する。
今この瞬間にも、左手首の《ゾーンブレス》は先ほどよりも激しさを増したリズムで、鮮烈な赤色の光を脈打たせ続けていた。
ピコピコピコピコッ――!
発せられる電子音のピッチが急速に上がり、内蔵された小型センサーが極めて危険度の高い次元エネルギーの奔流を捉えていることを無言で告げている。
空気がピリピリと帯電したように肌を突き刺す。学校という日常の空間が、ほんの数秒の間に、全く別の緊張感に満ちた戦場へと変貌していく感覚。
「行くぞ!」
タケルは左腕を突き出し、ブレスの中央に配置された丸い起動ボタンに迷うことなく親指を強く押し込んだ。
それに呼応するように、ケンとモンタも同時にそれぞれの腕に巻かれた《ゾーンブレス》のボタンを力強く押し込む。
――カチリッ!
直後、三人の手首から放たれた強烈な青白く眩い光が、周囲の薄暗い空間を瞬時に飲み込んだ。
重力がその意味を失い、足元からふわりと浮き上がるような浮遊感と、世界が歪むような耳鳴りが同時に襲い来る。校舎の床が消え去り、視界のすべてが幾何学模様の光の粒子とデータストリームの奔流へと変わっていく。
光の渦に包まれた三人の体が、光速の軌跡を描きながら空間を跳躍する。
着地の衝撃をそれぞれの足できれいにいなしながら、タケル、ケン、モンタの三人が同時に光の中から降り立った、秘密基地であり、拠点でもある《ゾーン・ハイド・ベース》。
そしてケンは光の粒子が消え去るかどうかのタイミングで、一直線に中央のオペレーションコンソールへと直ぐ様、駆け寄った。
「今から、次元獣が何処に出現したか、現状を把握するね!」
――カチャカチャ、カチャカチャッ!
ケンは慣れた手つきでホログラムのキーボードを激しく叩き、両手を迷いなく走らせる。彼の指先から放たれる電子音が、静寂な基地の中にピッチ高く響き渡った。
モンタもすぐにその隣のサブコンソールに飛びつき、システムのバックアップと索敵プログラムの起動を同時並行で行う。
「よし、軌道修正完了……! センサーアレイを地上へ全展開、櫻魅耶市周辺をスキャンするよ!」
ケンが息を弾ませながら叫ぶと同時に、基地の正面にそびえ立つ数メートルの巨大なメインモニター画面が、微かなノイズを挟んでパッと切り替わった。
――ピピッ、ガガガッ!
画面に映し出されたのは、色鮮やかな地形マップと、そこに重なるように表示されたリアルタイムの衛星データだった。
「座標特定、はやい……!」
モンタが目を見開き、モニターを凝視する
そこには画面に大きく映し出された、櫻魅耶市の東北東に位置する、なだらかな山々が連なる一帯の俯瞰図だった。緑豊かな山林の隙間に、一際目を引く不気味な黒いシルエットがハッキリと捉えられている。
「いた! コイツだ!」
ケンが指し示したその場所には、硬質な黒いウロコに身を包んだ圧倒的な巨体の次元獣が、木々をなぎ倒しながら進む姿がリアルタイムで映し出されていた。額の中央で不気味に赤く輝く一本角が、周囲の光を嫌らしく反射している。
「あれ?ねぇ、この次元獣、山の中腹から、ゆっくりだけど確実に櫻魅耶の街の方角に向かってない?」
「なにィ!?」
「言われてみれば…!」
モンタの声に、タケルとケンの表情が険しく引き締まった。
モニターの端に表示された予測ルートのシミュレーションラインは、このまま進めば間違いなく街の中心部や住宅街を直撃することを示している。街の人々がいつもの日常を過ごしているその場所へと、次元獣が着実に迫りつつあった。
「街へ向かわせるわけにはいかない……! 奴が街に到達する前に、俺たちで食い止め、倒すぞ!」
タケルは力強く拳を握りした――。
※ちなみに三人が秘密基地に転送した後、タケルに伝言を頼まれたクラスの女子が三人が授業が始まっても一向に戻って来ない事が理科の担当の先生までもが、三人がなかなか戻って来ない事が気になり、一度、教室の方に様子を見に向かっている事をこの時、タケル、ケン、モンタは知らない――。




