忍び寄る次元の亀裂と、いつもの《ゾーン・ハイド・ベース》の日常。
――キィィィィン……パリン!
それは平和な日常の裏側で、現実という名のキャンバスが、誰にも見えない場所で静かに、しかし確実に切り裂かれていく。タケル、ケン、モンタの三人が学校帰りに愛先輩と一緒に帰り、穏やかな午後に身を委ねていた、そのわずか三日後のことである――。
――ボォォォォン……。
深海奥深くの空気が震える音――場所は、誰の目にも触れない深海四千メートル。
暗闇に包まれた海底火山付近の地層が、まるで巨大な爪で引き裂かれるように歪んだ。水圧すら無力化する異常な引力が発生し、泥と岩石を巻き込みながら、禍々しい紫色の光を放つ僅かな隙間――それは"次元の裂け目"の入り口がゆっくりとを開く――。
「キ"ィ"ィ"イ"ィ"ガ"ア"ァ"ァ"ア"ア"ァ"ッ!!」
そこから這い出たのは、全長約52メートルもある、頭部には三本の角が生えた獣型の巨大生物――“次元獣”だ。
――そして、場所は変わり、険しい山々に囲まれた秘境。
パリン……パリン……パリン……。
濃霧が立ち込める谷底で、空間がガラスのようにひび割れ、禍々しい裂け目から巨大な影が二つ、同時に出現した。霧が晴れると、そこに現れたのは二体の巨大生物。
「ギョエェェェェーーッ!! ギャゥゥゥンッ!!」
全身53メートル程ある、全身が鋭く尖った鱗に覆われた、直立する爬虫類型で燃え盛るような紅蓮の眼と、頭部から背中にかけて連なる赤い棘が特徴の次元獣。
「ゴォォオオォオォォ……ッ!! バゥゥゥウゥン!!」
もう一体は全長48メートルの巨大な海亀を思わせる甲羅を持つが、その甲羅は鋭利な黒曜石のような結晶体で覆われている。全身は岩石のような皮膚で構成され、頭部には巨大な一角がそびえ立つ次元獣。
三体の次元獣は、まるで意思を通じ合わせるかのように、別々の場所に出現した。
――その頃。
街の平和な日常の象徴とも言える秘密基地こと、《ゾーン・ハイド・ベース》では、三人の少年たちがいつものように過ごしていた。
モンタが愛先輩との思い出に浸り、明日への期待を語っていた。
「なぁ、なんだか……今日はやけに空がジメジメしているように見えねぇか?」
タケルがふと、映像の外の空をジっと、見上げながら首を傾げた。
「そう?」
ケンがモニターの数値を見つめ、眉をひそめるも、映像の方と基地の高性能センサーを首を左右に確認し、腕に付けている《ゾーンブレス》の方にも確認をしたが、特に何も反応も変化は無かった。
「タケルの気のせいじゃないかな?」
「そう、か…?」
ケンにそう言われるもタケルは、画面の映像の外の空をジっと未だに見つめていた。
「なーんか、嫌な予感がするんだよなぁ〜」
タケルの呟きに、モンタとケンが同時にタケルの方を振り返る。
「タケル、そんな不吉なこと言うよ。 今日、これからモンタが愛先輩への告白シミュレーションの続きやるんだからさぁ」
ケンの冗談に、モンタが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「んなッ!?///」
モンタは椅子から飛び上がるようにして立ち上がり、ケンの頭を小突こうと手を伸ばすが、空を切る。ケンはニヤニヤと悪戯っぽく笑いながら、キーボードを軽く叩いてさらに『愛先輩との親密度グラフ』を画面いっぱいに映し出した。
「だって、モンタ。さっきから"明日のデート服はどっちがいいかな"とか、"愛先輩の好きな映画のジャンルは"とか、愛先輩のことばっかり考えてるんだもん。僕とタケルは、モンタの為を思っての、恋路を成就させるために協力してるんだから。 これは“友情のシミュレーション”なんだよ」
「"友情"でそこまでやる!? ……しかも、“告白シミュレーション”って、具体的に何をする気なの?」
モンタは机に突っ伏し、両手で顔を覆う。指の隙間から覗く耳まで真っ赤だ。
一方、タケルは未だに基地の外の映像に映っている、淀んだ雲が立ち込める空を見つめたままだった。タケルの胸の奥にある、言いようのないざわつき――“嫌な予感”は、モンタとケンの騒がしいやり取りを聞いていても消えるどころか、むしろ少しずつ濃くなっている。
「まぁまぁ、二人とも、少し落ち着こうぜ」
タケルが静かに切り出すと、モンタが「ほら! タケル君も呆れてるでしょう!」と嬉しそうに頷く。しかし、タケルはモンタの言葉を否定するように首を横に振った。
「そうじゃなくてさ。……とりあえず、シミュレーションのパターンを整理しておかないか? 愛先輩の性格を考えたら状況的に、いくつか用意しておいたほうがいいんじゃないか」
「は、はあ……?」
モンタは呆気にとられ、ケンは「さすがだね。タケル!」と親指を立てた。二人の間の空気が、いつの間にか"恋の応援団"へと完全に切り替わっていた。
パターンA:【王道・放課後の図書室にて】
ケンがモニターに図書室の背景を投影する。
「これぞ青春の直球。放課後、二人きりの図書室。静寂の中で、モンタが勇気を出して伝えるんだ。"ずっと、愛先輩のことが好きでした"って」
「うわぁ……ベタすぎて、逆に緊張して心臓止まりそうだよ!」
モンタが叫ぶが、ケンは止まらない。
「そこで大事なのは、愛先輩が驚いて、本を落とす動作をいかに自然にフォローできるか、だね。モンタ、ここでさりげな〜く、先輩の手を包み込むんだよ」
「できるかぁぁぁ!! そんな少女漫画みたいなことっ///!?」
「じゃあ、これがダメなら…次はこれ」
パターンB:【波乱・トラブルを乗り越えて】
ケンが腕を組みながら、真剣な表情で言葉を継いだ。
「んーー波乱とトラブルを乗り越えて、か。もし、下校途中に突然の雨が降ったり、もしくは帰りの途中で、何かのトラブルに巻き込まれたり…とか、かな?」
「あー、まぁ〜確かにドラマチックだろうけど、そんな都合よく起きないと思うけどなぁー」
「いいや、モンタ。仮にもしそうなったら、愛先輩はきっと困るはずだ。そこで傘を差し出す、あるいは雨宿りに誘う。その瞬間に"先輩が濡れないようにしたかった"と伝える。これは“守る姿勢”を見せる絶好の機会だぜ!」
ケンが冷静に分析する横で、タケルがメモを書き殴る。モンタは自分の顔がさらに熱くなるのを感じながら、思わず二人ににツッコんだ。
「二人とも!どんだけ、シミュレーションを考えるの!?流石に、僕の心臓がいくつあっても足りないよ///!?」
基地内に笑い声が響く。モンタは顔を赤くしながらも、タケル、ケンの二人が真剣に考えてくれていることに、どこか温かいものをモンタは内心、感じていた。
「はぁ~…まぁ、わかったよ。二人がそこまで言うなら、僕もちゃんと考えてみるよ」
モンタが自分でそう言いながらも、少し照れくさそうに笑う。
「さてと、今日のところはこの辺にして、明日は、いい天気になるといいなー」
タケルが映像の外の景色を眺めながら、そんな事を呟くと、二人がそれに促すように「だね〜♪」「そうだね」とそれぞれ呟き、小さく頷く。
少年たちは明日という日を平和な日常は、まだまだ彼らを見守っているようだ――。




