変わらない朝、いつもの教室と一コマ。
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――朝日が眩しい、いつもの住宅街。
オレンジ色の屋根が並ぶ通りを、タケル、ケン、そしてモンタの三人はそれぞれの場所で家を出て、いつものように角で合流する。
「おはよー!タケル、モンタ」
「ふわぁ〜…むにゃむにゃ…おはよー」
「おう!」
ケンが元気よく手を挙げながら走ってくる。モンタは少し眠そうな顔で欠伸を噛み殺しながら、それに応えた。タケルも元気よく応え、いつものように少し先を歩きながら、カバンを肩にかけ直す。
三人は肩を並べて、学校までの道を歩き始める。
「そういえばさ、二人とも。テスト範囲ちゃんとやったの?」
ケンが何気ない様子で尋ねると、モンタは余裕の表情で親指を立てた。
「ふふん。もちろん! 昨日、秘密基地の後に家に帰って、ちゃんと夜遅くまで参考書とか、教科書を見直しながら、睨めっこしたからね。……あ、でも社会がちょっと怪しいかなー…」
「偉いねモンタは。んで、タケルは?」
ケンがニカっと笑ってタケルに視線を向ける――が、しかし、タケルはピタリと足を止めた。
背筋に冷たいものが走ったような――そんな、大げさではないが、明らかに“マズい”という顔つきだ。
「……ん? タケル?」
タケルは青ざめた表情で、ガバッと自分のカバンを開けた。中にはジャージとノート、教科書が適当に詰め込まれている。
「あっ――やっべぇ!!」
タケルの叫び声が、静かな住宅街に響き渡った。
「ど、どうしたの急に?」
モンタが驚いて覗き込む。タケルは真っ青な顔で、頭を抱えた。
「すっかり忘れてた……数学の課題範囲、ここからここまでだと思ってたのに、次のページまで含めてテスト範囲だったんだ……! 昨日の夜遅くまでゲームの実況プレイ動画見てる場合じゃなかった!」
「もうー、あれほど授業で先生がテスト範囲に出るって、説明があったって言うのに」
ケンが呆れ果てて肩をすくめる。モンタはクスッと笑いながら、タケルの肩をポンポンと叩いた。
「まあまあ、タケル君。学校に着いたら一限目が始まるまで、僕のノート貸してあげるからさ!」
「お、マジか! モンタ。やっぱ頼れるのは友だぜ!」
「大げさだなぁ。その代わり、愛先輩に告白する案、また、一緒に考えてくれる?」
「あ、それとこれとはまた、別だな」
「何で!?」
「あはは」
「にしし♪」
三人は顔を見合わせ、大笑いしながら校門へと続く道を歩いていく。
何気ない会話、笑い声、そして少しのドタバタ。
朝日が照らす通学路は、いつものように三人の少年たちの笑い声で満たされていた。校門をくぐり、賑やかな校舎へと足を踏み入れると、そこには日常という名の愛おしい時間が流れている。
校舎の入り口から廊下を歩く間、タケルはクラスでは持ち前の明るさと、元気が取り柄な所が男女問わず、同級生たちに好まれている。廊下ですれ違うたびに同じクラスの男子たちから「おはよっ、タケル! 」と肩を叩かれ、タケルも「おう!おはよー!」と元気な声と笑顔で返す。
その掛け合いの隙間に、「おはよ〜」「おはよう」と、ケンとモンタも挨拶を交わす。
そして、ケンは言わずもがな、クラスの教室に入り、ケンが自分が座る席に着くと、同じクラスの女子達がケンの所へと集まりだした。
「ねえねえ、ケン君! 昨日の先生が言ってた数学の範囲表見たんだけど、ここってどこからどこまでなの?」
困り果てた様子の女子に囲まれると、ケンは人懐っこい笑みを浮かべ、まるで太陽のような輝きを放ちながら説明を始めた。
「あー、そこね。 ここはね、前の授業で先生が『ここが大事だよ』ってマーカー引かせたところ。この公式さえ押さえておけば大丈夫。それで、ここをこうやって書き換えると……」
ケンの指先が教科書の上を滑り、女子たちの表情が不安から安堵へと変わる。その姿を少し離れた席から見ていたモンタとタケルは顔を見合わせて小さく肩をすくめた。
「相変わらずケンはモテるなぁ。あいつの説明なら、誰だって理解できるよなー」
「うん。それに僕も、テストに向けて、赤点取らないよう頑張らないと。愛先輩に顔向け出来ないからね。うん!」
モンタがそう自分にそう言い聞かせながら、自分の席の所へと着く。タケルはモンタが自分に言い聞かせている、むしろ決意表現の姿につい、苦笑いしてしまった。
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タケルが自分の席にカバンを置くと、三人、それぞれ手早く教科書とノートを机の中に整理する。始業のチャイムまであと二十分。
するとモンタは自分のカバンから、几帳面に書かれたノートを取り出した。それは、昨夜モンタが必死になってまとめ上げた、努力の結晶である。モンタはそのノートを手に、タケルの机へと向かった。
「はい、これ」
「お!助かる〜♪モンタ。マジでお前には頭が上がらないぜ」
タケルがノートを広げると、そこにはケンほどではないにせよ、非常に丁寧で読みやすい文字が並んでいた。要点が細かくまとめられ、先生が黒板に書いた補足情報までしっかりとメモされている。
タケルはペンを走らせながら、感心したように呟いた。
「すごいな、モンタ。お前、いつの間にこんなにノート取るのが上手くなったんだ? 前はもっと……その、味のある字だったろ?」
「うっ、うるさいな///。ちゃんと見えやすいように書けてる方だよ。これでも///」
モンタは照れくさそうに頭を掻く。タケルは思わず吹き出した。
タケルは持っている鉛筆を走らせ、スピードを上げる。モンタのノートは、確かに以前のような乱暴な走り書きではない。一つひとつの文字が、より丁寧に紡がれているようで、モンタのひたむきな性格がそのまま投影されている様な感じだ。
教室の斜め前の席から、ケンの明るい笑い声が聞こえてくる。どうやら女子たちへの解説が好評だったらしい。
「よし、終わった! モンタ、サンキュ。これならテストの日、なんとかなりそうだ」
タケルがノートをパタン!と閉じ、モンタの方へ突き返す。モンタはそれを受け取り、そのまま自分の席の机の中に入れた。
チャイムが鳴るまで二十分間、教室という小さな空間は、それぞれの思惑と日常の気だるさが混ざり合った独特の空気感に包まれていた。タケルから返却したノートを自分の机の奥深くにしまい込んだモンタは、机の中から、一時間目の教科書を取り出し、几帳面に表紙の端を揃える。
「おい、モンタ。さっきのケンの解説、聞いたか? なんかまた、一段と調子に乗ってるぜ。アイツ」
タケルは伸びをしながら、斜め前の席のさらに向こう側、クラスの中心で女子たちに囲まれているケンの背中へと視線を投げる。ケンの周囲は華やかで、ケンの軽妙なトークに黄色い笑い声が幾度となく響いていた。勉強が得意なだけでなく、人懐っこい愛嬌も持ち合わせているケンは、クラスの女子達とってのムードメーカーとして揺るぎない地位を築いている。
「まあー、ケン君の場合、いつもの事だからね。要領がいいっていうか、人を惹きつける才能があるっていうのかな」
モンタは少しだけ羨ましそうな、しかしどこか達観したような声音で呟きながら、自分のペンケースのジッパーを幾度か開け閉めした。
「まあな。あいつに教えてもらうと、不思議と頭に入ってくるからずるいよな。でも、俺にはお前のその、コツコツまとめた泥臭いノートの方が合ってるぜ。なんせ、どこがポイントなのかが一目でわかるからな」
タケルがからかうような、しかしどこか本心からの称賛を込めてそう言うと、モンタは「べ、別に泥臭くなんかないもん!」と小さく反論し、そっぽを向いた。だが、その耳たぶのあたりがうっすらと赤くなっているのを、タケルは見逃さなかった。このやり取りの何気なさが、二人にとっての変わらない日常であり、心地よい時間だ。




