対次元獣防衛チーム初出陣!
荒波が黒々とした岩肌を打ちつける櫻魅耶の近海――。
その切り立った断崖の絶壁に同化するようにしてそびえ立つ、コンクリートと特殊合金製の巨大な建造物。表向きは海上保安庁の気象・地殻変動観測所とされているが、その実態は各地に出現し始めた、“次元獣”の脅威に対抗するために極秘裏に設立された防衛組織、《対次元獣防衛チーム》の拠点。
施設内の地下深く、青く冷たい光を放つモニター群が立ち並ぶ作戦司令室で突如として、けたたましい赤色回転灯の点滅とともに、耳をつんざくような緊急警報アラームが鳴り響く。
「――警報発令! 櫻魅耶山岳地帯エリアに地殻を突き破って"次元獣"の出現を確認しました!」
オペレーターの張り詰めた声が司令室に響き渡る。
メインモニターには、山肌を抉るようにして地中から現れた、黒光りする硬質なウロコと一本角を持つ巨大な怪獣の姿が映し出された。
「来たか…!」
歯噛みするような声を発したのは、メカニックと前線戦闘の両方をこなすタフガイ、トニー・ヴァンズだ。彼は自分の愛用する頑丈なコンバットグローブのベルクロをキツく締め直しながら、メインモニターに映し出された山岳地帯の三次元地形図を険しい目で睨みつけている。
その隣で、冷静に通信回線のハンドシェイクを確認していたのは、戦術情報アナリストのジョージ・マルティスだった。ジョージは滑らかな手つきでキーボードを叩き、衛星軌道上の偵察サテライトからのライブフィードを切り替える。
「現時点での住民および登山客の正確な位置情報は……くそっ、山の電波状況が不安定だ。麓からの定期連絡も途絶えている。民間人が巻き込まれている可能性はゼロじゃない」
「最悪のタイミングだな。だが、俺たちが躊躇している暇はない」
低い、しかし周囲を圧倒するような重声が響いた。
声の主は氷助匠。
は、すでに戦闘用アーマードスーツの装着を完了していた。最新鋭の合金で作られた重厚なタクティカル・ヘルメットを左脇に抱え、冷徹な光を湛えた瞳で前方を見据えている。その周囲には、予備の弾倉、特殊対物ライフル用のサプレッサー、そして使い捨て型の携行式ロケットランチャーといった、ありったけの重火器と弾薬が所狭しと並べられていた。
「氷助、随分と重装備だな。そんなに持って、大丈夫なのか?」
からかうような、しかしどこか余裕を含んだ声を向けたのは、霧島聖だ。聖はすでに特殊素材製の軽量ボディアーマーに身を包み、腰のホルスターに愛用の大型ハンドガンが収まっているかを確認している。
「重ければ重いほど、安心できる。あんなデカブツを相手にするなら、過剰すぎるくらいの火力でちょうどいい」
氷助は一切の冗談を許さない表情で答え、足元に転がっていたロケットランチャーのロック機構を指先でカチリと確かめた。
そして、その一団の少し離れた場所で、まるでこれから起こる惨劇など、吹くだけのように、淡々とタブレット端末の画面をスクロールさせている男がいた。
――南方宗二。
の枠に収まらない未知の生命体、すなわち“次元獣”の生態や細胞構造を分析するスペシャリストだ。彼は分厚いレンズの眼鏡の位置を押し上げると、不気味なほど落ち着いた口調で呟いた。
「ふむ……先ほど観測された地殻の亀裂データを見る限り、今回の次元獣は地中深くの鉱物資源や地熱のエネルギーを吸収して急激に質量を増した可能性が高い。……いや、もし僕の予測が正しければ、奴の体表組織は通常の火器では弾かれる硬度を持っているかもしれないね」
「おいおい、南方。出陣前から縁起でもない分析はやめてくれよ。こっちはこれから、現場に向かうんだから」
トニーが苦笑いを浮かべながら肩をすくめるが、宗二はふっと眼鏡の奥の眼を細め、静かに首を横に振った。
「なーに、知ることは、勝つための第一歩だよ、トニー。次元獣を知らずして、銃弾の雨を降らせても弾薬の無駄遣いに終わる。……まあ、僕の解析データが現場でどれだけ役に立つかは、実際に見てからのお楽しみさ」
「全員、準備はいいな?」
氷助がヘルメットを深く被り、インカムのスイッチを入れた。機械を通した低く響く声が、他の四人の耳に直接届く。
「いつでもいけるわ!」
聖が微笑みとともに親指を立てる。
「了解。機体の整備は完璧だ、俺の銃の腕前もな」
トニーが自分のアサルトライフルを構え直す。
「データリンク完了。現地の気象データ、風向き、すべてリアルタイムでそちらに転送する」
ジョージが手元の端末を閉じ、立ち上がった。
「次元獣……ふふ、今からこの眼で見られると思うと、楽しみでならないね」
宗二が不敵な笑みを浮かべる。
「行くぞ。初陣だ!」
氷助を先頭に、五人の精鋭たちは地下格納庫から高速エレベーターに乗り込み、一気に施設の最上階へと駆け上がった。
♢ ♢ ♢ ♢
エレベーターの扉が重い音を立てて開き、吹き抜けの屋上へと通じる通路に冷たい潮風が流れ込んでくる。
頭上に広がるのは、鉛色に淀んだ曇天。そのはるか下方では、怒濤のような荒波が黒々とした崖に牙を剥くように打ちつけていた。
屋上の広大なコンクリートパッドの中央。
そこに鎮座していたのは、威圧感を放つ巨大な双発の巨体――大型輸送ヘリ、CH-47JA通称“チヌーク”だった。
二基の巨大なローターがすでにエンジンの暖機運転を終え、耳をつんざくような重低音を響かせながら、凄まじい旋風を巻き起こしている。周囲の空気が激しく震え、彼らの衣服や髪が激しく逆立った。
「乗れっ!」
氷助の号令に従い、トニー、聖、宗二、そしてジョージが次々とチヌークのリアカーゴランプへと飛び込んでいく。
最後に氷助自身が、大量の銃器とロケットランチャーを積み込んだ頑丈なコンテナを引きずりながら機内へと滑り込み、重厚なハッチがガチャンと音を立てて閉ざされた。
機内は轟音と激しい振動に包まれているが、五人の間に恐怖や動揺の色は一切ない。あるのは、これから次元獣が出現している現場へと立ち向かう、者の特有の研ぎ澄まされた緊張感のみだった。
操縦席からのインカム越しの声が響く。
『こちらパイロット、これより離陸する! 目的地、櫻魅耶山岳地帯セクターB、次元獣出現ポイントへ急行する! シートベルトをしっかり締めて下さい!』
「よし……!」
氷助は機内の壁面にしっかりと体を固定し、愛用の銃器を抱え込んだ。
チヌークの機体がふわりと浮き上がり、吹きすさぶ海風を切り裂きながら、猛烈な勢いで垂直上昇していく。
下方に広がる荒々しい海と要塞のような通信施設がみるみる小さくなり、機体は目的地である山岳地帯の空域へと針路を向け、蒼天を切り裂くようにして一直線に飛翔していった――。




