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超次元勇士ゾーンG(グレート)ロボ  作者: 道化師
第三章次元獣総進撃編 ―前編―
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五月の風と、愛先輩と歩く、夕暮れの帰り道。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


身体測定を終えた達成感と、体力テストの疲労が心地よい気だるさとなって肩に乗っていた。お昼休みにクラスの皆と給食を食べ、午後の授業を終えると、教室を包んでいた喧騒が、少しずつ静かな下校の準備へと変わっていく。


「あー疲れた〜…」


モンタがそうぼやきながらも、ランドセルを背負い、それを見ていたタケルとケンはお互いに顔を見合わせ、苦笑しながらランドセルを背負い、三人揃って教室のドアへと向かった。


廊下に出ると、夕暮れ時の淡いオレンジ色の光が、窓から差し込んでいた。階段の方へ歩みを進めようとしたその時――。


「あ、タケルくん、ケンくん、モンタくん!」


廊下の向こうから響いたのは、鈴を転がすような愛らしい声。振り返ると、そこには少しだけ髪を揺らしながら、淡いパステルブルーのフリルブラウスに、動きやすい膝丈のデニムスカートという爽やかなコーディネートに加え、首元には華奢なリボンタイが揺れ、少し大人びた雰囲気を醸し出している、私服姿の愛先輩が立っていた。

どうやら六年生の教室がある上の階から、わざわざ階段を降りて来てくれたようだ。


「愛先輩? こんなところでどうしたんだ?」


タケルが驚いて尋ねると、愛先輩は少しだけ頬を上気させ、嬉しそうに微笑んだ。


「ううん、今日一日なんだか気分が良くてね。身体測定も終わったし、なんだか三人の顔が見たくなっちゃって。良かったら、帰り道まで一緒に歩いてもいいかな?」


「え"っ……!?」


モンタの口から、驚きとも歓喜ともつかない奇妙な音が漏れる。タケルとケンも、予想外の展開に目を丸くした。

いつもなら同じ六年生のクラスの女子グループと賑やかに帰って行く、愛先輩がわざわざ五年生の教室まで足を運び、一緒に下校したいと言ってくれるなんて、逆にモンタとっては心臓が飛び出るほどのサプライズだ。


「もちろん、いいぜ! 愛先輩と一緒に下校するなんて、滅多にないからな。な、モンタ〜」

「う、うん…///」


タケルが即座に答え、モンタの方にも振るとモンタも少し照れくさそうに応じる。こうしてタケル、ケン、モンタの五年生の三人と少し背の高い六年生の灰坂愛という、夕暮れに溶け込む珍しい四人横一列に昇降口へと向かう。


昇降口で上履きを靴に履き替え、校門を出る。五月の夕風は心地よく、街路樹の葉を優しく揺らしていた。いつもなら三列で肩を並べて歩く彼らだが、今日はその列に愛先輩が加わっている。


「ねえねえ、三人とも、今日の身体測定の記録はどうだったの? 去年より伸びてた?」


愛先輩がくるりと振り返り、三人を覗き込むように笑う。その無邪気な問いかけにタケルが先に口を開いた。


「俺は、二センチ伸びたぜ! 背が伸びると、なんだか大人に一歩、近づいた気がするぜ。えへへ♪」


「何言ってんだか。その点、僕はまあー…予想通り、ぼちぼち成長してますよ」


タケルとケンがそれぞれ誇らしげに報告する。愛先輩は「へー、すごいすごい!」と手を叩き、まるで自分のことのように喜んでくれる。彼女の屈託のない笑顔を見ていると、これまで次元獣絡みで色々と頑張ってきた疲れが霧散していくような気がした。


そして、愛先輩は少しだけ悪戯っぽく微笑んでから、自分の私服の胸元あたりを指先でチョンと触れた。


「私もね、身長だけじゃなくて……なんだか、色々と成長しちゃったみたい。最近、お気に入りの服が少し窮屈でね///」


その言葉が、モンタの脳内に衝撃波となって突き刺さった。


(ぐっ……! 愛先輩、ちょっと恥ずかしそうにしながらも自分から、言うなんて…///だが、そこがまた、か、可愛い…!) 


モンタの心の中では、今まさに史上最大の《"理性"》と「《"恋心"》によるデスマッチが開催されていた。


(い、いいのかボク///……! 愛先輩が今、そんな無防備な言葉を、この至近距離で……! あぁ、その恥じらう表情、少し赤らんだ頬、そして少し窮屈と言う、愛先輩///…!!)


モンタの瞳孔は小刻みに揺れ、呼吸は荒く、心拍数はすでに限界突破寸前だ。愛先輩の隣を歩くというこのポジションは、モンタにとって聖域(サンクチュアリ)でもあるのだ。モンタは握りしめた拳をズボンのポケットに突っ込み、爪が食い込むほどに自分を律した。これは単なるスケベ心ではない。これは、自分を押し殺して紳士を演じる、壮大な初(・)恋(・)の(・)修(・)行(・)なのだ。


そんなモンタの心臓が今にも爆発しそうな葛藤など露知らず、愛先輩は楽しそうに話を続ける。


「もうすぐ夏だしね。みんな、背が伸びると今まで着てた服が小さくなっちゃうでしょ? それって、なんだか素敵なことだと思わない? 少しずつ大人になっていく証拠だもんね♪」


愛先輩がキラキラとした瞳でそう言うたびに、モンタの心臓はドラムを叩くような激しさで鼓動する。


(素敵なこと……だと……? 愛先輩、その言葉一つで、僕の人生の価値観が根底から覆されそうです! ああ、この人がどうしようもなく好きすぎて、今ここで地面に伏して叫びたい! でも言えない! 僕にはまだ、愛先輩の隣を歩く資格なんて……///)


モンタは顔がタコのように真っ赤になっているその様子を、愛先輩の反対側、並んで歩くタケルとケンは、横目で冷ややかに観察している。


「ねぇ、タケル、モンタ方を見て。モンタのやつ、内心、色々と自分自身で葛藤をしてる顔をしてるよ…」


「みたいだな。アイツ…顔を真っ赤かにしながら、耳から今にも煙が噴きそうだぜ。あいつの視界にはもう愛先輩しか映ってないみたいだなぁー」


ケンとタケルはモンタの様子を見て、呆れを通り越して哀れみすら抱いていた。


すると愛先輩はふと、歩調を緩めてモンタの方を向いた。


「ねえ、モンタくん? さっきからずっと黙ってるけど、もしかしてどこか体調が悪いの? 顔が真っ赤だよ?」


愛先輩が心配そうに、モンタの顔をグイッと覗き込む。彼女の香水の甘い香りが、モンタの嗅覚を容赦なく襲う。


「っ!!?!?///」


モンタはあまりの接近に、思わず、ビクッと体が反射的に動いた。


「だ、大丈夫大丈夫! どこも悪くないから!うんうん///」


モンタはうまく誤魔化し、必死に顔を背ける。愛先輩は目をぱちくりとさせ、それから「ふふっ」と優しく笑った。


「モンタくんって、面白いね。いつも真っ直ぐで、元気で。そんなモンタくんを見ていると、私もなんだか元気が湧いてくるよ」


(――っ!!)


その言葉が、モンタの魂に直接突き刺さる。“元気が湧いてくる”。愛先輩が、自分の存在をそんな風に思ってくれている事に内心、嬉しく感激していた。


モンタは深呼吸をし、ポケットから拳を出し、ゆっくりと愛先輩を見つめ直した。


「あ、愛先輩!」

「ん?」

「僕……! 将来、お父さんみたいな立派なプロレスラーになりますから! だから…その、これからも、ずっと、ぼ、僕のこと、一番近くで見守っていてください!」


モンタの瞳には、迷いがなかった。それはいつものモンタではなく、一人の少年の真剣な眼差しだった。

愛先輩は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を緩め、慈愛に満ちた柔らかな微笑みを浮かべた。


「流石にずっとは無理かもだけど、ふふふ♪モンタくんがお父さんと同じ、立派なプロレスラーの男になれる姿が見れるまで、それまではいつか、楽しみにしてるね♪」

「…ッ!う、うん!」


夕陽が、四人の長い影をアスファルトに刻み込んでいく。


愛先輩の言葉が、モンタの心に深く刻まれた。今はまだ、自分の恋心を打ち明けることはできない。けれど、愛先輩の隣を歩くこの距離こそが、自分にとっての最大の報酬なのだと、モンタは確信した。


一方、タケルとケンは並んで歩くモンタのあまりの挙動不審ぶりに、あえて肩をぶつけたり、わざとらしく大きく溜息をついたりしてみせたが、全く、こちらの反応には応えない。

三人組の温度差など全く気づいていない様子の愛先輩は、住宅街の角を曲がると、西日に染まる街並みを眺めてふと足を止めた。


「あ、ここでお別れね。今日は一緒に帰ってくれて本当に楽しかった。三人とも、また明日学校でね!」


愛先輩がくるりと振り返り、先ほどと変わらない眩しい笑顔で手を振る。モンタは心臓が口から飛び出しそうになるのを必死に抑え、なんとかひねり出した精一杯の紳士的な声で返事をした。


「…は、はい! ま、また、明日学校で!」

「うん、バイバイ!」  


愛先輩は軽やかな足取りで自宅の方へと歩き出した。その背中が完全に角を曲がって見えなくなるまで、モンタは直立不動の姿勢で固まっていた。空気が静まり返り、夕暮れの空に飛んでいるカラスが遠くで鳴き響く。


モンタが「ふぅ…」と深い溜息をついて肩の力を抜いた瞬間だった。


「……モンタ」


背後から低く、ポンッと、モンタの肩に手を置いて冷ややかな声を出すケン。


「え、あ、な、なに…?」


モンタが振り返ると、そこには両手をポケットに突っ込み、溜め息を吐き、やれやれといった顔をするタケルと、冷ややかなジト目でモンタを凝視するケンが立っていた。


「身(・)体(・)測(・)定(・)の(・)記(・)録(・)、(・)去(・)年(・)よ(・)り(・)伸(・)び(・)て(・)た(・)?って、聞かれた時、モンタ、最後の方、返事になって、なかったよね?」

「ていうか、愛先輩が胸元のこと言った時のお前の顔、思いっきり、鼻の下のばしてんの、自覚あるか?」


タケルが的を射るような指摘と、ケンの容赦ない追及に、モンタは再び顔を真っ赤に染めた。


「んなッ!?///べ、別に僕、愛先輩に対して鼻の下なんて、伸ばしてないからね!なんていうか、その……///」


モンタは必死に弁明したが、声は上ずり、再びまた、茹でタコのように顔を真っ赤に染まる。その必死な姿に、タケルは呆れ果てて肩をすくめた。


「じゃあ聞くけどよ。愛先輩が胸元の窮屈さを口にした瞬間に、愛先輩の胸元を二度見したの、俺とケンはしっかり見てたぜ?」


タケルの追い打ちのような一言に、モンタは「グッ……!」と喉を詰まらせ、その場に崩れ落ちた。


「…ま、その、なんだ。今日は僕らも驚いたよ。愛先輩がわざわざ五年生の教室まで来てくれるなんて、珍しい事だからさ」

「そうそう。ケンの言う通り、モンタが舞い上がるのも、正直分からなくはないぜ。にひひ♪」


ケンはモンタにそう言って、表情を和らげ、タケルはそのフォローをし、モンタは気まずそうに顔を上げた。夕風が、住宅街の垣根を通り抜けて、モンタの火照った頬を心地よく冷やしていく。


「……ごめんよ。なんか僕、今日はずっと愛先輩の前だとつい、変に張り切っちゃって」

「別にいいぜ。お前が愛先輩の事が好きだってことぐらい、俺もケンも知ってるしな」


タケルがニカッと笑い、モンタの背中をポンと強く叩く。それは友情の証であり、夕暮れの光が、三人の少年たちの顔を柔らかく照らす。


「さて、と。明日も学校あるし、いい加減、立ち止まってないでそろそろ帰らないとな」

「だね」

「あ、ま、待てよ〜!」 


タケルとケンはそう言い、軽快な足取りで歩き始め、モンタも慌てて立ち上がるなり、二人の背中を追いかけた。

夕闇の迫る住宅街で三人の賑やかな声、そして影を長く引き伸ばし、三人の少年たちはそれぞれの家路へと向かう。五月の風は、少年ら三人の青春の香りを乗せて、どこまでも心地よく吹き抜けていった――。













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